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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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闘技大会間近の出来事


 5月21日

 退屈な時間が多い白夜の黒三日月魔法商店は退屈と言う名の探求の日々を過ごしていればあっという間に今年も闘技大会の時期がやってきてしまいました。

 時の流れはなんて早いのでしょう。


 その時間の流れに対してオリビアとアリスの成長はあまりよくありません。

 種族的なもので魔法の適正が低いと言われれば仕方ないかもしれませんし私もそう思っていますのでのんびりやっています。


 一応問題もありましたが、それはこの2人じゃなくてセリスですね。

 とうとうお客をしばき倒しましたよ。

 セリスの方は趣味でやっている有無を書いた注意書きを目立つように貼っていて、気分次第で営業時間どころかやる日すら不定期なんですよね。

 内装もセリスの趣味でごった返していて店と呼んで良いのか疑問に思うくらいぐちゃぐちゃで、今のところ最低でも週三日は営業しているのがせめてもの救い……なのでしょうかねぇ……?


 そんなセリスの趣味で溢れかえった場所に、店を開いてれば時折現れると言う噂の異常に傲慢な態度をした人が入ってきました。

 その人はかなりのスピードで冒険者ランクを上げている彗星とまで呼ばれている人で、自惚れてしまったのでしょうね。

 実際かなり強い人でしたよ?

 セリスがわりと本気で放った魔法の一撃をモロに受けても死ななかったんですから。

 覚醒した人って皆凄いですね。


 その騒動であれだけ魔法を重ねて強固にした壁が吹き飛ぶなんて事態がありました。

 壁は吹き飛びましが数分もあれば修復できますし、その冒険者以外に怪我人は出ませんでしたのでただの喧嘩という話で終わりました。


 正直、喧嘩で終わった事に関しては驚きですね。

 何この無法地帯と思いました。

 けれど冒険者の町とまで言われるレドランスにとって真っ向からの魔法の放つ行為が喧嘩の範囲で収まったならばお咎めなしだそうでして、現場を間近で見ていた冒険者のアリスとその妹オリビアも「かなり派手だった」くらいのコメントしか残さず普通の出来事だと受け入れていました。


 そんな事より今は闘技大会ですよ!

 飲食店や普通の商店の稼ぎ時、闘技大会開催期間は誰が優勝するかで大金がばら蒔かれ人によっては何年もの貯金を溶かしてしまう身を焼き尽くすような波乱万丈な時期でどこもかしこも稼ぎ時です。


 そんな時期となれば私達は当然。


「冷やかししか来ませんし暇なのでしばらく店を閉めましょうか」


「えっ?」


「まあ魔法商店の稼ぎ時は大会が終わってからですからね」


 営業時間終了間近、誰も客が居なくなったカウンターで魔法書を書きながらポツリと溢せば横で在庫整理をしていたオリビアが苦笑しながら同意してくれます。

 アシュリーは困惑していますがしりません。


 という事で明日からしばらく休みましょう。


「ところで、何でうちはこんな時期までやっていたんですか? 他の魔法商店はとっくに店閉めてますよね?」


「うちは他の魔法商店と違って立地がメイン大通り近くだから先人達とは条件が違うから同じ結果に100%なるとは言い切れませんので、試しにしてみました。

 魔法もそうですけど決め付けは進歩の妨げにしかなりません。

 何事もリスクと見合わせ何の問題もないと判断できたなら試してみるというのも良い経験になりますからね」


「なるほど」


「それなら私今日は本気で要らなかったんじゃないの?」


 なまりがかなり強いものの最近ようやく標準語になってきたアシュリーが聞いてきたけれど、別に深い理由なんて無いんですよね。

 ただそれだけ安定しているというだけで。

 うちの商品は安いと言っても魔法具としてはという話ってだけでして安くはありません。

 そして値段の殆どは人件費と技術費と税金ですし必要な材料はパッと取ってこれるので。

 むしろ採取が困難で自分達が行った方が早く、確実に取れてしまうんですよね。

 しかしマトモに答えても計算の苦手なアシュリーには理解できないかもしれませんし面倒なので適当に答えときましょう。


「教授と手羽先がかわいいから」


「なにその答え!?」


「さて」


 冗談は置いといて生々しい返答をするのも嫌なので適当にあしらい本を閉じ、店を閉めようとカウンターを出ようとした時の事。

 扉が開く音がしたので仕事モードへと即座に頭を切り替える。


「先生~。お客さんだよ~」


 切り替えた矢先のアリスの声。

 本気を出せば誰がやって来たかなんて分かるのですが、セリスじゃあるまいしずっと注意を払うなんてできません。

 それ以上にお客相手に失礼ですよ。


「なんだアリスですか」


 まあ一応お客なんですけど私とアリスは軽口を言い合うくらいには仲良くなっていまして、アリスも軽口で返す。


「なんだって酷いなメリル先生~。

 それにお客さんって嘘じゃないし」


「お客さん?」


「そうみたいだね、久しぶり」


 ニュッと背後から私の前に出るセリスにビクリと体が跳ねる。

 なんというか……セリスは益々魔力の扱いが上手くなってますよね。


「お~う、久しぶりだなセリス。そしてメリル」


「………もしかしてターニャ?久しぶりですね」


 声だけ聞こえて姿を出さないので出入り口の方に顔を覗かせる。

 そこには確かにターニャの姿が………


「………どこから拐ってきたんです?」


「私の子だ。相変わらず反応薄いよなぁ~」


 ターニャの背中に1人、両手に1人の赤ん坊が………


「え?ちょっと待ってください、少し考えます」


 ターニャと別れたのが7月です。

 ヒューマンが出産を迎えるまで10ヶ月……だったような………

 ドリーミーは7ヶ月のかわりに小さいです。

 というか相手は……


「メリル。考えるのは後にしてとりあえず上がってもらおうよ」


「……………そうですね!上で話しましょう」


 店を閉め、ターニャがセリスと会話している姿を見て相づちを打ちつつ考える。

 夫はエルフ貴族のハリーさんだとして……あ、この子少し耳が長い。

 そうじゃなくて、エルフの出産は確か……えっと………そう、4ヶ月だったはずです。


「さっき返しましたけどまたクロエちゃんまた持ちましょうか?」


「あぁ助かるよ。軽いけどずっと抱くのは疲れるからなぁ。

 セリスもジャンヌ抱いてみるか?」


「いや……なんというか、せっかく寝てるのに起こしてしまうというか……メリルですら接し方に困った私がこんな弱いの触れてしまえば……蒸発しないかい?」


「怖がりすぎだって。興味あるなら持ってみなよセリス師匠」


「お……おぉ………」


 そしてエルフは一定の大きさまでの成長がかなり早いと聞いたことがあります。

 2ヶ月もすれば立ち上がるとかなんとか……


「ターニャ、この子メリルの妹のアシュリーちゃん」


「は……初めまして………」


「この人見知りっぽい具合がたまらなく可愛いだろ」


「相変わらずメリル贔屓(ひいき)してんな。

 この子は強くなる前のメリルと同じで普通だな」


 耳が少し長い所からハーフヒューマンだと仮定して、4と10の間で7ヶ月半が出産だと仮定し………いや、ここはやはり6ヶ月だと仮定しましょう。

 赤ちゃんではあるけど生まれたてと呼ぶには少し大きいですし……だとしても早すぎません!?

 私達と別れてからいつ手を出しましんですか!?

 それともターニャが食べられちゃったの!?

 前者はともかく後者は全くイメージできません……


「はい、紅茶とマドレーヌですよ」


「覚醒しても考え事しながら動くの悪い癖治ってねぇなぁ。

 一目見て誰だかわかんないくらい変わったってのにメリルはメリルだな」


 私がお皿を置くより早く盛り付けていたマドレーヌを取り口に放り込んだ何も考えていなさそうなターニャを見てため息が出た。


「手紙にそんな事何も書いてくれなかったのによく言いますよ」


「驚かせようと意図的に書かなかったからなぁ」


「むぅ……なんかそうやって言われるとハリーさんの身に何があったか心配しているのが馬鹿みたいじゃないですか。

 いつ子供ができるような事したんです?」


「チャチャっと生態系崩してくれてるドラゴン狩ってAランクまで上がったその打ち上げの勢いでハリーが可愛いこと言い出すから事が済んで気が付いたら孕んでたんだよなぁ」


 やっぱりターニャが食べたのですね……


「いやぁ、男のくせにひょろっこくて情けないなんて思ってたけど可愛いんだよなアイツ。

 たった5ヶ月半くらいで出産まで行って抜け出すのも大変だった」


「なるほど、仮にも貴族だからね。

 できてしまったからには家族間で大変な事にあるだろうね」


「そうそう、あんま生々しい事この子らに見せたくないからよ。

 生後3ヶ月で見た目はまだ赤ん坊だけど十分すぎるくらい歩くんだぜ二人とも。

 このスピードで成長してたら自我が芽生えるのも早そうだし、場所を記した置き手紙だけ残して逃げてきたんだよ。

 という訳で匿ってくれよ」


「別に構いませんけど……」


 生々しい事って何でしょう?行き過ぎた口論?

 う~ん……ぼんやりとした内容しか思い付きませんね?

 そもそも貴族って生き物は1から10まで血筋って考えが正常でターニャみたいなのが稀だと話を聞きましたし、ターニャとしては貴族としての生き様を見せたくないのでしょうか?


「触っても良いですか?」


「良いぞ」


「ありがとうございます」


 あ、思ってたよりずっと柔らかい。

 ………3ヶ月かぁ。

 間近で見ると赤ん坊は思ったより小さく、この短い足で本当に歩き回るのでしょうか?

 歳の差を考えればアシュリーがこれくらい小さかった頃を見ている筈なのですが、教授と一緒に大きくなっていったくらいの印象ばかりであまり良く覚えていませんね。

 ………本当に、大きくなったなぁ。

 アシュリーより教授の方が1歳年上なんですよね。


「ん?……お姉ちゃん、なんで私と教授見比べて懐かしんでいるの?」


「アシュリーいつからそんな正確に感情を読み取れるように?」


「お姉ちゃんが露骨すぎただけだよ」


 手羽先を頭に乗せてるアシュリーが片手に乗せてた教授を帽子スタンドに移している姿に目を移したら指摘されてしまいました。

 小皿に収まるくらい小さかった2代目教授がこんなにも立派になって……


「この子も教授くらい立派に育つと良いですね」


「クロエもジャンヌも女の子だからな」


「失礼な、手羽先は男の子ですが教授は女の子ですよ」


「あの、ターニャさんは美人ですし、二人とも教授くらいの美人さんに絶対なりますよ」


 ターニャのそんな困った表情初めて見ましたよ「美人……?」とかなり困惑していますね。

 私のは完全に冗談混じりでしたが、アシュリーはかなり鳥好きですからね。

 そうでもなければここまで堂々と美人さんだなんて言えませんよ。


「うん……こうして見るとアシュリーはメリルとそっくりだな」


「え?」


「そうだろう?可愛いだろう?」


「うちの子のが可愛いだろ。さっきから離さないし」


「それは可愛いのベクトルが違うんじゃないかい?

 最初怖かったけど今は普通に可愛いと思うよ。

 起きたらどんな感じなんだろうね」


「そりゃ~真っ先に大泣きするに決まってるだろ」


「そ……そうか…………そうしたらどうしたら良い?」


「急にぎこちなくなったな。こう……自然に持って軽く揺らしてみたり高く上げてみたりあとは………」


 と、その後は赤ん坊のあやし方講座が始まり、本当に起きてしまってセリスが必死にあやそうと振り回される姿が印象的でしたね。

 クロエちゃんが泣き出してそれに共鳴するようにジャンヌちゃんまで泣き出して大変でしたよ。


 その大変なのもお夕飯の買い物に出ていたミューズとレーナが戻ってくるまででしたね。

 ミューズが少し変わった発音というのでしょうか……少し変だったけれど暖かな魔力を帯びた言葉を発すると大人しくなったんですよ。

 ミューズ曰く「心が悲しいから暖かくなるよう話しかけた」らしいです。

 なんとなく言いたい事は分かるのですが、魂で人を識別できる種族ですからね。

 私の場合もっと深いところまで見れるのですが、そもそも集中しないと魔力と違って魂までは識別できないんですよね。

 ミューズは私が常に魔力を察知してるのと同じで常に魂を察知している種族なんだと理解できました。


 それからしばらく時間が経ってお夕飯の時でしたね。


「そういえばメリルは闘技大会申し込んだよな?

 私は出られないけど」


「………はい?」


 自分の食事を中断し母乳を与えていたターニャが不意にそんな事を話しかけてきた。

 なんかターニャが来てから畳み掛けるように不意打ちをされている気がします。


「いやいや、メリルは冗談抜きで強いじゃんか。

 セリスが出るだろうから優勝はできないだろうけど、メリルが作った魔法具を積極的に使って実用性の証明と宣伝になったりするんじゃないか?」


「ですが実戦で使うよう魔法具はそんな沢山ありませんよ?

 ましてや対人なんて想定していませんし」


「そういった魔法具が無くてもメリルの魔法技術の高さを見せられればそれで良いんじゃないかい?」


「メリル様も出ようよ!私も出るし!」


「えぇ……」


「出ないの?きっと楽しいよ?」


「う~ん……少し考えさせて」


 その後ミューズが駄々こねはじめてあっさり折れる事になりました。

 身内から明確な利点を提示されると弱いですね私って。


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