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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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店の日々と少しの変化


 1月17日

 店を開いてから一週間と少し、店に訪れる人が徐々に増えていった事によってミューズが自主的に店の中で接客する時間が増えました。

 まあ外の巡回はいつも通り行っていたんですけどね。


 ミューズは冒険者はもちろん民間から門番まで幅広く顔が利き、態々お爺ちゃんが孫を愛でるかのような気持ちでミューズの熱心な説明を聞きに来たという事もありましたね。

 他にもほぼ冷やかし同然の相手でも全く嫌な雰囲気を出さず、むしろ話を聞いてくれるだけで嬉しいという雰囲気を全面に出しながら丁寧に説明するミューズは天才なんだと前の私なら絶対にしなかっただろう評価をせざるを得ません。


 勘違いしてしまいそうな言い方をしてしまいましたが、そのお爺ちゃんはマジックマーカーを10本も買ってくれて1本はミューズにプレゼントしていたので冷やかしなんかじゃありません。

 これもミューズが自然と聞き出した事なのですが、皆に渡す為にまとめ買いしたらしく、その内の1人がミューズだっただけだそうです。

 貰った時の愛嬌の振り方もまとめて買った時に何故買ったのか聞き出したのも狙ってでなく素でやってるんですからミューズは天才です間違いありません。



 ・



 1月21日

 セリスの方に人が増えましたが私の方は特に変化の無く安定してきて客の少ない時間に話しをしてくれる人もできた今日この頃。


「メリル様」


 店の状況が完全に安定し、最後のお客様を送り慣れた手付きで入り口の札を営業終了へと変えようとしている時の事、背後からミューズに声をかけられる。


「ん?なあに?……って、その子は確か……」


 振り向けばミューズの一歩後ろに平均的な顔立ちをした成人前くらいだろう茶髪の女の子が立っていて、その子の緊張した魔力の気配から自然と目が行く。


「そう、オリビアちゃん……でしたよね?」


「はい、オリビアです。メリル様のような方に覚えていてもらえて光景です!本日はメリル様にお話しがあって来ました!お時間よろしいでしょうか!?」


 確か服屋の娘さんをしているんでしたよね。

 店での対応もお手伝いでしていたのかギリギリ合格をあげられるくらいの仕草はできているという印象を受けましたが、ミューズの友達を相手にすぐそんな考えに至ってしまった事に私は苦笑する。

 すぐ自分の物差しだけで計ろうとする癖は直さないといけません。

 ミューズが友達と認めたのですから、悪い子に騙されたりしない限りはミューズの好きなようにさせましょう。

 しかしその前に……


「あ~……ミューズが様付けで呼んでるのは種族としての部分でね、尊敬に値すると認めた相手には様付けせずにいられないだけだから様は付けないでくれると嬉しいかな」


「そう……なんですか?」


「ええ、本当はミューズにも呼び捨てにしてほしいのだけど……」


「やだ!」


「ほら、こうやって聞いてくれないんですよ」


「……ミューズちゃんが断る所初めて見た」


 余程意外だったのでしょうね。

 実際私もミューズから断られた事あるのは様付けを無くしてほしいというお願いだけですからね。

 ミューズは基本何でもしますし何でも食べます。

 食べてみなければ美味しいか不味いか分からないから、やってみなきゃできるかどうか分からないからってミューズ本人は言っていて初見の事は基本何でもやりますね。

 だからこそ危険な事に巻き込まれそうな気がしたので予め例として教え、それに当てはまるようなら全力で逃げるよう教えてあります。

 そんなミューズの事は置いておくとして、オリビアちゃんですね。


「とりあえず立ち話もなんですし入りましょうか」


「はい、お邪魔します」


 なるべく固くならないよう冗談も交えつつて話をし、彼女の緊張を和らぐことができた事にほんの少しの成長を覚えつつ2階へ上がりお茶を3人分用意します。

 セリスもレーナもいるのですが、オリビアちゃんが緊張してしまわないよう同席しないよう伝えておきました。


「あの、私はここ最近、少しメリルさんのお店の評判なんかの情報をいろいろ集めていました」


 席に付いてお茶に一口付けてから何の脈略もなくそう言ってきた。

 本当にいきなりで、私はきっと唖然とした感じで端から見れば間抜けな表情にも見えたかもしれませんね。


 格上の商人に品定めされるように私の情報を話すよう会話の中で誘導されていたり、こちらから仕掛けた商談の後私が町を出るまでの間に信じられない程の情報を集められて今度は向こうから商談を持ちかけるなんて経験ばかりで年下の、それも成人してなさそうなオリビアちゃんがそんな行動をしていた事に素直に驚きました。


「あ、いえ!悪い所を探ろうとした訳では決して無く!

 ミューズちゃんが楽しそうだからというだけで働かせてくださいと頼むのは失礼だと思いまして!

 あ、いえ、その、もし宜しければここで働かせてください!」


 心の中でなるほど。と1人緊張の理由なんかを納得しているうちに席を立ち深々と頭を下げるオリビアちゃん。

 その言葉を聞き、ミューズから大家族で冒険者の兄や姉が居るというのを思い出し商人にとって基本中の基本である下調べができるのだと感心する。


「少し失礼。……座っていて良いですよ?」


「あ、はい………」


「大丈夫、そんなに不安にならないで。

 私としては良いと思ってるから」


「えっ……」


 とりあえずオリビアちゃんには座ってもらい適当に廊下に顔を出して声を掛ける。


「セリスー。少し良いですかー?」


「ん~?別に構わないけどどうしたんだい?」


 お風呂上がりなのでしょう、薄着でタオルで髪を拭きながら自室で過ごしていたであろうセリスが来てくれました。

 一瞬セリスの姿にギョッとしかけましたがセリスには気付かれたのでしょうね。

 私の様子を見てクックと喉を鳴らして笑うので少しムッとした。


「セリス~?いくら女性だけとはいえその格好はだらしなくありませんか?」


「自室で過ごしている分には別に構わないだろう?

 それに、なるべく早めに来てほしそうな気がしたから仕方なくね」


 トントントンと指でセリスの胸と首の間の辺りをつつきながら指摘するとくすぐったそうに正論を言うので止めてあげます。


「そこは正解ですから止めますけど気を付けてくださいね?

 ミューズが真似してしまいますよ。セリスと違ってミューズなら異性の前でも平気でやってしまいそうなんですから」


「む……あぁ、そうだね。なら次から気を付けるよ」


 急に真面目な表情をして深く頷き魔法で水気を消し、クイックチェンジで着替える。

 セリスが納得してるという事はセリス目線でもミューズはやりかねないという事ですか。早めに指摘しておいて良かったですよ。


「それで用件ですけがこの子を雇おうと思うのですけど……まだ成人ですよね?」


「はい、3月3日には成人として扱われるのですぐですけど」


「ですって。と言う事でセリスからも意見を聞こうと思いまして」


「ふむ……なんかメリルらしくないんじゃないかい?

 うちはそんなに沢山雇える余裕は無いから、てっきり人員はもっと慎重に選ぶものだと思っていたよ」


 おぉ、セリスが本当に分からないと言いたげに驚いています。

 これだけでもある意味大きな収穫ですね。


「えぇ、そのつもりでしたけどもちろん理由はありますよ。

 まずミューズが更にやる気になってくれるでしょうから、これで利益に直結するでしょうね。

 それに、私は自分の才能を疑わないのと同じようにセリスの才能もミューズの才能を疑っていませんので」


 私は自分の羽が見通す世界を疑いません。

 セリスのような例外も居ますがそれは初めから遭遇した時点でお仕舞いなので考慮しないとして、覚醒をした事により自分の才能に対する信頼は揺るがないものとなっています。

 それは他人の才能でも同じです。

 私はドリーミーとして人の理性や感情を読み取るのが得意で、ミューズはスカーレットミーティアとしてその人の本質的部分を読み取るのが得意なのだと思っています。

 そしてその才能は私よりも先にあのセリスが認めたのです。

 人の心理をその洞察力で見抜く事のできるセリスが。


 だからこそ一度セリスから目線を外し、ミューズを信じてしっかりと目を合わせて確認をする事にした。


「ねえミューズ。確認だけどミューズは仲の良い人が沢山いるけれど、その中でもオリビアなら良いって思えたから手助けしてるんだよね?

 他の誰でも良いとかじゃなくてオリビアなら大丈夫だって」


「うん。オリビアちゃんの魂は落ち着く感じするから。

 少しひねくれてるけど」

「ちょっとミューズ!?」


 たぶん……普通ならマイナスな印象だって事もわかってて言っているんでしょうね。

 うん、ミューズの評価を変えてから良く分かります。

 セリスの言っていた『根は子供だけど大人びた決断ができる』という事を。


「なら良いんじゃない?

 ただ、うちは魔法商店だから他とは違う所もあるのでそこを了承してもらう必要があるのと、成人するまで1ヶ月ですし練習の意味も込めて手伝いでもしてみない?

 正式な雇用じゃないからお小遣いとして月給コレくらい出すけど」


 指2本立てて見せる。

 必要無い気もしますが解からない事は解らないと言えるかどうかのテストです。知ってそうな気はしますけど。


「え……そんなに?あっ、ぜ、是非お願いします!」


 残念、知っていましたか。

 教える手間が省けたので良かったですけど。


 オリビアちゃんが驚いている理由ですが、今回のようにお手伝いと言う名の仮の従業員として雇うというのは珍しくありません。

 ただ、コレは給料払わない代わりに技術の提供と材料費などのその他費用を店側が受けもうというのが普通で、銀貨2枚も出すなんてそうそうありません。


 では何故私が払うかと言うと、信用をお金で買っているんです。

 私の店は新米も新米。生まれたての子羊のように足をプルプルさせているというのが世間から見たうちの印象でしょう。


 しかし実際は軽くコレくらいなら出せる余裕がありますよ。

 娘さんのお手伝いは普通の手当てに加えてこれだけのお金を出す価値はあると私達は思っていますよと相手側に伝える意図があります。


「それでオリビアちゃんはいつから入れます?」


「明日からでも!」


「明日からですか。では細かい事を決め書類は持ち帰ってもらい親御さんに書類へ目を通してもらって許可をもらってきてください」


「はい!わかりました!その、ありがとうございます!」



 ・



 1月22日

 今日は私が洗濯当番なのでいつもより早起きして作業を終えた頃にはセリスが朝食をほとんど完成させています。

 料理に関してはセリスが上手すぎて誰も代わりができないんですよ。

 手伝いをしたり教えてもらったりはするのですが、それくらいで縮まるような腕前の差ではありません。

 油の跳ねる僅な音の変化なんかで判断するなんて言われても分かりませんって。聴力に優れているミューズでも分からないと諦めた所を何で仮にもヒューマンのセリスができてしまうのでしょう?


 朝食を終え、昨日在庫が少なくなってきた商品がある事を思いだして作業に取りかかるとあっという間に時間が過ぎて来客を知らせる鐘の音が響く。

 約束の時間より少し早いとので疑問に思いつつ魔法具が正常に作動しているので扉を開く。


「あれ、アリスさん?」


「や、おはよう店主。朝早くからごめんね」


 軽い調子で挨拶してきたのは冒険者を生業としている猫系のワービーストであるアリスさん。

 今頃町を出てダンジョン攻略しに行っているだろう時間だろうに。


 セリス曰くダンジョンは一匹で貪欲に強くなろうとする個体。

 成長する事に飽きドラゴンのように強く、最早自分の縄張りの中に侵入した獲物にすら興味が薄い個体。

 その強大な個体の回りに群がり安全を得ようとする個体。


 大雑把に分けてしまうとこの三種類の個体でダンジョンの性質は全て説明ができてしまうらしいです。

 冒険者の町であるレドランスの中心にはその強大な力を持つ個体の入り口が存在し、その周囲に甘い蜜を啜る小さなダンジョンがいくつか存在する訳です。


 アリスさんは実力的に町の外にあるダンジョン専門な訳で、本来なら今頃外に出ている時間です。


「それは別に構いませんけど、どうしました?

 いつもなら外に出てますよね?」


「そうだね、今日はしっかりお礼言っとこうと思ってさ。

 昨日喜んでたんだけど妹を雇ってくれてありがとうってさ」


 妹?妹………話の流れ的にオリビアちゃんしかいませんよね?

 つまりそれは……


「その……聞きにくいのですがアリスさん養子だったんですか?」


 別に養子である事は珍しくも何ともありませんが、それがコンプレックスの人も確かにいるので聞きにくいですね。

 しかし雇う限りは目に見える範囲だけでも従業員の情報を知りたいのも事実ですし、オリビアちゃんの家は近所ですので尚更……はぁ、難しいですねぇ………


「え?いやいやいや、うちはみんなハーフだよ?

 ただ血が濃かったり薄かったり極端なだけでさ、オリビアだってあんなだけど暗いとこ行くと目が光るんだよ?」


「あぁなるほど。確かにありますよねそういうの」


 そこまで極端じゃないですけどドリーミーとしての血は私が濃くてアシュリーは薄いですからね。


「しかしお礼を言われる程の事は何もしていないと思いますけど?」


「いやいや、魔法商店って人手そんな要らないから雇ってもらえないじゃんか。

 成人間近で魔法商店ができるなんてオリビアは本当にラッキーだったよ。

 私もなんだけどさ、魔法に関心はあるんだけど専門校行けるだけのお金が無いと基礎以外は基本習えないし、魔法商店側も雇える余裕があるなら専門校出身を引き抜くじゃん」


「まあ普通はそうでしょうね」


 言葉で具体的に言われて気づきましたが確かに普通そうするでしょうね。

 私はセリスと出会うまで強い関心が無かったので魔法ギルド等の知識が疎く、なんとなくそんなものだろうなと思っていたらその通りでしたよ。

 知識量が多い分すぐ主力として働いてもらえますし、逆に何かしらの知識を得られるかもしれません。

 変な所で魔法商店も普通の商店と変わりありませんね。


 しかしそれは普通ならです。


「ですが私はドリーミーですので」


「あぁ……種族的差別かぁ。私もそれ時々あるなぁ……」


 国事態が人種差別を取り払おうと努力していて受け入れられ変化しつつあるのは事実なのですが、差別意識の根が深いのもまた実状。

 完全に取り払われるまではまだまだ時間が掛かります。


「………ところで今日アリスさんは暇ですか?」


「常識的な時間に来る為に時間使って今から行くのもって感じだし暇だね」


「それならアリスさんも魔法を学んでみませんか?」


「良いのか?邪魔じゃないの?」


「魔法商店が基本暇だって知ってて言ってます?

 アリスさん露骨に客が長く来ない時間帯狙って来ますよね?」


「あ………いや、それは、ね?」


「ふふ、良いですよ別に。私はアリスさんとは友人関係だと思ってますし、友人がそれだけ魔法に関心があるのは嬉しいものですよ?

 それに、1人教えるなら2人教えるのも変わりありませんって」


「二人って戦闘訓練だとそれかなりキツイが……そんなもの?」


「そんなものですよ」


「なら、宜しく頼もうかな」


「わかりました。そうと決まれば中に入ってください」


 アリスさんを招き入れてから30分弱くらいでオリビアちゃんがやってきて、当然のようにお茶しながら私と魔法談義している事に何故か怒っていました。

 私の妹のアシュリーも小さい時よく分からない事で怒る時がありましたのでなんとなく懐かしく思えましたね。


 魔法の勉強はお客が居ない時。

 営業時間のほぼ半分以上は勉強時間でしたね。

 普通の商店と違って魔法商店は暇だってハッキリ分かりますね。


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