プロローグ1
初めまして紙医者と申します。初投稿です。
今回ノリと勢いで何となく書き始めてしまったこの小説、読めるものになるように頑張ります。
高校2年の秋、それは高校生活を語るうえで最も重要と言ってもいい時期であり、青春恋愛マンガなどはこぞってスポットライトを当てる時期である。
高校からいつもと同じ道を通り、いつもと同じ電車に乗り、我が家の(といっても1Kアパートだが)最寄り駅で降車する。
自分も周りも何を目的にするでもなく、無駄に足早に改札に向かう。
改札の近くの窓口には当然のように駅員が座って通り過ぎる人々を眺めている。
今日、担任がHRで長々としていた自動改札と切符切りの話を思い出しつつ未来の職業について取り留めもないことを考えながら改札を通過。人の流れに乗るようにしてスーパーのある駅ビルの一階へと降りていく。
買い物を終え、ビニール袋をぶら下げながら家に到着し、外にある夜間灯のわずかな明かりを頼りに玄関の蛍光灯のスイッチをオンにする。
小さい溜息を吐きながら男の一人暮らしにしては綺麗に整頓されている、と自負しているフローリングに上がる。買ってきたものを小さめの安売りされていた冷蔵庫に突っ込み、布団にダイブする。
「はぁ~~、つっかれた~」
枕に顔を埋めつつ、無駄に叫ぶ。最近毎日のように言っているような気がするが。
因みにどうでも良いが、この男、ベッドではなく床に敷く昔ながらの布団派である。
買ってきたもので適当に作った夕食を食べ、さっとシャワーを浴び、再び布団に潜り込んだ男は上体だけ軽く起こして横の机にある五年ほどお世話になっているスマホを取り、寝る前に見るのが習慣となっているサイトをブックマークから開く、そこには異世界や転移といったファンタジーじみた言葉が並んでいる。
「お、この久しぶりに作品更新されてるわ……」
「この新作すげえ伸びてるなぁ……」
独り言を言いつつ画面をタッチしていく男の顔はニヤけており、客観的には間違いなく変人である。
「っと、もう十二時か」
いつも通りの時間に目覚ましアラームをセットしたスマホを机の上に置き、代わりに掴んだ蛍光灯の紐を二度引き下げ完全に電気を消すと男は夢の世界に落ちていった。
・・・・・・・・
その男、荒木田 蓮の人生を一言で表せば「可もなく不可もなく」であろうか。
両親があまり家に居らず、家での一人の時間が多かったせいか、小学生の頃から本は好きであったが、中学のころからずっと帰宅部、これといって特技もないが、運動は平均程度の実力で勉強の出来は教科によって中の上から中の下、コミュ力も人並みくらい、もしくはそれ以下で生きてきた蓮にとって高校生活とは酷く退屈なものであった。
物語のように超絶美少女なんてのは当然クラスにも更には学校にも居ないし、または勇者のような完璧超人も居ない。さらに言えばそもそも話しかけてくる女子がいない。あったとしても悲しいことにクラスの係等の事務連絡だけだ。
そんな生活を過ごしていた一年生の秋、数少ない友人と言える同級生の一人に勧められたいわゆる”異世界モノ”に蓮はハマる。
特に蓮が好きなところはステータスやスキルといった現実世界では決してあり得ないゲームのような要素が物語をより痛快かつ明快にしていることだった。
元々読書好きで『三国志演義』や『水滸伝』などの歴史上の英雄譚を愛読していた蓮が既知のジャンルと似ているようで異なる物語にのめり込むのは必然だったのかもしれない。
そんなこんなでクラスで無言クールという別名ただのコミュ障という中々にありがたい評価をクラスメイトからいただいている蓮は物語の主人公達と同様に漠然と異世界転移を夢見るのであった。
・・・・・・・・
その日の夢はいつもと違い明らかにおかしいと感じとれる妙な夢であった。
普段ならば階段から落ちる夢を見てビクッと跳ね起きて「はあ、夢か……」と安堵するような蓮であるが、この日ばかりはこれは現実ではない、と感じ取れる違和感があった。
なぜならそこはどう考えても異世界であった。
馬車が活気のある道の真ん中を闊歩し、道端には露店が広げられている、ここまでは地球のどこかにはありそうな光景である。
しかし今、目の前を通過した男女、見れば見るほど生えているとしか思えない動きをするケモ耳と尻尾が生えた、いわゆる獣人である。しかもその男女は大剣や盾を背中に背負い普通に街の雰囲気に溶け込んでいるのだ。
こんな感じの異世界で生きられたら楽しいだろうな……
などと思っていたその時、突如として天の声とでもいうべき音が聞こえてきた。
「&%#$~’*¥=_!」
……ん?ここは普通女神様からの呼びかけとか来るとこなのでは?
しかしその考えに反するように意識は浮上していく……
いや、意味分からないから――そんな感想を抱きながら……
・・・・・・・・
けたたましく鳴り響く特徴的な電子音によって意識が覚醒すると寝転がりながら目を閉じたまま今日の曜日、予定を脳内で確認しつつアラームを止めようと手を頭上へ伸ばす。
「ふわぁ……しっかし変な夢を見たな、あ?」
重い瞼を無理やり持ち上げると、そこは雪――のような白をベースに様々な色の水玉があしらわれた部屋であった。
蓮は大きく息を吸い込み、そして叫んだ。
「なんで前衛的芸術風なの!?」
残念ながらいつもより五割り増しの声量でのツッコミに答える声は無かった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
なんで親が一緒に暮らしてないんだ、とかちゃんと考えて有りますよ? ...ホントですよ?