正体Ⅲ
「どうして、私だと分かったのですか・・・?」
「あぁ、それか。露天風呂で青葉さんと女将が、騒音を聞いて駆けつけてきた時だよ。あんた、幽霊と悪霊に真っ先に駆け寄ってバスタオルをかけたろ?この旅館で霊力を持つのは女将だけ。この旅館の他の仲居や従業員は、誰も霊が視えないと言ってたよな?いくら実体化してるとはいえ、霊力を持たない一般人に幽霊と悪霊の姿が見えるのはおかしいんだよ。」
そう、2人の実体化は決して生身の人間になるわけではなく、根本的には霊のままだ。それが何故かあの時青葉は、当たり前のように2人にタオルをかけていた。気が利く仲居さんだなと感心していたが、よく考えれば、いや考えなくてもおかしな話だ。
少し時は遡り、露天風呂で女将と2人霧になった時
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『さーてと、俺も腰にタオル巻いてるとはいえこの格好じゃ風邪ひくんで、着替えますかねーっと。』
『待てぃ!!お主、本当に除霊の見当はついとるんじゃろうな・・・?』
『どうですかねー、ま、任せといてくださいよ!女将さんこそ、ちゃんと除霊できたら、俺にかかった呪い解いてくださいよ?』
『わかっとるわぃ!』
『____女将さん・・・ひとつ聞いていいですか?この旅館で、霊を視ることが出来るのは女将さんだけ、ですよね?』
『そうじゃ。視ることが出来るのはわしだけ。祓うことは出来んがの。それが、どうかしたか?』
『気付きませんか・・・・?今さっき青葉さん、うちの霊二人にタオル掛けて、一緒に脱衣所へ歩いていきましたよね?・・・おかしくないですか?』
はじめは何を言っているのか分からないといった表情の女将であったが、徐々に驚愕の表情へと変わっていく
『た、確かに・・・!!青葉に視えるはずはない。・・・わしとしたことが、お主らが滅茶苦茶にしおった露天風呂に気を取られて、全く気付かんかったわい・・・!!』
『まだ決まった訳じゃないですけど、ちょっと今夜仕掛けてみようと思います。女将さんは、青葉さんに俺たちが怪しいから、深夜部屋の様子を見に行けと言ってください。』
『・・・分かった。』
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「と、まぁこんな具合にお前をおびき出したら、まんまと正体を現したってわけ。お前が露天風呂でうっかりミスしてなかったら、分からなかったけどな。にしても、おかしいと思わなかったのか?いつもは入ることを禁止されている客室エリアに、1人で様子見行けって言われたんだぞ?」
「_______だって、・・・・我慢できなかったんです・・・・・・」
「ん?」
頬を赤らめながら、はぁはぁ吐息を漏ら青葉。何か様子がおかしい。
「わたし・・・大好きなんです!!!お客さんが発情している姿がっ!!男女が発情しきっているのを観賞するのが、愉しみなのっ・・・・!!!」
「ね、ねぇ。ちょっとこの人何言ってるか分かんないんだけど・・・」
困惑した表情で俺に問いかける幽霊
目の前には、もはやあのてきぱきと働く仲居・青葉さんの面影はなく、嬉々として自らの性癖を語る『変態』さんの姿が____もしかして俺たちは、想像してたよりもっとヤバい人を捕獲してしまったのかもしれない・・・




