正体Ⅱ
深夜_____草木も眠る丑三つ時。うっすらと間接照明に照らされた廊下を歩く足音が、ミシリミシリと鳴り響く。
『その人物』は、客室の数メートル手前で止まると、ぼそりと何かを呟く。すると間もなく辺りには白い霧が発生し、扉の隙間から客室へと入り込んでいった。『その人物』は待ちきれないといった表情で思わず口を漏らす。
「はぁ・・・はぁ・・・我慢できない・・・はやく、はやく私を満足させてよぉ・・・・」
数分後。霧が完全に室内を満たしたのを見計らって、扉を開け中へと侵入する。居間と玄関を隔てるふすまを、数センチほど開け隙間から中を覗く
「さっきは途中で終わっちゃったから・・・今度は最後まで・・・うふふふ。って、あれ?」
『その人物』は意表を突かれた。暗い和室には、川の字に敷かれた敷布団が3つ。しかしそこには誰も寝ておらず、もぬけの殻だったのだ。
「ど、どうして・・・ま、まさかっ、うっ」
突如、室内の照明が点灯する。とっさに振り替えると、入り口の扉にはこの部屋にいるはずだった客の姿が。
「やっぱり、アンタだったか。『厄介なもの』改め、ここの旅館の仲居・・・青葉さん!!」
「ち、違いますお客様、わたしは女将に言われて_______」
「女将に、俺の様子を見て来いって言われたんだろ?悪いが、その指示は俺が女将に頼んだんだよ。お前をおびき寄せるためにな。廊下でコソコソやってたのも全部見させてもらった。しかも、この部屋にさっきまで漂っていた白い霧、露天風呂で見たのと同じだ。状況証拠はもう全部出ちまってんだ。諦めようぜ。」
「くっ・・・こうなったら無理やりにでも・・・・!!」
青葉はそう叫ぶと、またもやボソボソと何かを呟き、霧を発生させようとした。
「幽霊!悪霊!!今だ!!」
「うりゃぁーーー!!!」「りょうかいなのです!!ご主人さま!!」
押し入れに隠れていた幽霊と悪霊が勢いよく飛び出す。まず、幽霊が力ずくで青葉をその場にねじ伏せ、次に悪霊は霊体モードで青葉の体に入り込み、『憑依』で体の自由を奪う。
「う・・・体が動かない・・・。」
悪霊には、口だけは自由に話せるようにして体の主導権を完全に奪うように言ってある。しかし、ここまで正確に憑依が出来るとは。順調に霊力を使いこなしているようだ。幽霊も、露天風呂の時のような過剰な力の使い方はしていない。
「よーし。幽霊、もう押さえつけなくていいぞ。あとは悪霊に任せよう。」
「ふぅ。思ったりあっさり捕獲できたね。やっぱ悪霊の『憑依』はチートだわ。わたしも使えるようになりたーい!」
「脳筋のお前には無理だろ。にしても、幽霊。お前の流れるように制圧する体術もやべーけどな。どこで覚えるんだそんなの。霊力ってのは奥が深いなー。・・・さてと、話を聞かせてもらおうか。青葉さん?」
くやしそうな表情を浮かべる青葉。完全に『くっ、殺せ』状態だ。




