主従の関係Ⅰ
「・・・たしか、呪いを解きにどこかの旅館に行ったんじゃ?わたし、眠いの。3秒以内に答えないと切るの。」
夜中に急に起こされたふーちゃんの声は、明らかに機嫌が悪そうだ
「切らないで!えぇっと、それが俺にも訳が分からなくて・・・!温泉入ってたら、幽霊と悪霊が裸で、んで抱き付いてきて・・・それで急に暴れだして!!」
「_____女の子の霊と一緒に混浴、それに抱き付く。・・・『ヘンタイ』、なの?」
「いや、違う!!俺が望んだんじゃないって!重要なのは後半で、あいつら暴れまわって俺の言う事聞かねーんだ!助けてくれ、ふーちゃん!!」
パニックで自分でも訳わからないことを言っている自覚はあるが、状況が状況だ。ありのままを伝えるしかない。
「さっきから、後ろで騒がしい音がしているのはそのせいなのね。ヘンタイが困っているのは分かったの。」
「その、ヘンタイって呼ぶのやめてくれませんかね・・・。それで、どうやったらこの状況を乗り切れる?このままじゃ、旅館ごとぶっ壊しそうな勢いなんだが。」
こうして電話で話している間でも、脱衣所と露天風呂を繋ぐ扉の向こうからは、さっきよりも激しい戦闘音が聞こえている。一刻も早くどうにかしないと。
「可能性はふたつ。ひとつは、あなたの霊たちが想像を絶するほどのバカで、主人の言うことも聞かず、ただはしゃいでいるだけ。もうひとつは・・・『何者か』からの精神的な干渉を受けている可能性なの。」
「・・・真っ先に心の底から前者を否定できないのが悲しいが、さすがにあいつらを信じたい。とすれば、考えられるのは『何者か』からの干渉、か。」
「心当たりがありそうな反応なの。」
薄々は勘付いていた、というか原因があるならアレしかないだろう。そう、女将をはじめとするここの旅館の人たちが言っていた、『厄介なもの』の存在だ。
「・・・ふーちゃん、その精神的な干渉っていうのは、他の霊からってこともありうる話か?」
「低、中級霊には無理だけど、一部の上級霊には人間だけでなく霊にも干渉できる個体が存在するのは聞いたことあるの。」
『厄介なもの』とやらの正体が段々と分かってきた。旅館の一部を乗っ取り宿泊客や仲居、従業員を選ばず立ち入った男女を、強力な『催淫』状態にする。それは霊も対象で、『催淫』に思いっきりかかった幽霊と悪霊はあんな風になってしまった、と。当の俺も、一瞬だが悪霊の誘惑に負けそうになった。あれも『催淫』効果か。
「恐らく、精神干渉のせいで、二人はあなたの力を制限なく使って暴れているの。簡単言えばリミッターが外れてる感じなの。何とかしないと、いずれあなたからの力に霊体が耐えきれず、彼女たちは消滅してしまうかもなの。」
「一体どうすれば・・・・今までは全部、霊の力を借りて何とか解決しただけだし・・・」
「ちょっとふーちゃん電話変わって!!・・・もしもし!?それでも私のライバルなの!?あの子たちの主人なら、あなたがしっかりしないと!!」
「!?その声は、ハルカか?話聞いてたのかよ!」




