露天風呂Ⅰ
さっそく一同は、準備をして『男湯』『女湯』と書かれたのれんが掛かる露天風呂の前まで来ていた
「それじゃあ、風呂から上がったらここで落ち合おう。一応言っておくが、何か異変が起きたらすぐ叫べよ?今のとこ旅館の奴らが言ってる『厄介なもの』とやらは出てないが、油断はできないからな。」
「おっけー。・・・っていうか、君の方が危険な気がする。いくら私たちが可愛いからって覗くなよ?アニメとかでは定番のイベントだけど。」
「さ、さすがにご主人さまでも、はっ、裸を見られるのは恥ずかしいのです・・・!!」
幽霊と悪霊が口をそろえて言う
「はぁ・・・何が悲しくて同居人の、それも霊の裸なんて覗かなきゃいけないんだよ。それより、お前ら実体化は解けないのか?俺から離れることになるけど。霊体のままだと温泉入っても意味ないだろ。」
「見た感じここのお風呂はそんなに広くはなさそうなので、たぶん実体化は解けないのです。それじゃあ、ご主人さま。ゆっくり温泉に浸かって疲れを癒してくださいなのです!ほら、幽霊さん!はやく温泉に入りましょー!」
「ちょ、押さないでよ悪霊っ!」
悪霊に背中を押され、いそいそと女湯へと入る2人
「俺も入るとするかー。それにしても露天風呂だから、あいつらがはしゃぐ声でうるさそうだな・・・思いやられる。」
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かぽーん
「あぁーーー・・・こりゃぁ、いい湯だわ。最近の疲れがまじで取れる・・・呪いにも効きそうだ。」
『効能』と書かれた看板には、神経痛・疲労回復・筋肉痛といったありふれたものに並んで、堂々と『呪い』の文字が。これ、何も知らない一般客が見たらどんな反応をするのか心配になる。
「それにしても、高級旅館なだけあって本当にいい露天風呂だな。ふぅー・・・・星も奇麗に見えるし、貸し切りなだけあって静かでのんびり出来るし______ん?・・・静か?」
おかしい。ここは露天風呂。壁を隔てたすぐ向こうは女風呂だ。風呂に入るまではあんなにはしゃいでいた幽霊と悪霊の声が、さっきから一切聞こえないのはおかしい。あの二人に限って、大人しく温泉に浸かっているのは考えられない。
「・・・おーい!幽霊ー、悪霊ー。聞こえてるかー?二人ともどうかしたかー?揃ってのぼせたのかー?」
____シーン
壁際で女湯に向かって2人に声を掛けてみるが、返事はない
____もしや、女湯に例の『厄介なもの』とやらが出て、二人の身に何か起こったのか?だったらすぐ女湯に向かって何とかしないと___いや、待て。アイツらのことだ、二人で示し合わせて俺を嵌めようとしている可能性がある。心配になって女湯に行ったところを笑いものにするとか・・・十分考えられる。
「まぁ、このままじっと待つのもあれだな。よし、お前ら聞こえてるかー?今から様子を見に行ってやる。もしわざと返事せずに嵌めようとしてるなら、今度から二人とも飯抜きだからな。覚悟しとけよ。」
腰にタオルを巻き、脱衣所に向かおうとした、その時。不意にやわらかいものが背中に当たる感触が。
ふにっ
「______っ!?なっ、何だ!?」
「ご主人さま・・・・一緒にお風呂入りたいのです・・・・。」
背後には、どこからともなく現れた悪霊の姿
「ちょっ、ちょっと待て悪霊ぅッ!!!どっから湧いて出てきた!!?てめー何してるか分かってんのか!?ふ、服着ろ服ぅ!!!当たってる、当たってるから!!」
抱き着いてくる悪霊を引きはがそうとするも、なかなか離れようとしない。それに加え、全裸のためまともに直視できない。
「______ねぇ!!こっち来なさいよ!!・・・そんなに悪霊のが良いの?このロリコン!!」
「!?」
声のする方を見ると、さっきまで俺が入っていた湯に浸かる幽霊の姿が。どこから持ってきたのか、トックリを盆で湯に浮かべ、手にはおちょこが。幽霊の顔が赤い、あれは酒か?
一体、何が起こってんだ_____?




