天獄荘
「ここが、天獄荘____か。」
「うおお・・・現実で見ると、めっちゃ高級そうなのです・・・。」
「高級料理っ!温泉っ!!はやくっ!!」
家から電車と新幹線、タクシーを乗り継いで5時間。一行は人里離れた山奥にある旅館、天獄荘に無事到着した。家を出発した時はまだ午前中だったが、到着した頃にはすっかり夕方となり、日も沈みかかっていた。呪い発動のタイムリミットまであと、2日と少し。
「あのなぁ、幽霊。今回はここに泊まりに来たわけじゃないし、第一、こんな高級旅館なんかに俺のポケットマネーで泊まれるわけないだろ。つーか、ここまで来るだけでも幾ら使ったと思ってるんだ・・・」
「えぇーーー!!せっかく来たんだから温泉入りたいーー!!」
恐らくお1人様、1泊2食付きで、俺の一か月のバイト代の半分は余裕で吹っ飛ぶだろう。だが今回は遊びに来たわけじゃない。さっさとこの旅館の女将とやらに会って、呪いを解いてもらわないと。
「ご主人さま、建物の明かりは点いてるけど人が見当たりませんねー。勝手に入って良いのでしょうか?」
悪霊が塀の向こうを覗きながら尋ねてくる
「そうだな、とりあえず受付っぽいとこ探して女将を呼んで_____」
「ほーう・・・これは珍しいのぅ。霊憑きの客とは。それも2体も・・・」
「「「っ!?」」」」
突如、背後から聞こえる声にビビる俺たち。振り返ると、着物を着た小さい老婆が立っていた。まるで気配を感じなかった・・・何者だこの婆さん。いや、そんなことより・・・この人、幽霊と悪霊が『視えて』る。間違いない、天獄荘の女将はこの人だ。
「ど、どうもこんばんわ・・・。もしかして、あなたがここの旅館の女将ですか?実は、呪いを解いてもらいたくてはるばる来たのですが。」
「ほぅほぅ・・・霊憑きに加えて呪い付きとは。お主も若いのに大変じゃのぅ。そうじゃ、わしがこの旅館の女将じゃが____」
「あのっ、ご主人さまの呪いを解いて欲しいのですっ!あと少しで死んじゃうのですっ!!」
悪霊が女将に必死に詰め寄って頭を下げて頼み込む
ああ見えて、結構責任を感じているらしい、あんなに必死な悪霊は見たことがない
「私からもお願いします!・・・ついでに温泉も入れたらうれしいなー・・・なんちゃって。」
幽霊、お前は己の欲望に貪欲すぎて逆に関心するよ。たぶん、温泉と食事の方が俺の命より優先順位高そうだ
「お願いします。まじでやばいんです。死にたくないんです・・・!!!」
「ほーぅ・・・そこまでの呪いとはのぅ・・・じゃが、お主、呪いを解くにはここに泊まって貰わんといかんのじゃ。金は持っとるのか?うちはお主のような若造には、ちと高いぞ?」
ちょっと待て、そんな条件聞いてないぞ。なんだよそれ、新手の抱き合わせ商法か?いや、タダで呪いを解除してもらおうというのがおこがましいか・・・呪いの解除料と考えれば______
「は、払いますっ!!足りなければ、皿洗いでもなんでもします!なので、どうか命を助けてください!」
思いっきり土下座する。人生初のマジ土下座かもしれない、死ぬほど恥ずかしい。が、背に腹は変えられない
「ふむ・・・気に入った!!!わしに任せろ!!!________と、言いたいところじゃがのぅ、若造よ。」
「えっ、」
「お主も間が悪い・・・今は、ちと問題があってのぅ。そういった類の依頼は受け付けておらんのじゃ。残念!来世で励め!若者よ!!うひゃひゃひゃ!!」
高笑いする女将
このクソBBA、分かってて言わなかったな。・・・俺の土下座返せ。




