カラオケ店の愉快な仲間たちⅠ
「ほな、案内したるさかい、ついて来ぃや。」
アリサに促されるまま、俺たちは44番の部屋を出る
「案内って・・・どこに行くんだよ。」
「さっきも言うたけど、この店にはうち以外にも霊がおんねん。君ら、強い霊を探してるんやろ?強いかどうかは分からへんけど、紹介したるわ。あ、でも戦ったりしたらあかんで?あんなんでもうちの大事な仲間やねんから。」
いや、いくら強い霊がいても実際に戦って経験値を溜めないと、霊力は覚醒しないってふーちゃんも言ってたし、紹介されても意味がないと思うのだが。まぁ、戦ったところでもしホントに強い霊だったら、今の戦力では勝ち目はないからいいけど。
アリサ、俺、悪霊の3人は、平日の深夜ということもあり、ガラガラの店内の廊下を並んで歩く
「まだアリサみたいなのがいっぱいいるのですか?ご主人さま・・・。勘弁してほしいのです。」
「まぁ、付き合ってやるって約束してしまったし、乗り掛かった舟だ。どうせ今帰るって言っても帰らせてくれないだろうし。」
「なに2人してぶつぶつ言うてるん?ほら、ついたで!まずは13番室。ねーちゃん!今日はお客さん連れてきたでー!」
元気よくドアを開けたアリサとは真逆に、室内は謎の重苦しい空気で満たされていた。これ、霊感ない人でも普通に感じるレベルじゃないか?
「お邪魔しまーす・・・って、どこにいるんだ?空気はめっちゃ重いけど。」
「どこにもいませんね。アリサ、部屋を間違えたんじゃないですか?」
「そこや、そこ。おるやん。」
狭い室内を見渡して首を傾げる俺と悪霊だったが、アリサが指さす方向に目をやると、いた。
「うおぉ・・・そこかよ。ビビったぁ~。」
13番室のねーちゃんは、ちょうど開けたドアと壁の間の死角にひっそりと立っていた。俺たちには目もくれず、ブツブツと何かを口走っている。あぁ、この人がさっきアリサが言ってたブツブツ言ってる怖いねーちゃんか。
アリサは目の前まで行くと、下から覗き込むようにして話しかける
「おーい!おねーちゃん、うちやで。アリサや。ブツブツ言うてんと、話聞いてや。」
「・・・・・・・あらぁー。アリサちゃんじゃない。どうしたの今日は。お友達?」
やっとアリサの存在に気付くと、今度はうって変わってにっこりと優しい表情で笑う。どうやらかろうじて会話は出来るようだ。めっちゃ怖いけど。見る限り、20代後半だろうか。俺よりちょっと年上で、なんだか疲れたOLっぽい感じだ。
「こ、こんばんわ!なのです!悪霊といいます・・・!」
悪霊が若干怯えながら挨拶をする
「あら、可愛いわね。アリサちゃんのお友達?よろしくねー。」
あれ?意外とスムーズに会話出来てるじゃないか。しかもかなり好印象だ。第一印象はたしかにブツブツ言ってる怖いねーちゃんだったが、話してみれば意外と普通のお姉さんなのかもしれない。
悪霊に続いて、俺も挨拶する
「どもー・・・アリサとは今日初めて会って____」
「・・・・男」
「えっ?」
直前まで穏やかな表情だったおねえさんは、俺が声を掛けた途端、鬼の形相になる
「男・・・・!!!男はもうこりごりよ!!!!この世から消え去ればいいのにぃ!!!!!!」
「ひぃぃぃ!!!!」
暴れだす13番室のねーちゃん。俺たちは我先にとドアを開け、ダッシュで部屋から逃げる。
「ご主人さま!何ですかあの人!?何ですかあの人!?」
「ハァ・・・ハァ・・・。おい、アリサ!なんで彼女は急に暴れだしたんだ!?俺何もしてねーぞ!?」
「あぁー、ごめんごめん。言うの忘れとったわーwねーちゃんな、極度の男嫌いやねん。昔何かあったんやろ。それにしても相変わらず怖かったなぁー。あ、安心してや。ねーちゃん、うちみたいに客に直接何か出来るほど力ないから、人を傷つけたりはせーへんよ?」
「そういう大事なことは先に言ってくれ・・・。」
「ほな、次いこかー!!」
一人目で既に心が折れそうな俺と悪霊であった。




