地縛霊アリサ
名前はアリサ、年は19歳。上下ダボダボのスウェット姿で肩ほどまで伸ばしたストレートの黒髪。容姿はかなり可愛い方だと思うが、それを台無しにするほど致命的に口が悪い。黙っていれば完璧なのに。
「お?なんや兄ちゃん、ジロジロ見て。あ、今絶対うちのことエロい目つきで見とったろ?やらしぃわぁー。彼女おる前でも見境ないん?」
アリサがわざとらしく両腕で上半身を隠す仕草をする
「見てねーよ。それにさっきも言ったが悪霊は俺の彼女じゃねーし。・・・えっと、アリサ?だっけ?君が
ここの部屋に出るっていう霊の正体なのか?」
悪霊は少しアリサのことが苦手なのか、部屋の隅で借りてきた猫のように静かになっている。
「せやせや!うちが噂のカラオケボックスの亡霊、アリサさんや。死んでもう10年は経つかなぁー、ずっとここに棲み憑いてん。まぁ、所謂”地縛霊”っちゅーうやつやな。生きとるもんと会話するのも何年振りかなぁー。うちのこと視える人めったにおらんねん。」
こんなにお喋りなのは、何年も人とまともに会話できなかったからだろうか。少しかわいそうな気がしてきた。
「ところで、そこの悪霊ちゃん?気が付かへんかったけど、君も霊やんな?死んだもん同士仲良くしよやー。人に憑いてる霊視るのは初めてやねん。ほら、一緒に歌おーや。さっきは熱唱してたやん。」
「歌いません・・・私はご主人さまと一緒に歌いたいのです。うぅ・・・ご主人さま、この人苦手なのです・・・。」
「そんなこと言わずにー。うりゃぁーっ!」
「んっ・・やっ、ど、どこ触って・・・、やめるのですーーっ!!」
悪霊のわき腹をくすぐり、なおもちょっかいを出すアリサ。えっと、俺たちはここに何しに来たんだっけ。この調子だと、アリサはいたって普通の霊だ。とてもじゃないが、これ以上関わったところで悪霊の霊力覚醒は望めそうにない。ふーちゃんが言っていたように、もっと過酷な環境でないと駄目ってわけだ。
「よーし、噂の原因のアリサにも会えたことだし、今日はこの辺で帰るか。悪霊、店出るぞー。」
「はい。分かりましたご主人さま。」
「えぇっ!!ちょ、ちょっと!もう帰るん?うちと話してまだ30分も経ってへんやん!もっとこう、あるやろ?もっと聞きたいこととか!『なんで死んだの』とか!『なんで客にいたずらしてんの?』とか!君らうちに会いに来たんやろ!?」
「たしかに合いに来たと言われればそうだが・・・まぁ、俺たちもいろいろと忙しいんだ。また機会があれば来るから。それじゃ、元気でなー。」
「達者で!なのです。」
部屋を出ようとする俺と悪霊の足にしがみつき、アリサが泣きついてくる
「お願い!あと10分!10分でええから!話相手になってよー。うち死んでから、ここの野良霊としか接点ないねん。しかもここの野良霊は、生気ないおっさんとか、ずっとブツブツ言ってるよー分からん怖い姉ちゃんとかばっかで、まともに会話できんし!」
ぶっちゃけめんどくさいが、そんな風に泣きつかれても困る。・・・っていうかここのカラオケ店、アリサ以外にも霊がいるのか。霊が住み着きやすいのか、それとも今まで気づかなかっただけで、どこにでも霊はいるのか。
「はぁー、分かった分かった。10分だけだぞ。」




