夕飯
「いやー、寒いね。」
「『寒いね』じゃねーよ。何普通に俺のこたつに入ってきてんだよ。ちょ・・・それ俺の足だ。次蹴ったらマジで追い出すぞ。」
「またまた~嬉しいくせにー。ほれほれー。」
くっそ、こいつ、俺が女子と接するのが苦手っていうことを分かってやってやがる。
現在時刻は夜の9時を回ったところ。昨日の天気予報で言っていた通り、外は吹雪だ。もうすぐ春になろうかというのに、今夜は底冷えする。・・・そして、触れてたくはないのだが、この不法侵入者も昨日の宣言通り、つい10分ほど前に無事わが家へやって来やがったのだ。
「いやぁ~、今回は夜だからさーもうちょっと気合い入れて登場しようと思ったんだけど思いの外寒くてね。画面から直行でこたつに入らざるを得なかったよ。」
「そのまま帰ってくれたらよかったのに。」
「来たからには何か爪痕を残すのが私のポリシーなの。」
「お前は災害か何かか。」
しかしこう寒いと、いつにも増して何もやる気が起きない。いつもなら眠くなるまでゲームでもしている時間帯だが、今日は夕飯もまだ済んでない始末。
「ねーねー」
「んー」
「エアコン点けようよー」
「こたつ+エアコンを点けた時の電気代の破壊力をお前は知らないからそんなこと言えるんだ。」
一人暮らし1年目の時、あまりの寒さに思わず両方稼働させてしまい料金明細がとんでもないことになった経験がある。あの時はまだ俺も若かったな。
「私の可愛さの破壊力の方がやばいっ!」
「そうだねーかわいいねー。やばいねー。」
いかん。寒さと空腹でどうにかなってしまいそうだ。それに幽霊とのこのアホな会話のせいもあってか、俺の思考回路はどんどん破壊されていく気がする。
「そうだ、幽霊。ちょっとそこのコンビニで何か買ってきてくれよ。金貸すからさ。」
「こんな年端もいかない少女を、こんな夜遅くに出歩かせるなんて・・・しくしく。」
「お前なら大丈夫だろ。超自然的な何かだし。」
「ちょうしぜん・・・?よく分かんないけど外出るのは無理だよ。私が動けるのは君んちの中だけだし。」
ここに来てまた新たな設定。しかし使えない奴だ。ちょっとはこいつが出現することで俺のメリットになるような特典はないのかよ。
「あっ!そうだ!何か作ってあげるよ。」
急に思い出したかのようにポンと手を叩く幽霊
「待て。嫌な予感しかしない。それに冷蔵庫にまともな食材が入ってない。」
「何もないところから料理を作るのが主婦ってもんだよ。」
「いつから主婦になった。ちなみに得意料理は?」
「な・・・鍋、かな・・・。」
「・・・悪いことは言わない。やめとけ。お前が作ったら絶対『闇鍋』になる気がする。いや、健康体が口にできるものになるかどうかも怪しい。」
「決めた!作る!」
やばい。何か変なスイッチが入ってしまったようだ。こうなってしまったらもう手が付けられない。
「わ、わかった。包丁だけは気を付けろよ?救急車なんてこの時間に呼びたくないからな。」
「任せなさい!ちなみに私はあらゆる傷を無効化するから。」
「そういう本当かどうか怪しい新設定はいいから。」
ワンルームの狭いキッチンで、ふむふむと分かったげに頷きながら冷蔵庫を眺める自称主婦。
まあ、料理と言っても鍋だ。適当に食材をぶち込んで煮てしまえば、それなりのものが出来るだろう。
「お、コーラがあるじゃん!」
「あるね。」
「コーラで鍋を煮るとおいしくなるんだよ。知ってた?」
どや顔で鍋にコーラを注ぐ自称主婦。
「それは豚の角煮だね。うん。豚を柔らかくするための小技だね。コーラで鍋作るのは頭おかしいんじゃないかな。うん。」
「えっ・・・・し、知ってたもん!じょ、ジョークだよ!あははははー・・・。」
「よし。今夜はカップ麺にしよう。」
_____今日分ったこと。こいつに料理を作らせてはならない。




