悪霊説得作戦
「た・・・ただいまなのですー・・・。」
草木も眠る丑三つ時。こそこそと帰宅したのは、ここ数日姿をくらましている悪霊だ
「もうご主人さまと幽霊は・・・寝てますね。」
なぜご主人さまから逃げ回っているのかというと、理由は一つ。心霊スポットへ行くのが怖いのである。ご主人さまと、同じ居候である幽霊ちゃんが廃病院へ二人きりで行ったというのを隣人のハルカとふーちゃんから聞いたときは、少しモヤモヤした気分になり、『自分も負けてられないっ・・!』と一時は覚悟を決めたものの、年齢的にはまだ中学生。普段は威勢のいいことばかり言っても、怖いものは怖いのだ。
「うぅ・・また今日も逃げちゃいました。この2日間、ご主人さまとお喋りしてないのです・・・」
とぼとぼと暗い廊下を歩いて、キッチンへ向かう。
「お腹空いたのです。何か残り物は・・・ふぁっ!!!」
冷蔵庫を漁ってる最中、急にキッチンの電気がつく。驚いて振り返ると、そこには主人の姿が。
「こんばんわー、悪霊ちゃん?こんな夜中にどうしたのかな?(ニッコリ)」
「あ、あわわわ・・・ご、ご主人さま!どうもこんばんわなのです!」
「こんばんわ、じゃねーよ!未成年がこんな遅い時間まで外出歩いてんじゃねーよっ!」
頭をげんこつでグリグリされる悪霊。
「はぅぅ!!痛いのです!!痛いのですぅ!!ごめんなさいのですぅ!!}
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目の前には涙目で正座する悪霊。ちょっとお仕置きし過ぎた感は否めないが、やっと悪霊を捕まえることが出来たのだ。何としてでも説得しないと。
「はぁー、それで?俺から逃げ回ってるのは、心霊スポット行くのが怖かったからだと?幽霊もグチグチ言ってたがなんだかんだ付いてきたぞ?」
「だって・・・だって怖いものは怖いのです・・・。」
「まぁたしかに怖い。それは認める。俺も行くまでは、廃病院なんて大したことないと思ってたが、いざ潜入してみると地獄だったからな。」
「ほ、ほらぁー!やっぱ怖いところじゃないですか!行きたくないのですっー!」
悪霊の意志は固そうだ。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。お互いの身の安全のためにも、俺の霊力を使いこなせるようになってもらわないといけない。ちなみに、先ほど悪霊の手をさりげなく握ってみたが、これといった変化は見られなかった。どうやら『手を握ると霊力が供給される』というのは、幽霊オンリーの発動条件らしい。悪霊の霊力覚醒の為、修行は必須ということだ。
「だが、悪霊。次は違うぞ。」
「ち、違う?何が違うのですか?」
悪霊が首を傾げる。そう、悪霊を説得するにあたって俺も力技でどうにかなるんなんて思っていない。ちゃんと秘策がある。
「幽霊とこの前行ったのは廃病院だったからな。人がいない廃墟だし、怖くなるような雰囲気もすごかった。たぶん、悪霊にはああいう場所は無理だろ。けどな、俺が次に行こうと思っているのは廃墟じゃない。もっと楽しい場所だ。」
「た、楽しい場所ですか!?心霊スポットですよ?そんなところあるのですか??」
「ふふふ・・・次に行く心霊スポットはなんと、今も普通に営業している店。その名も、『〇ックエコー駅前店』・・・カラオケボックスだ!!」
「カ・・・カラオケ?行きたいのですーーーっ!!!」




