廃病院Ⅳ
幽霊の体から、うっすらと赤い湯気のようなオーラが出ている。目の前には、幽霊の回し蹴りで完全に伸びている車いすじじい。
「な・・・何かよくわからないけど、力が湧いてくる感じがするっ!!なにこれ!?すごいんですけど!?うおぉぉぉぉっ・・・!!」
興奮と困惑で訳わからんテンションになっている幽霊。きっかけは何か分からないが『力』とやらが流れ込んでいるらしい。どうやら、ふーちゃんが言ってたことが本当だったようだ。霊力を増強させることが出来るらしい俺は、何故かは分らんが急にコントロール出来るようになったっぽい。現に今まさに目の前で、今まで見たことない動きで回し蹴りする幽霊を見てしまったわけだ。これはさっそく合宿の成果が出たとみていいんじゃないか?
「よ、よし!よく分からんがやったぞ幽霊!このままこいつら全員やっちまえ!!」
「よっしゃああ!!この幽霊さまの前にひれ伏しなさいっ!とりゃあああああっ!」
今度は、後ずさりをする追手の霊たちに走りながら殴り掛かる。よし。このまま脱出・・・ん?さっきまで幽霊からオーラみたいなのが出ていたのに、今度は出てない・・・?
「・・・あああああああっ・・・・あれ?」
ポコッ
幽霊が放ったパンチは、患者の恰好をした霊の右肩にヒットしたが、先ほどの回し蹴りのような威力はまるでない。
「「「「ニヤァ・・・・」」」」
逃げ腰だった霊たちが、一斉に不敵な笑みを浮かべる。
「あ・・・えっとぉ・・・。」
「うおおおおおおっ!!!また走るぞぉ!!」
間髪入れずに、幽霊の腕を掴み再び逃走する。攻撃してこれないと察したのか、追手の霊たちはさっきより一層スピードを増して追ってくる。
「なんだよ今のパンチは!?さっきのプロがやったみたいな回し蹴りはどこ行ったの!?」
「知らないもん!さっきは君と繋いだ手からなんかこう、ポワァって力が伝わってきて・・・あっ、ほら今みたいに!!」
「何言ってんだおま・・・まさか。」
掴んだままの幽霊の腕が、さきほどのように赤いオーラを放っている。
「幽霊・・・分かってしまった・・・!これたぶん、お前と手を繋いでいる間だけ俺との力が通っているらしい・・・!つまり、手を離したら終わりだ。」
「えっ、ちょ!ってことは・・・戦うときはずっと君と・・・その、て、手を繋がなきゃいけないってこと!?」
幽霊が頬を赤く染めながら叫ぶ。推測だが、幽霊の体のどこかに触れていれば俺から力が通う。そうなると、一番機動性を確保できる触れ方が、『手を繋ぐ』ということだ。
「何お前照れてんだよ!!こっちまで照れちゃうだろ!・・・よし、せーので手を繋いで振り返るぞ。そっからはなるべく戦闘の邪魔にならないようにするから。」
「もぉ・・わ、わかった・・・!」
後ろからは殺気だらけの病院霊軍団。振り向くのは怖いが、今度こそ突破できそうな気がする。
「「せーのっ!!」」




