廃病院Ⅰ
合宿初日を飾る物件があるのは、最寄り駅から電車で3駅のところにある。俺が住んでいるとこよりは静かな町で、閑静な住宅街といったところだ。時刻はまだ夜の9時を回ったところだが、駅前の人通りは既にまばらだ。夜の住宅街は、しんと静まっている。
「ちなみに聞くけど・・・その、今向かってる心霊スポットは、どんなところなの?」
ふわふわと俺の後ろをついてくる幽霊が、恐る恐る尋ねてくる
「えっとー藤宮から聞いた話によると、たしか病院だったな。10年ほど前に潰れたらしい。」
「びょ・・・病院。こ、こんな住宅街のど真ん中にあるの?」
「らしいな。それに、けっこうでかいらしいぞ。近くに住んでいる住人は誰も近寄らないんだとさ。・・・夜な夜な、病院の中から誰かの悲鳴が聞こえるとか聞こえないとか・・・。」
幽霊の顔が凍り付く
「へ、へぇー・・・。どんな霊なのか、顔を拝んでやるわ!」
自分も霊のくせに、相当強がっている様子だ。そういや、前ホラー映画観てた時もビビってたっけ。正直なところ、俺はそんなに怖いと思っていない。ここ最近の騒動を考えると、たかが心霊スポットの肝試しなんて屁でもない。さっさと合宿を終わらせて、研究会の奴らを追い払えるだけの力を身に付けないといけない。
「さて、そろそろ着くはずだが。この角曲がって・・・・ここか。」
「ここに、ホントに入る・・の?」
その廃病院は、住宅街から少し離れた開けた場所に建っていた。周りは伸び放題の雑草で覆われており、建物の外壁はツタで埋め尽くされている。この場所だけ、ちょっとした雑木林みたいだ。
「情報通り大きいな。1、2・・・3階建てか。たしか、正面玄関の横にある非常扉から入れるらしい。ほら幽霊さん。行きますよ。」
「ぜっっったい嫌だ!!こんなの絶対入れないっ!かえるううううっ!!」
俺の服を引っ張って、必死に抵抗する幽霊。残念ながら幽霊は俺にしか憑くことが出来ず、外では俺から離れることは出来ない。嫌がる幽霊を引きずりながら、非常扉の前までたどり着く。ドアノブに手を掛けると、あっさり回る。どうやら、ここの施錠がされていないのは本当らしい。
「ほら、いい加減覚悟決めろって。お前も霊なんだから怖くねーだろ。よし、開けるぞ。」
ギィィィィ
鈍い音を響かせながら、重い非常扉がゆっくりと開かれる
「さっさと回って、さっさと帰ろーぜ。帰りに高いアイス買ってやるか・・・・ら・・。」
受付のカウンターの前に無数に散らばるカルテ。正面玄関の自動ドアを塞いでいる、無造作に置かれた待合室の長椅子。まるで、さっきまで使っていたかのように置かれている車いすと点滴棒。
「い・・・行くぞ。」
「うぅ・・・」
痛いくらい幽霊に腕を掴まれながら、まるで二人三脚するかのような足取りで進む。____前言撤回、めっちゃ怖い。




