隣人
「何でこんなに霊が・・・てか、霊・・・だよな?どう見ても。」
「生身の人間がいきなり家の中にいる方が怖いわよ。」
幽霊にしては珍しく正論だ。部屋には10人ほどの老若男女。俺が今まで会った霊と違う点は、みんな無表情であるというところだ。幽霊、悪霊、怨霊さんと今まで色んな霊と遭遇したわけだが、どの霊も表情豊かで、とても霊という雰囲気ではなかった。しかし、この場にいる霊はそんな雰囲気ではない。生気は微塵も感じられない。
「しかし・・・ご主人様、一体この人たちはどこから現れたのでしょうか。邪魔ですから、私が消滅させてやりましょう!!!」
「やめろ悪霊、下手に刺激して何かされたらたまったもんじゃない。それにお前、霊を消滅させるなんて芸当できないだろ。」
とは言っても、この状況を放置するわけにはいかない。今までこの部屋に住んだ人は、恐らくこの現象のせいで部屋を手放したのだろう。もしこの場に幽霊と悪霊の2人がいなければ、俺も即座に逃げ出していた。
「それにしても・・・なんとも不気味な光景だな。お前ら、ちょっと話しかけてみろよ。霊同士なら何か反応するかもしれないぞ。」
「お、おーい、こんばんわー・・・。あのー・・・ここ私たちの家なので、出て行ってもらえたらうれしいなー・・・。」
幽霊が恐る恐る対話を試みるが、リビングの霊たちはピクリとも反応せず、ただただ壁の一点を見つめている。
「むぅー?そういえば、みんな壁を見てますね。何かあるのでしょうか?」
「まさか、壁の中に何かいる・・・とかじゃないわよね。」
顔を青くする幽霊。一瞬、まさか、と同じ考えが頭をよぎったがそれにしては霊たちが見ている範囲が広すぎる。壁の中にいる何かを見ている、というより壁の向こうにいる何かに引き寄せられているような・・・
「原因は隣の部屋、だな。そんな気がする。」
「わ、私もご主人様と同じことを考えていたのです!!」
「嘘つけ悪霊。どうせ、壁の中に封印された古代の霊力が~・・・とか、お前が好きそうな設定を考えてたんだろ。」
「むむぅ・・・バレましたか。やりますね!」
とりあえず、隣の部屋の住人と接触しないことには何も解決しない。さっそく原因を突き止めに部屋を出る。
「509号室・・・ここか。」
部屋の前まで来たのは良いが、何と言って説明しようか。いきなり『部屋の中に霊が出たのですが、そちらの家の中に何かありませんか?』とか聞いたら完全に頭のおかしい奴だ。
「迷っていても仕方ない、もう何とでもなれ!」
ピンポーン
ガチャ
「あの、夜分遅くすみません、今日隣に越してきた者ですが・・・あれ?お前は・・・」
「ふわぁ!?あ、あなたはっ、いつぞやの契約者!?あの時の決着をつけに来たのねっ!!」
扉から出てきたのは、あの研究会に目を付けられた日に出会った『ふーちゃん』と呼ばれる霊を連れている、ハルカだった。