刺客Ⅲ
飛びかかってきた2匹の大型犬を、軽々と持ち上げる怨霊さん。飛びかかろうとしていたほかの犬たちも、この状況に怯え、戸惑っている様子だ。
「ふぁッ!?わ、私の犬霊をこんな簡単に・・・・そんな馬鹿なッ!!てめぇ、何者だよ!?」
「・・・・・。」
ドゴォッ!!!バキィッ!!!
完全に不意を突かれたヌイには見向きもせず、怨霊さんは飛びかかってくる犬霊たちを次から次へと、殴り倒す。吹き飛ばされた犬霊たちは、くぐもった鳴き声を上げて倒れると、発光する鎖と共に消えていく。
「わ、私の犬霊たちが成仏していく・・・」
涙目になるヌイ
「お、怨霊さんってマジで強いんですね・・・。」
恐る恐る聞いてみる。完全に守ってもらってるこの状況は男としてなんとも情けないが、とてもじゃないが一般人になんとかできるとは思えない。
「んー?このくらいの"低級霊使い(雑魚)"ならなんともないよ?」
にやりと不敵な笑みを浮かる。明らかにヌイに喧嘩を売っている。いや、売られた喧嘩を買っただけか。
「だッ、誰が雑魚だ!!ヌイ雑魚じゃないもん!!こうなったら・・・見てろよー・・・"とっておき"を見せてやるッ・・・!!」
ヌイはそう叫ぶと、両手を大きく夜空に掲げた。その瞬間、広げた両手の中に他の鎖より明らかに大きい鎖が現れる。徐々に鎖の全貌が具現化してき、とうとうその先っぽまできたとき、鎖に繋がれているものが姿を現す。
グルルルルル・・・・
「で、でけぇっ!!!!」
「ふはははははー!!!驚いたか!!世にも珍しい、『化け犬』だっ!!」
ヌイの背後に現れたのは、軽トラックを易々と上回るほどの体格を持つ、大きな犬。それに、大きいだけではなく、先ほどまでヌイが従えていた霊犬達とは違い、その牙は明らかに人をかみ殺すのを目的としているかのように、大きくそして鋭く尖っている。口元から涎を零すその様は、完全にファンタジーの世界の住人だ。
「むぅ・・・まさかそんなものまで飼っていたとは・・・。さすがの私もアレは無理かな~・・・テヘッ」
ぺろりと舌を出す怨霊さん。
「テヘッ、じゃないですよ!!怨霊さんが無駄に煽ったりするからあんなの出てきちゃったじゃないですか!!」
どうする・・・!?あんなのに噛まれたらひとたまりもないぞ・・・。いや、突進で吹っ飛ばされるだけでも、もはや交通事故でトラックに轢かれるようなもんだ。何か・・・何か手はないのか。
ガサッ
「・・・ん?」
思わず後ずさりをした足に何かが当たる。見ると、そこには先ほど犬霊たちの猛攻をかいくぐる時、重いから手放したスーパーの袋。中には酒類が山のように入っている。
「・・・怨霊さん。頼みごとがあるんですけど。。」
「何よー、こんな状況で頼みごとって・・・あ!」
こうなったらどうにでもなれ。