刺客Ⅱ
野良犬だろうか、遠くで獣の鳴き声がする。時刻は23時30分を過ぎたころ。
「あぁー・・・君ん家こんなに遠かったっけ?まだ着かないのー??」
「わざわざ家とは反対側のスーパーまで買い出しに行ったんだから、当然ですよ。」
「うぅぅ・・・禁断症状が。」
わざとらしく肩を震わせる。もはや決まり文句と化している。
「あー、はいはい、禁断症状ね。っていうか、具体的にどうなるんですか?」
「信じてないね?・・・もうね、やばいよ。前に一回やらかしたことあったんだけど、その時はもう大変で・・・。」
何時になく真剣な顔で、遠い目をする怨霊さん。初めて会った時の風貌から考えると、あながち嘘ではなさそうだ。
「なんかヤバそうなので、その話はまた今度聞かせてください。ほら、もうすぐだから頑張って歩いてください。」
ワンワンワンワン!!!
それにしても、さっきから犬の鳴き声がうるさい。この辺りはアパートの近くなのでよく通るのだが、こんなにうるさかったことがあっただろうか。それに、さっきからどんどん鳴き声が近づいてくるような気がする。怨霊さんは気にならない様子だ。飲み会のことしか頭にない。
「まず、一杯目はビールね。絶対ビール!!」
「・・・怨霊さん、犬の鳴き声ヤバくないですか?それに、なんかいっぱいいるみたいだし。」
「犬ぅ?そんなもん、珍しくないでしょ。あ!あれ君の家じゃない?やったー!!」
「一回来ただけなのによく覚えてますね。・・・ん?」
ヴヴヴヴヴヴゥゥゥ・・・・・
アパートまで、あと数百メートルの直線道路の先。住宅街の心もとない電灯の先に、なにか影がうごめいている。それも複数だ。
「んー?なんだありゃ?犬?まったく、通行の邪魔しないでよね!」
臆することなく距離を詰める怨霊さん。アパートへの道路をふさいでいたのは、チワワからドーベルマンまで、様々な種類の犬の群れだった。この異様な光景な中で、さらに異様なのは、犬たちの首に繋がれている怪しく緑色に光る、首輪と鎖。そして、臨戦態勢の犬たちの中心にいるのは・・・
「え、幼女?」
「ぶっ殺すぞてめぇ!!18歳だよっ学生だよっ!!」
こいつ、口が悪いな。それにどう見ても18に見えない。
「あのー、そこにいたら通れないんで犬どかしてくれませんかねー。」
「ふっ、残念だったなぁ!!いまごろお前の使役してる霊共は、私の師匠が制圧しているだろう!!残ったお前は、この動物霊使いのヌイ様が相手してやるっ!!・・・隣の霊は報告にないな。3体目がいたのか・・・?」
怨霊さんの方を見て不審な顔をする自称・動物霊使いのヌイ。うちの居候共を制圧しているとか言っているが、それはそれでありがたい。そのまま持って帰ってくれ。だが、こんな風に俺も襲われるのは勘弁だ。思い当たる節は一つ。この間の超常現象研究会しかない。
「まぁいい。どうせその辺りによくいる低級霊だろ。お前らっ、やっちまえぇぇぇぇえ!!!」
ヌイの命令と共に、周りの犬たちが一斉に飛びかかってくる。間一髪で最初の一匹をかわすが、次から次へと犬たちが襲ってくる。
「おいおい、いきなりかよ!?・・怨霊さんっ、ここは一旦逃げ・・・は!?」
横を見ると、飛びかかってきた大型犬2匹の首を持ち、軽々と持ち上げる怨霊さんの姿が。掴まれた犬は既に戦意喪失しているようすだ。
「おい、クソガキ。誰が低級霊だって?お姉さんが相手してやるよ。」




