地獄の飲み会Ⅱ
カゴの中に、チューハイ、発泡酒、ワインといった酒がどんどん入れられていく。
「あのー・・・、怨霊さん。まだ買うんですか。」
「当たり前でしょー。今晩は記憶なくすまで飲むつもり!」
この女、当たり前のようにカゴに入れてるが、支払うのは俺なんですけど。結局買う酒を選び終わるまでに30分も費やし、重いカゴを引きずるようにしてレジへ持っていく。この量だと3、4000円はするだろう。本当に無駄な出費である。
「先輩って、お酒飲む人でしたっけ?」
突如声を掛けられる。後ろを向くと、そこにはバイト先の後輩である藤宮が立っていた。学校帰りなのか、制服姿だ。それにしても、わざわざバイト先のコンビニから離れたスーパーに買いに来たのに、会ってしまうとは。言い訳を考えるのが面倒くさい。
「おー、なんだ藤宮か。何してんの。」
「何って、おつかいですよ。っていうか、質問に答えてください。」
藤宮のこういう何かを見透かすような、鋭い質問が苦手だ。
「んー、たまには気分転換にお酒飲んでみるのもいいかなってね。」
隣の怨霊さんが何故かニヤニヤしながらこっちを見てくる。どうせ後で、『誰あれ、彼女~?』とか突っかかってくるんだろう。お前は思春期の息子を持つ母親かよ。
不審そうな顔で見てくる藤宮を振り切って店を出る2人。時刻は既に23時を過ぎている。
「もうこんな時間!!ほら、早く家に帰って飲み会やるよ!」
怨霊さんの酒選びに時間が掛かったせいでしょ、と文句を言っても彼女の耳には届かないだろう。恐らく、彼女の頭の中はもう酒を飲むことで一杯だ。
「分かってますから、走らないでくださいよ。袋重いんだから・・・」
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「お腹すいたぁー。ねぇ悪霊ぅー、アイツまだバイトから帰ってこないのー?」
「今日は帰りが遅いですねご主人様。まさか何かあったのでは・・・!!」
部屋には、いつもの居候霊2人が主人の帰りを待ちわびている。もっとも、幽霊に至っては夕飯の心配だが。
「もうカップ麺は全部食べちゃったしなー。」
「冷凍食品も、昨日のお昼に食べたので最後なのです!うぅ、電子レンジ使いたい・・・。」
ピンポーン
「お、やっと帰ってきたかな??」
ピンポーン
「ん?変ですよ幽霊さん。ご主人様なら鍵持ってるし、いつもチャイムは鳴らさないのです。」
「それもそうね。それじゃあ、宅配便か何かかな?でもこんな時間に来るわけないし・・・。」
ピンポーン。
チャイムが鳴りやむ様子はない。2人の間に妙な緊張感が走る。
「ちょ、ちょっと悪霊、あんたのぞき穴から見てきなさいよ。」
「えぇー、私ですかー・・・?嫌ですよー・・・」
怨霊さんの一件もあり、二人とも深夜に鳴るチャイムに軽くトラウマを抱えている。押し問答が続いたが、結局ジャンケンで負けた幽霊が見に行くことになった。
「もぉー・・・誰だよこんな深夜に。どれどれ・・・。」
じー・・・
「ど、どうですか幽霊さん。」
流れる静寂
「あー・・・これはヤバい奴かも。」