壁
今日は早朝から昼過ぎまでバイトがあった。
人と関わらない無意味な生活を送っていても、生きていく上で最低限の金は必要になる。
働かずに金を手に入れることが出来れば、おそらく俺は一歩も家から出ないだろう。しかし、実家に嫌気がさして飛び出したのは俺自身の責任だ。自分の面倒は自分で見なければならない。
「ふぃ~今日も疲れた。今は、2時過ぎか。ちょいと遅いが昼飯にするか。」
カップ麺に湯を注ぐ。こういう時インスタント食品は便利だ。最低限の準備で腹を満たせる
テレビを点ける。今日は土曜日なので、いつも見ている昼の報道番組は流れていない。バラエティ番組の再放送が流れている。
「あ、そういう言えば。昨日あの訳わからんのが出てきたのもこの時間帯だったな。」
あまりに意味不明過ぎてすっかり忘れていた。本当にあの現象はなんだったのだろう。
そもそもあの女の子は幽霊?だったのか?考えれば考えるほど、テレビに目が行ってしまう。
「うおっ!?」
その時、俺の心を読んだかのように画面に例のシーンが映し出される。そう、薄気味悪い井戸の映像だ。
「おいおい、またかよ。まじで勘弁してくれよ…。」
毎日昼過ぎになると、あの訳のわからん少女に不法侵入されてはたまったもんじゃない。
ひっ捕らえて、警察に不法侵入で突き出すか?そんなことをすれば、逆に俺が未成年者誘拐で捕まりそうだ。全く、嫌なご時世になったもんだ。
さて、どうしたものか。考えている間にもどんどん奴は迫ってくる。さすがに2度目とあって、恐怖心はすっかり俺の中から消えていた。
「あ、そうだ。前にネットで見たことあるあれ試してみるか。」
早速、テレビの向きを壁の方向へ変える。そう、テレビから出てきた時、目の前が壁であれば、かの有名なテレビから出てくる霊、貞子さんは出てこれないんじゃないか、というアレだ。
後ろ向きになったテレビを眺めながら、どうなるのか見守る俺。他人から見れば、なかなかシュールな光景である。何してんだろ、俺。
そうこうしているうちに、テレビから声が聞こえてくる。
「ふっっふっふ。テレビが高いとこに置いてあるのはもう知ってるもんね!今度はゆっくり降りるから落ちないもんね!・・・・あれっ?ちょ、な、ナンデスカコレ。ちょ、ちょおおおおおおおおっ!!!!出れないっ!出れないぃぃぃぃぃぃ!!!」
呆気なく引っかかってくれたわ。なんとまぁ味気ない結果である。
「おいっコノヤローっ!ずるい!ずるいぞぉぉぉっ!!!これやっちゃいけないやつだよ!(ドンドン)」
必死にテレビから出ようとする謎の女の子であったが、脱出できそうな気配はない
「うるせぇ。あと壁叩くな。隣の人に迷惑だろうが。」
「くっそぉぉぉ…。お、おぼえてろっ!次は絶対怖がらせてやるからなっ!グス…」
泣くなよ。泣きたいのは俺の方だ。というか、もう来るな。
捨て台詞を吐くと、幽霊ちゃんの声は聞こえなくなった。テレビからは、バラエティ番組の再放送の音声が聞こえてくる。
「よいしょっと…」
無気力にテレビの向きを元に戻す。ホントに何やってんだ、俺。ええっと、何してたんだっけ。そうだ、確か遅めの昼飯を食べようと______
「あっ!、忘れてた!!!…ちくしょう・・・。」
キッチンへ行くと、伸びきったラーメンが俺を出迎えてくれた。
はぁ…。また無意味な時間を過ごしてしまった。