嵐の前触れ
聖夜の大宴会も終わり、皆が酔い潰れて寝静まった頃
「_____…さん、ネコ美さん。起きてください。」
「…う~ん、むにゃむにゃ…もう飲めへんて…____…ん?あれ、ウサ太郎やん。何してん…?」
「寝ぼけている時間はありませんよ。『粛清部隊』が来る前にさっさと逃げないと。」
「…しゅくせい?________っ!!!!そ、そうやった。うちとしたことが、すっかりこいつらのペースに乗せられていたわ…。」
我に返るネコ美。仕事に失敗し、喰面までも対霊課の手に渡ってしまったことは既に『京都本部』にはバレているとみて間違いない。となると、後は粛清部隊によって消されるのみ。本部の手練れの中でも、更に精鋭中の精鋭。戦って敵う筈も無いだろう。
「せめて喰面さえ取り戻せれば…くそ、この怨霊っていうクソ女、一体どこにやったんや!」
焼酎の大瓶片手にソファーで爆睡している怨霊さんを睨みつけるネコ美。実体化のまま寝ているので、一応隠し持っていないか探しはしたが、勿論喰面は見当たらなかった。
「…おそらく、ここに来る前に対霊課の手に渡ったと考えるのが妥当でしょうね。仕方がありません。今はここを離れるのが先です。早くしないと、対霊課だっていつ来るか分かりませんから。」
「粛清部隊に、対霊課…うぅ、どっちみち地獄や…。」
通常、暴霊団の構成員が逮捕されると、『この世の地獄』と称される霊獄に投獄される。そこから無事に出てこられたものは、人間も霊もいない。
音を立てぬように玄関の扉をそっと開け、主人公の部屋を後にするネコ美とウサ太郎。
マンションのエントランスを出たその時だった。
「メリークリスマスです。仮面教の戦闘員さん。」
暗闇の中に立つ、スーツ姿の男。2人は瞬時に感じ取った。こいつは『対霊課』だと。
「…もう少し泳がせて貰えるかと思ってましたが、年貢の納め時が来たようですね。」
「くぅ…せめて粛清部隊と対霊課が鉢合わせになれば面白かったのに…!!」
抵抗する意思がないことを示すように、両手をあげるウサ太郎とネコ美。
「粛清部隊…?あぁ、それなら今しがたうちのボスが____あ、戻ってきました。おーい、貞子さーん!こっちでーす!」
マンションの駐車場方面に向かって手を振る対霊課の男。どんでもない霊力をもつ霊がこちらに近付いてくるのが分かった。
「うぉいっコラ!サイトウ!貞子さんって呼ぶなって言ってるでしょ!『姉さん』か『先輩』と呼びなさい!それと、何これ!?どーいうこと!?」
霊力で空中に拘束されている2~30人ほどの仮面を付けた人間たち。皆漏れなく気絶し戦闘不能となっている。
「うわ、もう全部やっちゃったんですか?えと、『どーいうこと』、と言いますと?」
「こいつら、仮面教の粛清部隊じゃないじゃない!下っ端兵士よ。付けてる喰面も、本物の劣化品。わざわざ私が出向くまでも無かったわ。あーあ、これなら2課でも対処できたじゃない。」
「いやー、来ると思ったんですけどね。向こうも警戒して様子見ってとこなんでしょう。それよりサダ…先輩、喰面の使い手の2人見つけました。」
「ふーん…こいつらね。」
ネコ美とウサ太郎は戦々恐々とした。暴霊団なら知らない者はいない、対霊課最大戦力『貞子』。
やられているのは恐らく仮面教関東支部の雑兵。仮にこいつらが百人いようが、彼女一人には敵わないだろう。
「にっ…煮るなり焼くなり好きにしぃや!どーせ霊獄送りやろ!」
諦めてしゃがみ込むネコ美。しかし、貞子の口からは思いもよらぬ言葉が飛び出した。
「そうね、煮るなり焼くなり好きにさせて貰うわ。あなたたち2人は対霊課の管理下になってもらうわ_____喰面の実験体になってもらいます。拒否権は無い、これは命令よ。」
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仮面教『京都本部』
「失礼致します。冥狐様。ご報告が。」
「入りなさい。」
冥狐と呼ばれる『狐の喰面』をつけた女の部屋に部下が報告に訪れる。
「今しがた連絡が入りまして、関東支部の人造喰面兵およそ30がいずれも戦闘不能とのことです。」
「…そうでしょうね。人造喰面も、自爆機能とか付けたらもっとマシになるかしらねぇ…それで?離反者2名は?」
「京都本部『猫面』戦闘員、関東支部『兎面』戦闘員、いずれも足取りは不明。いかがいたしましょう、『粛清部隊』はすぐにでも動かせますが。」
「それはいいわ。対霊課『貞子』でしょう?今粛清部隊をぶつけてもこっちになんのメリットも無いですし。それより、兎君も猫ちゃんも裏切ったかー。やっぱり、スカウト組は駄目ね。被害が3~40人レベルの面で済んで良かった。これがもし『3桁』級の面が対霊課に渡ったら私が怒られちゃう。」
冥狐はゆっくりと席を立つと、窓の外へ視線を移す
「_______まぁ、いずれにせよ、2人は私が『処理』するわ。それよりも、近いうちに大きな動きがあるわよ。」
「…と、仰いますと?」
「『皇大社』で大きな動きがある。いよいよ本格的に始まるわよ、争奪戦がね。」




