コンビニ前の聖夜戦Ⅱ
同刻、主人公と藤宮のいるコンビニから、数ブロック離れた雑居ビルの屋上。
設置されたテントの前から、双眼鏡片手にカップ麺を啜るのは『超常現象研究会』幹部ヌイ。
「…ズズー…あー、体に染みるわぁー。やっぱカレー味に限る_______…おい人形姫!もうとっくに交代の時間だぞ!そろそろ起きろよっ!」
テントの奥で毛布に包まり、ピクリとも動かないゴスロリ姿の少女は、同じく幹部である人形姫。
「五月蠅いですわ、ヌイ。何でこの高貴な身分であるわたくしが、こんな安物のテントの中で凍えなくてはならないの…!?全くもって意味が分かりませんわ…!!」
「なーにが『高貴な』だよ。落ちぶれ貴族だろーがっ!それにこっちだって、お前みたいな人形オタクと組まされるとか最悪だよっ!」
彼女たちは決して、この極寒の聖夜にテントパジャマパーティーをしている訳ではない。『極霊力』というレア霊力を持っている主人公の監視だ。いや、監視というより『護衛』に近い。
オークションでの一件以降、研究会のボスであるキサキから下った命令は、『他の暴霊団の手から彼を守ること』だ。数日おきに研究会の幹部たちが交代で監視を命じられている。といっても、今日まで交戦どころか姿さえ見えなかった。どこの組織もまだ『様子見』をしているのだろうか。
「何故キサキ様はあの男をの護衛など命じられたのか…?さっさと攫ってしまって、洗脳系の霊使いにでも任せれば手っ取り早いですのに…。」
「さぁな。何か考えでもあるんだろ_________ん…?おい、人形姫。ちょっとこっち来い。」
ヌイの双眼鏡が、ピタリと一点で止まる。
「私は絶対に動きませんわよ。あ、そうですわ。わたくしのお気に入りの人形を代わりに置いていきますから、後は任せますわ。」
「…いいからこっち来いって。これ見たらそんな軽口聞けなくなるぜ。」
ヌイは嫌がる人形姫の毛布を引っぺがし、無理やり双眼鏡を覗かせる。人形姫は黒髪のツインテールを震わせながら、嫌々双眼鏡を受け取る。
「分かった、分かりました!見ればいいんでしょ、全く。うぅ…寒いですわ…。」
「コンビニの斜め向かいの雑居ビル…2Fのガストの窓際の席の二人組…見えるか?」
ヌイの指示通り、人形姫は双眼鏡を動かす。目に映ったのは、ちょうどコンビニを見下ろせる位置の席に座わる若い男女の2人組。ブレザーの制服姿だが、この辺りではあまり見かけない制服だ。
「…えぇ、見えましたわ。どこの組織かは知りませんが、明らかに『堅気』の人間ではありませんわね。」
霊力は隠しているのか、ここからの距離では微塵も感じられない。しかし、『同業者』同士というものはいくら気配を隠したところで、その立ち振る舞いや目つきから分かってしまうのだ。
「や、やべー。師匠から確認しとけって言われてた他の暴霊団組織の『構成員リスト』見とけば良かったぜ…どーせ今夜も来ないだろと思って家に忘れてきちまった…。」
「そんなもの、見る必要ありませんわ。どこの組織のそんな構成員だろうと、私の人形たちの敵ではありません。」
「む…ヌイだって、あんな連中に負けないし!ヌイの犬霊たちはさいきょーだし!」
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同刻、ガスト店内。
「つぅーかさぁー…あたしら、いつまでこうやってここで駄弁っとかなあかんの?いい加減、飽きたねんけど。」
着崩したブレザーの制服の袖をひらつかせながら、不満そうな表情で注文したポテトをつまむ少女。
「こらこら。はしたないですよ。スカート短いのですから、そんなに脚を開いたら下着が見えてしまいます。女の子なのですから…」
彼女の向かいに座るのは、同じブレザーの制服を着ている糸目の男。年齢は同じくらいだろうが、彼女とは正反対で優等生を絵に描いたような口調と佇まいをしている。
「うっさいわ。あんたは関東支部の人間やから気ぃ楽かもしれへんけど、うちはわざわざ京都の本部から来てんで?さっさとターゲット殺して終いにしたいねん!あ、店員さーん、このイチゴのパフェちょーだい。」
ポテトに飽きたのか、大声で店員を呼びつけ追加で注文をする少女。
「今回は『殺し』の仕事ではありませんよ。何回も説明してるじゃありませんか。」
「うち、難しいこと分らんし!誰を殺したらのか教えてよ。そこのコンビニのトナカイのにーちゃんちゃうん?」
『はぁ…』とため息をつき、やれやれといった表情で糸目の男が説明する。
「違いますって。あの方は殺すのではなく『捕縛』するのが目的です。今は人通りが多いので、少なくなるまでここで時間を潰すのが、私たちの仕事です。」
「えぇー!少なくなるまでって…あと何時間もつまらん君と時間潰さなあかんのー!?いーやーやぁ!!」
足をばたつかせ、駄々をこねる子供のようにぐずり始める少女。
「つ、つまらくて申し訳ありません。うーん…困りましたねぇ…仕方ありません。分かりました、準備運動がてらに『掃除』しときましょうか。」
「掃除ー?あ!もしかして、うちらのことさっきからずっと見てる奴らのこと?」
目を輝かせる少女。
「そうです。恐らく、私たちと同じように『極霊力』を狙う他の組織の構成員でしょう。おおよその位置は分かりますね?」
「あっちのビルの屋上やろー?さっきから気になっててん!」
「では、決まりですね。」
席を立ち、ガストを後にする2人。店を出ると、すぐさま路地裏へと入る。そして、2人が学生カバンの中から取り出したのは________『仮面』。
「お、そっちは『兎』かぁ!今それ何人くらいやっけ?」
糸目の男がカバンから取り出したのは『兎』の仮面。
「28人ですね。あ、最近、前の使用者が『喰われて』しまったので29人でしょうか。おや、貴女は『猫』ですか。」
「ええやろー?今この面、40人らしいわ。ま、うちなら『3桁』の面だって使いこなせるけどな!」
少女は自信ありげにそう呟くと、ゆっくりと猫の仮面を装着する。糸目の男も続き、兎の面を装着。
ズズズ______________________
彼女たちが装着したのは、【喰面】。面が取り込んだ人数に比例して強力な霊力を宿す特殊な仮面。
「さー、お掃除始めようかにゃん♪」




