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幽霊ちゃんとの怪奇な日常。  作者: くろのくん
第13章 クリスマス編
190/202

コンビニ前の聖夜戦Ⅰ

12月24日。時刻は夜の19時を少し回ったところ。

街の大通りはイルミネーションで光り輝き、その中をカップル、家族連れが幸せそうな笑顔を浮かべながら歩いている。

________街が幸せいっぱいに包まれているイブの夜、俺はというと、間抜けなトナカイの被り物を被り、コンビニ入り口横の仮設販売所にいた。隣には、サンタコスをした後輩の藤宮。両者とも、とっくに目は死んでいる。


「_______あのー、先輩。」


「うぅッ~…さ、寒ぃ‥ち、チキンいかがですかー!!ケーキの販売も行っておりまーす!!______何だ?藤宮。」


「今日って…『クリスマスイブ』ですよね?」


「そうだが?それがどーした?」


「…いえ、特に何も。歩いている人たち、みんな幸せそーだなって。ただ、それだけです_____ケーキいかがですかぁーーー!!!」


「…その調子だ、藤宮。何も考えるな。俺たちはただこの有り余ってるチキンとケーキの山を売り捌くことだけに集中すればいいんだ。」


ここまでくれば、俺と藤宮が何をしているのかは明白だろう。そう、コンビニバイトには切っても切れぬ宿命。『チキン&ケーキノルマ』だ。おせち、恵方巻、土用の丑の日、そしてクリスマス…季節イベントなんて消滅してしまえと何度思ったことか。しかし、無慈悲にも季節は強制的に変わり、俺たち下っ端バイトにノルマが重くのしかかる。


「はぁー、ホントなら今頃彼氏とイブの夜を過ごしてたはずなのになぁー。こんな冴えないトナカイ先輩とケーキ売りの少女やる羽目になるとは…」


藤宮がわざとらしい口調で愚痴を言い始める。


「すみませんね、冴えないトナカイで。ほら、愚痴言ってないで客の呼び込みに集中しろ。このままじゃ自爆営業確定だぞ?このまま売れ残ると_______まぁ、今夜のバイト代は吹っ飛ぶな。」


「…トナカイ先輩、私の『彼氏』発言はスルーですか?ちょっとは焦るとか無いんですか?」


「どーーーーでもいいわ、藤宮の恋愛事情なんぞ。それにお前、見てくれはいいが性格きっついから彼氏とか出来ねーだろ。」


「それ以上言ったらその角、へし折りますよ?全く、光栄に思ってください。こんな可愛いサンタコスのJKとイブの夜を過ごせるんですから!」


寒さで赤くなった頬を膨らませる藤宮。

正直、サンタコス姿の藤宮が可愛いのは認める。てか、めちゃくちゃ可愛い。先ほどから藤宮目当てで絡んでくる男客も後を絶たないほどだ。そのほとんどが、『ケーキ買ってあげるからさぁ、この後遊ぼーよ』などと下心満載のゲス客ばかりで、追い払うのに苦労している。


「先輩は、この後予定とか無いんですか?まぁ、聞くまでも無いですけど。」


「ふん、残念だったな。どーせ『先輩クリぼっちなんですか?うけるー!』とか言って笑いたいんだろうが、俺には予定がある。もちろん、女とな。」


「えぇッ!?ウソでしょ!!こんな冴えないトナカイ先輩に…彼女っ!!??そ、そーいえば最近、先輩から女っ気の気配もあったし…いやそんなまさか…!!」


______まぁ、嘘は言ってない。確かに俺にはこの後約束がある。・・・家で待つ、幽霊、悪霊、ナナシとクリスマスパーティーをする約束だ。特にナナシは、デパートでのハサミ男の一件以降、より心を開いてくれるようになり、幽霊と悪霊に交じりクリスマスパーティーの準備に積極的だった。本当に楽しみにしているようだ。それもこれも、ハサミ男が無事捕まったことも大きいだろう。


__________________________


2日前、ハサミ男撃退直後。


「ご協力ありがとうございまーす。先ほど状況提供いただいた件も、対霊課のほうで責任を持って対処させてもらいますのでー。」


俺たちの通報にすぐに駆け付けてくれた対霊課のサイトウ。ハサミ男を霊力で作った鎖で拘束し、今も捕まっているであろう奴霊たちの救助にも動いてくれるそうだ。


「でも、奴霊は違法にならないから、対霊課は動けないんじゃ?」


素朴な疑問をぶつけると、サイトウは不敵な笑みを浮かべながら答えた。


「さすが、鋭いっすねー。仰る通り、奴霊制度はグレーなところもあって対霊課もそう簡単には動けないんですけど、今回はこの『ハサミ』があるので。これ、国が保管してた霊具の1つなんですよね。かなり昔に盗難に遭ってたんすよ。それを足掛かりに礼状取って家宅捜索出来るって訳です。奴霊のみなさんも所有者不在ってことでうちで保護できるって訳です。」


口から泡を吹いて完全に伸びているハサミ男。自らのハサミにあれだけ精神をズタズタにされたのだ。恐らく意識が戻ってもまともな日常生活は送れないほどの精神的ダメージを負っているだろう。


「それにしても、めっちゃ懐かれてるみたいっすね。任せて良かったです。」


サイトウが、俺の背後に目をやりながら安心した表情を浮かべる。俺の背中には、先ほどからがっちり抱き付いて離れないナナシの姿が。


「大きい赤ん坊だよ。いつから俺は子持ちになったんだか。今日は助かったよ、サイトウ。そのハサミ男の事頼むぜ。」


サイトウが去った後、気を取り直してクリスマスの買い出しに戻る。


「______おーい、ナナシー。そろそろ離れてくれないかー?せめて実体化解いてくれー。さすがに重い。あのハサミ男は俺がぶっ飛ばしたからもう大丈夫だぞ?」


そこへ幽霊が、納得いかない様子で口をはさむ。


「なーにが、『俺がぶっ飛ばした』よ!いつも通りの私主導の憑依戦闘にしとけば瞬殺だったのに。わざわざ霊力の出力落として君主導でやりたいって言うから、この幽霊ちゃんが君の中で必死に調整してたんだからね!」


「見ていてハラハラしてたのです!」


悪霊にまで駄目だしされる始末。たしかに2人の言う通り、俺はまだハルカやふーちゃんのように『霊使い主導』の憑依戦闘に慣れていない。これが出来るようになれば今までとは違う霊力の使い方が出来るのだが…。


「_______また、迷惑をかけるかもしれません…。」


背中のナナシが不意に口を開いた。


「迷惑?何でだ?」


「…今日みたいな、私の過去を知る人たちがまた襲ってくるかもしれない。私だけでなく、幽霊さんや悪霊さんにも危害が及ぶかも…」


「お前、そんなこと気に__________」


俺が言い終える前に、幽霊と悪霊が一斉に口をはさむ。


「ちょ、ナナシ!まーだそんなこと気にしてるの!?ナナシはもう家族なんだか、そんなこと気にしなくていーの!今日みたいな雑魚、いくら来てもこの幽霊ちゃんがぶっ飛ばすし!ね、悪霊!」


「はいなのです!それに、ナナシが来る前からしょっちゅう襲われているのです。慣れっこなのです!」


こういう時、幽霊と悪霊の正確には助けられる。


「…と、言うわけだナナシ。これからも、安心してうちにいてくれていいから、そう悲観的になるな。それに…なんだ…さっきも言ったけど、俺の事は『兄』と思ってくれていいし。」


「…みんな__________ありがとう、お兄ちゃん…!!」


『お兄ちゃん』と呼ばれるのはちょっと恥ずかしいが、これでナナシも本当に家族の一員になれたようでうれしかった。誰かとクリスマスを過ごすのはいつぶりだろうか。何だかんだ、一番楽しみにしてるのは俺かもしれない。


_________________________


「…おーい、先輩!トナカイせんぱーい!!聞いてますかー?」


目の前で藤宮が手をヒラヒラさせている。


「…聞いてるよ。ちょっと考え事してただけだ。それより、さっきも言ったが俺は早くこのケーキとチキンの山を売り切って早く家に帰らないといけないんだ。お前も協力してくれ。」


「…はぁ?な、なんで私が先輩の彼女との仲を持たなきゃなんないんですか!?意味わかんない。勝手にやってろって感じですよ。」


明らかに機嫌が悪くなる藤宮。これはちょっとやり過ぎたかもしれない。


「…わかったよ、俺が悪かった!!彼女なんていねーよ!!家で待ってるのは家族っつーか…同居人みたいなもんだ。」


「…なっ!そ、それならそうと始めから言ってくださいよ!せ、先輩に彼女いるとかビビるじゃないですか…そ、それなら私もこの後バイト終わったら…その…先輩の家に遊びに行っていいです…か?」


得意の上目遣いで攻めてくる藤宮。ちくしょう、悔しいが可愛い。サンタコスも相まって破壊力2倍だ。


「は…はぁ?お前何言って…」


「彼女とかじゃないんですよね!?だったら私も言っても問題ないですよね?じゃないと、私今日のバイト調子悪いって言って帰りますから。」


「う…そうなったら、俺の自爆営業代が…くそ、分かったよ!藤宮もうち来ていいから、何とか21時までにこいつらを売り切るのに本気出してくれ!」


「やったー!!先輩の家行ってみたかったんですよねー!楽しみー!頑張りまーす!!」


満面の笑みを浮かべる藤宮。今日一番の笑顔だ。

________まずい、勢いに押されてしまったが、確か藤宮には霊を視る程度の霊力は持っていたはず…家に帰れば幽霊たちが視えてしまう。かといって、藤宮の手助けが無ければ、販売ノルマ達成は不可能__________俺は考えるのをやめた。


「_______えぇい!なるようになれ!!!いらっしゃませーーーーーー!!!ケーキ、チキンはいかがですかーーーー!!!!」



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