クリスマスツリーとハサミⅣ
人気のない薄暗い部屋、壁際で異常なほど怯えるナナシ。
詳しい事情までは分からないが…このサラリーマン風の男が『敵』だと言う事だけは、火を見るよりも明らかだ。何より、俺がこの部屋に入った時、男が瞬時に背後へ隠したもの…形からして恐らくハサミだが、恐ろしいほどに禍々しい気配を放っていた。見たところ霊使いではなさそうだが________
「誰です、あなた?」
取ってつけたような笑顔を浮かべながら、ハサミ男が口を開いた。こいつ、あくまでシラをきるつもりか。
「…誰って、えぇっとー、俺はナナシの同居人…保護者?うーん、なんかしっくりか来ないな…」
ハサミ男に勘付かれないようゆっくりナナシの前へ移動する。
「ナナシ、俺はお前にとってどんな存在がいい?」
「えっ、えっと…それじゃあ…お、お兄ちゃん…?」
ヒュォッ____________
ナナシが答えたその刹那、ハサミ男が瞬時に間合いを詰めて来る。背後に隠し持っていたハサミの刃が俺の喉元を狙う。こいつ、かなりの手練れのようだ。まるで憑依戦闘かのようなスピード。もし今俺が生身だったら一瞬でやられていただろう。もし、生身だったらの話だが。
じょきんッ!!!!!!!
「________なっ…!!私のハサミが…??」
ハサミの刃は確実に俺の喉元を捉えていたが、まるで見えない壁に阻まれるかのように刃が閉じることは無かった。
「そのハサミ、呪具か何かか?霊使いでもないお前が、そんな人間離れした動きが出来るのはそのハサミの霊力おかげか…せっかく不意打ち狙ったとこ悪いが、その程度の霊力じゃ、憑依戦闘中の俺に傷一つつけれねーぞ?」
ギギギ…
刃の軋む音が鳴り響く。
「くっ、クソがぁっ!!!!!!『コレ』は私の人形だ!私の所有物なんだよォ!!!」
ハサミ男は絶叫しながら何度もハサミを斬りつけて来る。受けても問題ないのだが、敢えて全て躱して見せる。
「…『所有物』、『人形』か。だいたいの事情は分かった。あんた、ナナシが奴霊だった頃の所有者か。」
「ハァ‥ハァ…だッ、だからなんだというんだ!?売られていたから買ったまでだ!!それとも何か?道徳の授業でも始めるつもりか!?」
「まさか。てめーみたいな精神異常者に何言っても無駄ってことくらい分かってる。『奴霊売買』にあれこれ言うつもりは無いが___________うちの『妹』を泣かせた落とし前は付けてもらう。」
「何が『妹』だ!!やれるもんならやってみr____________な…なんだ‥??かっ、体が…動…か…ない…??」
ズズズ…
「__________悪霊、こいつの頭の中覗いてみて。こいつがナナシに何してきたか教えてくれ。」
(「はいなのです!ご主人様!!」)
こっそり陰で待機していた悪霊。憑依で標的の体の自由を奪い、自在に記憶まで覗く。憑依型の霊である悪霊にとって造作もないことだ。
(「ふむふむ________このハサミはアレですね、霊体・生身に関わらず切りつけた相手に苦痛のみ与える呪具のようなのです。うわ…酷いのです…こいつ、このハサミで多くの霊をを斬りつけて、いたぶってやがったのです…!!許せないのです、とんでもない数の霊たちが、いたぶられた末に消滅しています…!!」)
「_______とんでもないクズ野郎だな。今から俺がそのハサミでお前を切り刻んでやりたいところだが、残念ながら俺はお前みたいに他人をいたぶる趣味は無い。」
「みっ、見逃してくれるのかっ!?」
ハサミ男の顔が安どの表情に包まれる。
「は?んなわけねーだろ。俺がやりたくないってだけで、お前の『被害者』たちは別だろうな。」
「な、何を言って…どういうことだ?」
ハサミに手をかざし、俺の霊力をゆっくりと流し込む。やはりこのハサミには、刻んできた霊たちの残留思念が微かだが残っている。霊力を流し込むことで、それを活性化させる。
_________痛かっただろう、辛かっただろう。君たちを嬲ったのは、この男だ。
ズズズ…!!!!!
ハサミは小刻みに震えながら、ゆっくりと男の手から一人でに離れ宙に浮遊する。
「嘘だろ…!?やめ…やめろぉ…うわあああああああああああぁギャあああああああああ」
じょきんじょきんじょきんッ!!!
その後、霊たちの残留思念が完全に消滅するまでの小一時間、ハサミ男の絶叫が部屋中に鳴り響いた。




