クリスマスツリーとハサミⅠ
ナナシがうちにきてから1週間がたった。初日はどうなる事かと思ったが、あれだけ情調不安定だったナナシは、少しずつではあるが『普通の』女の子らしさを取り戻しつつある。幽霊と悪霊とも、普通に会話できるようにもなった。
「あぁー、もうあと3日でクリスマスだよー?それなのにさぁー、うち飾り気がないよね?ナナシもそう思わない?」
「…いえ、私はこの家に置いてもらえるだけで幸せですから。」
幽霊から会話を振られたナナシは、洗濯物を畳みながら淡々と答える。家事はしなくていいと言っているものの、ナナシが率先してそつなくこなすためすっかり頼りっきりになってしまっている。爪の垢を煎じて幽霊と悪霊に飲ませてやりたい。
「何いい子ぶっちゃってるんですかナナシ!クリスマスですよ?チキン、ケーキ、プレゼントも大事ですが、中でも必須なのは_________ツリー!クリスマスツリーなのですよっ!!」
幽霊に加わり、偉そうに演説を始める悪霊。
「…クリスマスツリーだぁー?あんなもん、あっても無くても変わらんだろ。それに、ツリーならほら、あるじゃんそこに。」
冷蔵庫を指さす。そこには、先日銀行で貰ったクリスマスツリーを模した小型マグネットが貼ってある。
「…そんなんだから、いつまで経っても彼女出来ないんじゃん。」
幽霊が軽蔑の視線を俺に向けながら呟く
「おいコラ幽霊ぃ!今どさくさに紛れてなんて言った?そこまで言うなら教えてくれよ!クリスマスツリー所持率と彼女の有無の関係性を!ちゃんとした統計データがあるんだろうなぁ!?」
「そーゆーところなのですご主人様。」
売り言葉に買い言葉で、俺と幽霊、そして悪霊のクリスマスツリー論争はますますヒートアップしていく。そんな我が家の『日常』の風景を見ながら、ナナシはクスリと笑った。滅多に見れないナナシの笑顔を見つけた幽霊が、嬉しそうに声を上げる。
「あ!ナナシが笑ってる!ねーねー、やっぱナナシもツリーが家に会った方がテンション上がるよね?見たいよね?ツリー!」
「いえっ…えっと、そんな私は________はい、無いよりかはあったほうが、いいかな…とは思い…ます。」
幽霊に詰め寄られ、ナナシは困ったように目を泳がせながら俯きがちに口を開く。
「はい、言質頂きました!ね、ナナシもこう言ってることだしツリー買いに行こうよ!」
「行きましょうご主人様!ついでにみんなでクリスマス買い出しなのです!」
「______っ…あぁ、もう!分かったよ!出る準備しろ。…ったく。」
何かと出費がかさむこの年末の時期に、あまり無駄な買い物はしたくは無い。・・・が、3対1ではこちらが分が悪い。それにまぁ、今年はこいつら3人と過ごす初めてのクリスマスだ。恐らくナナシは『家族と過ごすクリスマス』の記憶が無いはず_______クリスマスツリー…飾ってやるか。
こうして一同は、多くの客で賑わう近くのデパートへ出発したのだった。




