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幽霊ちゃんとの怪奇な日常。  作者: くろのくん
第13章 クリスマス編
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ナナシという少女Ⅲ

__________私の名前は『名無し(ナナシ)』。まだ生きていた頃には、両親から付けられた名前があったけれど、もう忘れてしまった。両親の顔さえ、今では霧がかかったようにぼんやりとしか思い出せない。


「ここが、今日から君がお世話になる家っす。『無害』が擬人化したみたいな人なんで、心配する事ないですよー。」


大きなマンションの、ある一室の前に着いた。私をここまで連れて来たこの男は、対霊課のサイトウというらしい。サイトウがチャイムを鳴らすと、すこし間が空いてからドアが開いた。中から現れたのは______________男の人。



「_______今日からこの子を預かって欲しいんですよー。」


サイトウの言葉に、驚いた表情となる男。たしかに、無害を絵にかいたような人だ。けど、私は知っている。今まで、この人と同じような優しい表情をした男の人に何度も買われてきた。実際に優しかった人など、1人もいない。


「はじめまして。私の名前は『ナナシ』といいます。家事全般はもちろん、愛玩物としてもお使いください。」


・・・今まで、何度も何度も口にしてきたセリフ。私のことを買った男の人は、みんなこのセリフで喜んだ。今日からは、この人が私の『飼い主』になるんだ。捨てられないようにしなきゃ。


「…つ、通報案件?」


「ご主人さま…いくらロリコンでも誘拐はダメなのです。」


__________驚いた…若い女の子の霊が二人もいる。『幽霊』と『悪霊』と呼ばれているけど、主人と仲睦まじい様子で会話をしている。こんなの…こんなの、まるで…家族だ。この子たちも、この男から酷いことをされている?…そんな風には見えない。


「_____________今日からよろしくな、ナナシ。」


気が付くと、微塵の悪意も感じられない表情で3人が私を見ていた。私が霊になってから、向けられたことのない優しい眼差し。…いや、一度だけあった。捕まっているときに知り合った、アリサという霊。解放された後、行き場のない私を彼女が住むカラオケ店で匿ってくれた。アリサも、わたしに優しい眼差しをくれた。けれど、駄目だった。『優しさ』に慣れていない私は、馴染むことが出来ずに結局ここに来ることになった。どうしていいか分からない。どういう顔をすればいいか、分からない。


「私のような家畜を飼っていただき心から感謝申し上げます。」


私の身体は勝手に動き、土下座の恰好をとる。スッと心から感情が消えるのが分かる。これでいい、これでいいんだ。私は『家畜』に徹すればいい、そうすれば、追い出されないはず。


________けれど、私の新しい主人は、私を家畜として見てくれなかった。彼だけではない、幽霊様も悪霊様も、私に一緒に食事をとろうとまで言ってくれる。


「…こっちきて一緒に昼飯食おうぜ?」


どうして?わたしは家畜なんだよ?邪魔だと思われないように、飽きられないように、頑張らないといけないのに__________


ガシッ___________


「…ナナシ、掃除はやめろ!」


ご主人様が、私の腕を掴む。駄目だ、失敗した。怒らせてしまった。わたしが使えない家畜だから。きっと殴られる…痛いのは、嫌だ。謝らなくちゃ…早く謝らなくちゃ…!!じゃないと________捨てられる。


__________________________


気が付くと私は、ベッドの上で眠っていた。思わず飛び起きる。


「…何で私、眠って…?たしか、ご主人様を怒らせて、それから__________」


そうだ、あの後何故か涙が止まらなくなってしまったんだ。それから、『命令だ』と何度も言われて、おにぎりとお味噌汁を食べた。何でご主人様は、家畜の私にそこまでするのだろう。


「…ご主人様の匂いだ。このベッド、ご主人様のだ。」


再びベッドに横たわる。今まで、ベッドで横になる時はたいてい、飼い主から『嫌なこと』をされる時だけだった。こんなに心が安らぐベッド、初めて。


ガチャ_____________

寝室の扉が開き、ご主人様が入ってくる。私は寝たふりをした。怖い。もしかしたら…もしかしたらこれから、今までされてきたような『嫌なこと』が始まるかもしれない。慣れているはずなのに、『この人はそんなことはしない』と、心の隅で、そんな淡い希望を抱いている私がいた。


布団と毛布がめくられ、冷たい外気が私の身体を刺す。私の隣に、ご主人様が入って来るのが分かる。すぐに布団が掛けられ、ベッドの上で私とご主人様の身体が密着する。ご主人様の手が、私に伸びて来るのが気配でわかる。

_______あぁ、やっぱり、この人も今までと同じで、私に『嫌なこと』をするんだ。身体を触られて、弄られて、それから、痛いことをされる。希望なんて持っちゃダメだ。


身体を強張らせて、ぎゅっと目を瞑る。

けれど、ご主人様の大きな手は、私の身体を触ることは無かった。ただ、私の頭を撫でるだけ。ゆっくり、優しい手つきで、何度も、何度も。


_______たしか、霊になる前、私に兄は居なかった気がするけど、もしいたのなら…こんな感じなのかな。


気が付くと私は、ご主人様の胸の中に顔をうずめながら再び眠りについていた。

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