秘書ちゃんの憂鬱Ⅲ
________ちょおおおおおおおおおおっ!?キサキさんっ!?なにガソリンに核爆弾ぶっこむみたいな発言しちゃってるんですかぁっ!?!?
秘書ちゃんは口から胃が飛び出そうなのを必死にこらえながら、何とか無表情を維持する。
「……その発言、『宣戦布告』と受け取って構わないのだな?『小』鬼使いキサキ…!!」
殺気をキサキに向ける八咫烏のボス。
「…ほう、『極霊力』とは。これまた随分珍しい名前が出てきましたね。一体、どういう話なのですか
?」
涼しい表情のゴースト家執事長。まるで、『え、何その話。うち初耳だよ。』という表情なのだが、ゴースト家ともあろう組織が知らない筈は無かった。もちろん、『八咫烏主催のオークションが、極霊力持ちの霊使いに襲撃を受けた』という情報は入手済み。秘書ちゃんは瞬時にこのことを読み、各組織の立場を考察する。
________ゴースト家…あくまでこの場は知らぬ存ぜぬを貫くつもり、か。さて、キサキさんの爆弾がどう転ぶか…
「ふん、貴様はそうやってとぼけてるがいい、ゴースト家。…単刀直入に聞こう。我ら八咫烏の商売を、極霊力持ちの霊使いを送り込んで襲撃したのは貴様か?研究会。」
「あら、何か勘違いしているようね。あなたの商売を潰した子は、研究会の…私の獲物だってことを言いたかったの。あなたは殺したいのでしょうけれども、それは私が許さないわ。」
「泥を塗られたのは我々だ…黙って獲物を貴様に譲れと言うなら、こちらとて容赦はせんぞ?」
「この場であなたに分からせてあげてもいいのよ?」
睨み合う、八咫烏のボスとキサキ。そこに割って入ったのは、仮面教のボス。
「待ちなはれ、待ちなはれ。なんや、お二人で盛り上がっとるとこ悪いけど。八咫烏さんとこを襲ったっちゅう、極霊力持ちの霊使いの男は、どこの組織にも属してないってことやろ?」
「黙れ、仮面教。どこの組織の差し金などどうでもいい。我々、八咫烏の獲物だ。このことだけはこの場ではっきりしておく。」
「______あなた、私の話を聞いていたのかしら?どうやら死にたがりのようね。」
再びヒートアップする会議。いや、会議というよりマウント取り合い合戦と呼んだ方が適切か。
_________…ぶっちゃけ、あの極霊力の男に、襲撃を促したのはうちのキサキさんなんだよなぁ…これバレたらヤバいんじゃ…今のとこ、上手い具合に八咫烏のボスの頭に血が上ってるから問題ないけど…。
気が気じゃない秘書ちゃん。既に彼女の着ているシャツは、冷や汗でびっしょりと濡れていた。
混沌化し始める頭目会議。秘書ちゃんが脳内でまとめたところ、この場は大きく分けて『3グループ』に分けられる。
その1~『とにかくぶっ殺したい』グループ~
これは、八咫烏のみ。いくら希少な極霊力持ちの霊使いであろうとも、正面から襲撃を受けておめおめと商品を逃がされたのだ。生け捕りなどあり得ない。
その2~『生け捕りで組織の戦力にしたい』グループ~
超常現象研究会と、仮面教の2組織。組織の戦力にしたい、という部分においては、キサキの考えていることとは少しずれるが、『自分のものにしたい』という点においては、研究会もこのグループに入るだろう。
その3~『ただの傍観者』グループ~
今日集まった上位5組織の中で、一番強力な勢力を持つゴースト家は現時点で『傍観者』の位置を取る様子だ。
_______と、まぁ、こんな感じでしょうかね。この会議、いかに大声で『うちの獲物だ!手を出すな!』と言い張れるかが決め所…幼稚園児の喧嘩か何かかな、これ…自分で考えててアホらしくなってきちゃった…けど、気になるのは__________
秘書ちゃんは、ちらりと『皇大社』のボスこと、ロリババアの方へ目線を向ける。いつもなら、我先にと言い争いに参加する彼女だったが、何故かこの『極霊力を持つ霊使い』の話題には、今のところだんまりを決め込んでいる。
_______ただ単に、興味が無いのか?いや、そんな筈は無い。極霊力保持者の霊使いなど、喉から手が出るほど欲しいはず。何を企んでいる…?私がただ考え過ぎなだけなの…?
ニヤリ
__________っ…!!しまった…目が合ったっ!!
思わずロリババアの方を見つめてしまった秘書ちゃん。そんな彼女の視線に気づいたのか、ロリババアは秘書ちゃんの方を向き、ニヤリと笑みを投げかけた。秘書ちゃんは確信した、このロリババア、何かを隠している、と。
そして、ついに口にする。この場にいる、誰もが予想だにしなかった事を。
「…その極霊力保持者の霊使い、我が『皇大社』の跡取り___________つまり、我の『孫』じゃ。」
「「「「!?」」」」
突然の爆弾発言に、凍り付く会議室。
「_____________死ね。」
ズズズ_____________
まず動いたのは、八咫烏のボスだった。今まで隠していた霊力を惜しげもなく解き放つと、全ての殺気をロリババアの方へ向け攻撃態勢に入る。背中には、巨大な烏の『黒翼』が広がっていた。
ロリババアの『我の孫』という発言は、そのまま『お前んとこの商売を潰したのはうちやで』と自白したと受け取るのが自然。八咫烏のボスは、すぐさまこの場で皇大社のボスを潰そうと動いたのだ。
「…愚かな、鳥風情が。」
ズォッ!!!メキメキメキッ!!!!!
八咫烏のボスからの攻撃を受け止めたのは、ロリババアの背後に立っていた従者。真っ黒い着物を纏った小柄な彼女の着物の裾から、無数の巨大な『蜘蛛の脚』が生えていた。
すぐさま秘書ちゃんは、キサキに危害が及ばないよう盾になる。他の組織の従者も秘書ちゃんと同じように自らのボスを守る体制をとる。
_________あれが噂の皇大社の『妖怪』…!?なんて禍々しい霊力…けど、相手が悪い。
「…ふん、所詮は虫。喰ってあげます。」
秘書ちゃんの予想は当たった。
黒翼をはためかせると、おびただしい数の羽が飛び交いまるで意志を持ったかのように舞う。そして意図も簡単に蜘蛛の脚を切断する。圧倒的だった。
ザシュ_________
しかし黒い着物の少女は、脚を切断されたのにもかかわらず全く意に介していない様子で再び八咫烏のボスと向き合う。
「待て待て。我の言い方が悪かった。孫じゃとは言うたが、我がお前さんとこのオークションを潰せと命令した訳じゃないぞ?」
パンパンと手を叩きながら場を鎮めるロリババア。すぐさま黒い着物の少女は命令に従い、攻撃態勢を解く。だが、八咫烏のボスは納得がいっていない様子。
「…いい加減にしろ老害め。もはや貴様の言い分などどうでもいい。貴様の身内ならば、皇大社を潰すまでだ。」
「分からん奴じゃなぁ…『アレ』は当分昔に、我が皇大社から追放したのじゃ。今の今までどこで何をしとるか知らんかったが…」
ロリババアはゆっくりと椅子から立ち上がり、そのまま円卓の中央に土足で仁王立ちになった。
「今この場ではっきりさせよう________『アレ』は我が孫で皇大社の跡取りとなる男。今後、ちょっかい出してくる組織がいるのなら…我が『皇大社』が喜んで戦争してやる。・・・じゃ、またの。」
ズズ…
突如、円卓の中央から巨大な『骸骨の腕』が出現する。ロリババアと従者の黒い着物の少女を包むと、跡形もなくこの場から姿を消した。




