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幽霊ちゃんとの怪奇な日常。  作者: くろのくん
第12章 頭目会議編
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秘書ちゃんの憂鬱Ⅰ

主人公たちがアリサ奪還作戦を完遂した、2日後の朝。とあるマンションの一室で、1人の若い女性が目を覚ます。


「…くわぁ~_________ねっむ。」


彼女の名前は、魔咲緋沙子マサキヒサコ。超常現象研究会という名の暴霊団で『秘書』の役職を担っている。幹部メンバーからは、『秘書ちゃん』と何ともまぁ、安直な呼び名で呼ばれている。彼女自身、あだ名などどうとでも良かったが、彼氏いない歴=年齢の現状、『緋沙子』と優しく下の名で囁いてくれる彼氏が出来ないかなぁ、などと幻想する虚しい毎日である。


「やばっ、もうこんな時間!今日は死ぬほど忙しいのにぃーっ!」


枕元の目覚まし時計の時間を見るや否や、ベッドから飛び起きる秘書ちゃん。もう数週間はクリーニングに出していないスーツを急いで着用し、冷蔵庫に常備してある栄養ドリンクを片手にワンルームマンションを飛び出す。


「今日はアレしてこれして……ちょっと待って…今日って『幹部会』の日っ!?…大学に隕石でも落ちないかなマジで…」


自宅から大学まで、電車で10分。その車内で今日のスケジュールを確認し絶望に打ちひしがれる。

月に2度、研究会の幹部たちが集まり、各々成果や問題を報告する会議である『幹部会』なのだが、これがまた考えるだけで頭を抱えたくなる会議なのだ。早くも帰りたい、そう心から思う秘書ちゃん。


「おっ、オハヨー、秘書ちゃん。」


「朝っぱらから相変わらずの仏頂面だなぁー、つまんねー!」


大学内にある研究会専用のビル内で最初に出くわしたのは、胡散臭い金髪の男と口の悪いチビ女。研究会幹部の『師匠』と『ヌイ』だ。

_________うっさい、仏頂面は生まれつきだよ。と心の中で悪態をつくも、決して口には出さない。私は秘書だから。


「おはようございます。お二人とも、先日ご連絡差し上げたように本日は定例の『幹部会』がありますので、出席の程よろしくお願いします。」


こうでも釘を刺しておかないと、幹部連中は無断欠席が多い。何?漫画とかで良くある、会議欠席しちゃう系幹部でも目指してんの?


「幹部会ね、あぁー、わーってるわーってる。行けたら行くわ。それじゃ、食堂の激安朝めしが売り切れちまう。ヌイー、急ぐぞー。」


「はいです!ししょー!」


曖昧な返事を残し、急いでこの場から立ち去ろうとする師匠とヌイ。『行けたら行く』、この言葉がいかにぺらっぺらな言葉なのか、秘書ちゃんは今までの経験でそれを死ぬほど味わっていた。


「あ、ヌイさん!あなたの持ち霊の動物霊が、先日第3会議室の備品を壊してました!躾はしっかりしてください!」


「うーん、うちの子たちには基本的にのびのびと育って欲しいからなぁー。それは無理だ!じゃあな!」


そう言い残し、視界から消える2人。

___________あぁ!?てめぇのクソ犬保健所連れてくぞゴラァッ!?と、心の中で悪態をつくも、決して口には出さない。私は秘書だから。


ガチャ________

秘書室に入り、よっこらせ、とおっさんのような掛け声とともに椅子に腰を掛ける。


「…ふぅ、ともかく、今日は忙しいんだ。キサキさんが来られる前に、最優先で処理すべきタスクをまとめておかないと…」


『秘書』と言えば聞こえはいいが、一般的に言えば『総務』。さらに平たく言えば『何でも屋』なのだ。スケジュール管理からボスの護衛まで、その業務は多岐にわたる。


コンコン_______

不意に扉がノックされる。朝一で秘書室にくる客など、ろくでもない用事である可能性が高い。


「…はい、どうぞ。」


ガチャ________


「…し、失礼するわ…!!」


部屋に入って来たのは、研究会幹部の『人形使い』だ。ゴスロリファッションで本人も人形のような外見をしている彼女の眼には、何故か涙が溜まっている。その理由に大方の予想が付いている秘書ちゃんは、思わずため息を漏らす。


「…はぁー…またですか?人形使いさん…。」


「だ、だって仕方がないでしょ!!私の人形たちは意志を持っているもの!私と喧嘩してしまうことだってありますわよ!」


「今月に入って3度目ですよ?今年に入って33回目…いい加減、人形離れしてください。」


「そ、そんなの無理に決まってるでしょ!早く一緒に探しなさいよ!」


人形使いの彼女は、自らが使役する人形と、こうして時々喧嘩をする。迷惑なのは、喧嘩をして不貞腐れた人形たちは、自らの足でどこかへ隠れてしまうことも多いのだ。その度に半泣きになって、秘書である私が大捜索に駆り出される羽目となるのが常態化してしまっている。

__________このメンヘラゴスロリクソヒス人形女がァッ!!こちとら、てめぇの糞みてぇな人形ごっこに付き合ってる暇はねぇんだよッ!!と、心の中で悪態をつくも、決して口には出さない。私は秘書だから。


「______はぁ~…って、もう10時!?キサキさんが来られる時間っ!!」


人形の大捜索に1時間も無駄な時間を使ってしまった。とにかく、今日のスケジュールだけはきっちり伝えないといけない。死に物狂いで予定表を組み、我が主の到着を玄関で待つ。


一台の黒塗りのベンツが停まり、中から一人の女性が降りてくる。女である私でさえ、何度見ても思わず見とれてしまうほどの美貌もつ彼女こそ、私が秘書として使える女性、研究会の実質トップである『キサキ』だ。


「おはようございます、キサキさん。」


「_____んっ~…おはよ、秘書ちゃん。良い朝ね。」


「はい、仰る通りです。キサキさん。」


お世辞にも秘書ちゃんにとっていい朝とは言えない朝だったが、キサキが良い朝だといえば良い朝になってしまう。彼女が『そう』言えば『そう』なるのだ。


「それでは、早速ですが本日のスケジュールを読み上げさせていただきます。」


廊下を歩きながら、キサキ専用の部屋へと向かうこの時間でさえ惜しい。早口に本日の予定を秘書ちゃんが読み上げる。


「_________…そして、16時より第3支部へ視察。19時より、以前より合併吸収を予定しておりました小規模暴霊団幹部との会食。以上が、本日のスケジュールになっております。」


全て読み終える頃には、キサキは自室に到着しソファーに腰かけていた。


「……んっ_________くわぁ~……_________」


「…?キサキさん?」


おもむろに背伸びをし、ソファーに横たわるキサキ。

_______あ、まずい。この感じは、やる気がないモードのキサキさんだ。


「…秘書ちゃーん、わたし、雪見だいふく、食べたくなっちゃった。買って来て?」


_______出た。出たよ、出ちゃったよ。キサキさんの、『〇〇食べたい。買って来て?』。

秘書を始めてから何度このやる気ないモードに振り回されてきたか。こうなってしまっては、もう手が付けれない。いつもは容姿端麗・頭脳明晰・妖姿媚態な彼女でも、このモードに陥ってしまってはその精神年齢は5歳児並みに下がってしまう。


「だーめーでーすっ!しっかり働いてもらいますよキサキさんっ!」


「やぁーだ!アイス食べるのっ!絶対食べるの!!」


お構いなしに、ソファーの上で駄々を捏ねるキサキ。先ほど、黒塗りのベンツから颯爽と降りて来たあの美しい姿は見る影もない。

___________いい加減にしろやこのクソガキァッ!!お前のクソみてぇな発作のせいでいっつも予定が狂いっぱなしなんだよォ!!雪見だいふく死ぬほど口に突っ込んで殺したろかァ!?…などと、心の中で悪態をつくも、決して口には出さない。私は秘書だから。


「ほーら!起きてください。じゃあ、一つスケージュールこなしたら、雪見だいふく一つあげますか_______ん?」


ヴヴヴ…ヴヴヴ…

ポケットに入れてあった業務用スマホが電話の着信を受ける。

発信番号は非通知。


「もしもし?どちら様でしょうか?」


数秒の沈黙の後、無機質な女の声がスピーカーから流れる。


「______________…です。」


ガチャッ・・・ツー・・・ツー・・・


たった一言だけ言い残し通話は終了される。そのたった一単語を聞いた秘書ちゃんの表情に一気に緊張が走る。

_______はぁー…嘘でしょー…?もぉーーー死にたい。帰りたい。


「…キサキさん。本日のスケジュールは全てキャンセルします。」


「えっ!!やったぁっ!!雪見だいふく買って来てくれるの!?」


ぱっと一気に表情が明るくなるキサキを制し、秘書ちゃんは電話の内容を端的に伝える。


「___________本日、『頭目会議』が開催されます。」


最低最悪な一日になりそうだ、思わずそう呟きそうになるのをぐっとこらえる秘書ちゃんであった。

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