最終決戦は星空の下でⅡ
「________ハァっ…!!ハァっ…!!!あぁー、クッソ!!足速すぎだろこの牛の化け物!?」
走る。とにかく走る。後ろを振り返っている余裕は無い、そのたった1秒そこらの時間のロスが、死へと直結すると俺の本能が訴えかけていた。
「あった!!!そこの扉開けたら外に出れる!!屋上まであと少しだ!!」
少し先を先導して走るハルカが、屋上へと続く外階段の扉を見つけ叫んだ。
何とか術者たちが待つ屋上まで、背後の牛頭を誘導しなければならない。その為には、こうして追いつかれるギリギリの距離感で逃げなければならないのだ。
「______も、申し訳ないの…私、足手纏いなの…。」
俺背中に背負っているふーちゃんが意識を取り戻し、消え入りそうな声で呟いた。
「…あっ…足手纏いとかっ…な、何言ってんだっ!!!ここまで来れたのは、ふーちゃんと、ハルカのおかげなんだっ____________ちょ、タンマ!!今まともに喋れねーわっ、走ることでっ、精いっぱいッ________ハァ…ハァ…!!」
背中に背負うふーちゃんの華奢な体の重さなど、どうってことは無かった。別に強がっているわけではない。恥ずかしながら、ただただ後ろから迫ってくる『死』の恐怖から逃げたい一心で走るしか無かった。ふーちゃんに対し、気に聞いた言葉を投げかける余裕などない。
ドドドドドドドドド_______________
「罪人罪人罪人罪人罪人罪人ザイニン________________________!!!!」
いや、何だよマジでコイツ!?とうとう『罪人』しか喋らなくなったぞ?再生を繰り返すたびに、知性失ってるんじゃないのか。
「開けるよっ!!!!」
ガチャンッ____________ビュオオオオォォォッ
ハルカが扉を開けた瞬間、冷たく激しい風が吹き込む。52階建ての超高層ホテルの屋上だけあって、吹き荒れるビル風の強さも尋常ではない。なるべく周囲を見ない様に、最後の力を振り絞り外階段を駆け上がる。
「_________つ、着いたっ!!!術者たちはどこだ_________???」
屋上の地面には、大きくⒽのヘリポートのマークが描かれており、端には赤い航空障害灯が点滅していた。都内有数の高層ビルなだけあって、眼下には光の海とも表現できるほどの夜景が広がっており、思わず息をのむ。
ガシャアアアァァァァァン!!!!!!!!
牛頭が扉を破壊する音が鳴り響き、とうとう屋上にその姿を現した。暗がりではっきりとは見えないが、幾度となく破壊と再生を繰り返したその肉体は爛れ、歪に歪んでいた。
「オオォォォォォォォォォオオッ!!!!!!!!!!!!!!」
悲鳴のような叫びと共に、牛頭が猛突進してくる。
__________術者たちの姿は見当たらない、俺たちは裏切られ逃げられたんだ。ここは屋上、もはや逃げ場はない。
「…まさか、こっちっ!!!!」
「なっ!?!?」
ヴンッ_______________
突如、何かに気が付いたハルカに腕を引っ張られ屋上の端へと倒れこむ。直後、地面に光の線が次々に浮かび上がり、牛頭を中心に『正十角星』の図形が完成する。よく見ると、屋上の端には丁度10名の術者たちがそれぞれ正十角星の頂点に立っていた。皆、高速で術を詠唱している。
「ウッ_______グァッ???????ザ________ザイ…罪人ハ_________」
牛頭は全く身動きが取れないでいた。まるで、四方から迫る見えない壁に徐々に押しつぶされていくみたいだ。さすが、強力な霊阻害結界を張れる術者集団なだけあってか、その実力は本物のようだ。
「…あっ、あの!!このまま押し切りたいのですが、我々だけでは霊力が足りませんっ!!このままだと、こちらが力尽きるのが先です…!!」
直ぐ近くの術者の一人が、額に汗を浮かべながら苦しそうに呟く。こういう時こそ、俺の『極霊力』の出番だ。
「あぁ、任せとけ!!お前ら全員に送ればいいんだよな?待ってろ…すぐ送る…!!!」
集中しろ、力任せに霊力を送れば、この術者たちのバランスを崩す事となってしまう。慎重に、10人全員に俺の霊力を送るんだ。
ズズズ_____________キィィィィィィィン__________!!!!!
「グアァァァァァァアッ!!!!!!!!!!!!!!」
正十角星の光の線がより一層輝き、一気に中心の牛頭の身体を圧縮する。そのサイズは、既に半分ほどの大きさにまで圧縮されていた。
「行ける…!!行けるぞっ!!!!」
思わず歓喜の声を上げる俺。だが、この一言が間違っていた。漫画やアニメでは定番の『やったか!?』系の発言。これは、ほぼ100%『やってない』結果を誘発する魔法の言葉なのだ。こんなありきたりなフラグ建設を、俺は間抜けにもやってしまったのだ。
ビキビキッ______________ズガァァアンッ!!!!!!!!!!!!
牛頭は動かせない腕の代わりに足を使い、屋上の地面を思い切り踏みつけた。激しい音と共に、地面には大きな亀裂が入り、正十角星の図形が崩れる。牛頭を押し潰さんとしていた見えない壁は効果を失い、封印が破られる。
「う、嘘だろ____________________危ないっ!!!!!!!!!!」
解放された牛頭は真っ先に俺を見るや否や、怒り狂った咆哮を上げ飛びかかって来た。
そのあまりの恐怖に、俺の足はピクリとも動かない。背中のふーちゃんだけは助けなければという考えだけが、唯一俺に残されたまともな思考だった。
「ハルカっ!!ふーちゃんをっ!!!!!!!!!!」
バッ_______ガシッ____________
力任せにふーちゃんをハルカ目がけて投げ、何とかふーちゃんと道連れになることは避けられた。
「君も逃げ____________________」
ハルカが最後まで言い終える前に、俺は悟ってしまった。
_______『あ、俺ここで死ぬ』、と。数十センチ前には、ちょうど金棒を振り下ろす途中の牛頭の巨体が。こういう時、よく走馬燈が流れるとか言うが俺にはそれは無かった。ただ、『あぁ、これ当たったら痛いんだろうなぁ』とか、牛頭の背後に見える都会の夜空を見て、『都会の空ってやっぱ星見えねえなー』などといった俺らしいと言えば俺らしい、どうでもいいことばかりが頭に浮かんだ。
______________ダァァァン!!!!!!!!!
固く目を瞑った時、銃声のような音が周囲に鳴り響く。ゆっくり目を開くと、そこには地面に顔を突っ伏した牛頭の姿が。
「________あ、あれ?俺…生きて…る?」




