immortal Object
「_______悪霊、気絶してる幽霊とアリサを連れて逃げろ。ハルカとふーちゃんは、こいつらを出口まで守ってやってくれないか…?」
「…ちょ、ちょっと待ってください!ご主人さまは一緒に逃げないのですか!?」
「そりゃ逃げたいけど…誰かがここで『しんがり』にならないと、どう考えてもあの牛から逃げれないだろ?幽霊にはもう戦わせることはできないし、悪霊も限界だ…逃げ回って囮になるくらいは俺にだって_________痛ったッ!?何すんだよハルカ!」
俺が言い終わらないうちに、隣で話を聞いていたハルカがみぞうちに軽くパンチを入れてきた。
「ライバルが残って闘うのに、このハルカ様に逃げろって?ぜっっったい嫌だね。わたしも残って闘う…!!」
ハルカに続いて、ふーちゃんも大きなため息をつきながら呟く
「…全く。あなたにはいつも呆れさせられるの。あんな訳の分からない化け物、命が幾つあっても足りないの。それに契約霊なしの生身で挑むなんて…本物の馬鹿なの?」
俺の前に並んで立つハルカとふーちゃん。元々無関係だった2人には、もう十分過ぎるほどに助けてもらった。半分素人の俺にだって、あの牛の化け物が如何に危険かくらいは分かる。先ほどの蛇崩も相当な強敵だったが、コイツの存在はヤバさの次元が違う_________だが、ジッと牛のいる方向を見据えるハルカとふーちゃんの眼を見て、2人の意志の固さを理解する。
「________分かった…!!ったく、2人には助けられっぱなしだな…帰ったら焼肉奢ってやるよ。」
ガシャァァンッツ!!!!!!ガシッ______________
瓦礫の崩れる音と共に、部屋の暗闇の中から、切り落としたはずの牛の巨大な腕がぬっと伸びてくる。心なしか一回り太くなって様にも見える。
「もう時間が無い…!!アリサッ!!ここに来るまでに、青葉っていう若い女に会わなかったか?」
「あおば…会った!その子がうちらを檻から出してくれて、一緒に逃げてたんやけど途中でこの牛と出くわしてしもて、うちが囮になってるうちに他の捕まってた霊たちを逃がして貰ってた!」
「良かった、青葉は無事のようだな。よし、たぶん作戦通りなら青葉とは40階で合流する手はずになってる。何とか悪霊と一緒にそこまで逃げてくれ。」
「…分かった!!うちも一緒に戦えたらええんやけど、うちの能力はカラオケ店限定や…絶対、死なんといてな?」
自分だけが逃げることにまだ納得のいっていない様子のアリサだったが、その思いを押し殺して逃げることを受け入れた。その隣で、気絶している幽霊を背負った悪霊が目に涙を浮かべながら俺の袖をつかむ。
「ご…ご主人さまぁ…絶対、また会えますよね?」
「あのなぁ…誰が死ぬって言ったんだ?俺は意地でも生き残るつもりだよ。ほら、早く行け。青葉と合流するまで、背中の幽霊を守ってやってくれ。」
くしゃくしゃと悪霊の頭を撫でて、ぽんと背中を軽く押す。悪霊は、ゴシゴシと腕で目に溜まった涙を擦ると、大きな声で返事をする。
「_____はいなのです!!ご主人さま、ご武運をっ!!」
悪霊たちの背中を見送り、再び暗闇で蠢く『化け物』と対峙する。いつ襲い掛かって来てもおかしくなかったこの状況で、悪霊たちが無事この場から離脱できたことは奇跡に近かった。
「…それで?何かかっこつけてあの子たちを逃がしたわけだけど________どーするつもりなの?アレさぁ…」
ハルカが、半ば諦め気味の口調で呟く。
「私の見立てだと…あと100回くらい致命傷を与えることが出来れば、もしかしたら斃せる_______かもしれないの。」
「ふーちゃん、何だよその希望的観測を更に薄めたみたいなの……いいか?俺に出来るのは、二人に霊力を供給することくらいだ。なるべく調節しながらゆっくり供給するから____________」
「その必要はないの。あなたが一度に供給できる最大の霊力で良いの。ハルカ、体の主導権は私に任せて欲しいの。」
「分かったよ、ふーちゃん。」
ズズズ…
憑依戦闘状態となるハルカとふーちゃん。修行の成果もあってか、今の俺はある程度任意の人物・霊に対し霊力を供給できるようになった。大量の霊力を送ればそれだけ受け手は強化されるのだが、そうすると霊使い・霊共に体に多大な負担がかかってしまう。先ほどの幽霊がそのいい例だ。その為、供給する霊力は慎重に調節しなければならない。
「は?分かってるだろ?そんな事したら、下手すりゃ俺の霊力に耐え切れずに、ふーちゃんが消滅することだってあるんだぞ!?」
日本刀を出現させ、青い炎を纏うふーちゃん。青く光る鋭い目をしながら、臨戦態勢に入る。
「そのくらいしないと、アレには勝てないの…!!気を付けて!来るのっ!!」
「くそっ!!どーなっても知らねぇぞ!?」
シン____________________
ずっと暗闇で牛が蠢いていた音が急に止まり、不意に静寂が訪れる。じっと刀を構え攻撃に備えるふーちゃんが、急に廊下の天井を見上げ叫ぶ。
「上なのッ!!!!!」
「なっ_______________!?」
ズガァアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!!!!!!!!!
突如天井が崩れ落ち、上から牛が姿を現した。振りかざしてくる金棒を、ふーちゃんが瞬時に刀で受ける。しかし、その重量差もあり床に抑え込まれてしまう。
「ザ_________ザ‥…罪人______オマエ、罪人???????」
恐らく、部屋から天井裏の配線通路を突き破ってきた牛は、『罪人』という単語を壊れたラジオのように呟きながらふーちゃんを押しつぶそうとする。
「………霊力っ!!早くっ!!調節は要らないのっ!!」
必死に叫ぶふーちゃんの声に、もはや迷っている場合ではないと俺は覚悟を決める。
「くそっ_____________消えるなよっ、ふーちゃん!!」
ズッ______________________
ふーちゃんに手をかざし、今の俺が一度に出せる最大量の霊力をふーちゃんに送る。幽霊や悪霊なら間違いなく一瞬で気絶するほどの量だ。
「うっ‥‥!!!霊力、来たのっ…!!!!!これならっ、闘えるっ!!!!!」
ボウゥッ____________!!!!!ザシュッ!!!!
より一層出力の上がった青い炎で髪をなびかせながら、眼にもとまらぬ速さで牛の化け物をサイコロ状に切り刻むふーちゃん。
「ザ‥…罪_________________人____________グアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!!!!!」
メキメキッ、グチャ、ゴキィッ!!!
16等分ほどにまで切り刻まれた牛の化け物だったが、その肉片が床に落ちる間もなく、生々しい音をたてながら再生を始めた。見る見るうちに切断部は接着し、あっという間に再生を完了させた。
「う…嘘…だろ?こんなの、どーやって斃すんだよ…?」
「はぁ…はぁ…あの頭に付いてる紙…『牛頭參拾弐番』って書かれてるの…『牛頭』って、まさか…!!!くっ___________!!!」
何かに気付いた様子のふーちゃんだったが、再び襲い掛かって来る『牛頭』の攻撃を必死に躱す。
「罪人ッ!!!オマエッ!!!罪人ニハ、死ヲッ!!!!死ッ死ッ死ッ!!!!!!!」
ドゴォォンッ!!!ズガァンッツ!!バキィィッ!!!!
振り回す金棒によって、床や天井に次々と大穴が開く。その凄まじいパワーの攻撃がかすりでもすれば、いくら俺の霊力によって強化されているふーちゃんでも致命傷となるだろう。
「_________『青龍牙』ッ!!!!」
今まで見た中で一番大きい青龍を出現させ、牛頭を焼き尽くすふーちゃん。身体が炎に包まれ少しは効いている様子の牛頭だったが、この様子だとすぐに復活するだろう。
「…たぶん…だけど、あの牛の化け物の正体が分かったかもなの…」
ふーちゃんが膝をつきながら、絶望した様子でぽつりと口を開いた。
「しょ、正体って…!?」
「あの牛の化け物…『牛頭』って名前なの。『參拾弐番』は恐らく個体番号。噂でしか聞いたことが無いけど…アレは『霊獄』の獄卒霊…地獄から来た化け物…!!霊である私は、どうやっても斃す事は不可能なの____________」
驚異的な再生能力で、あっという間にふーちゃんの青い炎を消化する牛頭。いや、『再生』という言葉は間違っているかもしれない。ふーちゃんが言っていることが事実ならば、彼女の攻撃に対し『再生』しているのではなく、immortal Object(破壊不能対象物)だったという訳だ。
「霊獄?獄卒霊?地獄から来た化け物だと…?何でそんな別ゲーから来たキャラみたいなのがここにいるんだよ…!?」
___________考えろ、このままだと全滅は必至だ。だが、あのふーちゃんでさえ俺の霊力で最大限強化しても斃せない化け物だ。ん?待てよ。なにも、こいつを戦闘不能にする為には『斃す』必要は無いんじゃないのか?
斃すのではなく戦闘不能にするという視点から考えた時、俺の中である見落としてた最後のピースが繋がった。
「_____________諦めるにはまだ早いぞ、ふーちゃん。斃せないんだったら、それなりに対処法はある…!!」




