恐怖
「なんだ…今の大きな音は…!?」
蛇崩を振り切り、アリサが囚われているであろう最上階52階にたどり着いた主人公たち。到着するや否や、地響きと共に凄まじいい衝撃音がフロア全体に響き渡る。
「…分かんない。けど…ふーちゃんも、感じる?」
「感じるの。このフロアに得体の知れない『何か』がいるの…一体何なの、この気配…?」
ハルカとふーちゃんが神妙な顔をしながら呟く。
確かに2人の言う通り、このフロアには異様な気配が充満していた。霊でも、霊使いでもない________今まで感じたことのない、体の底から湧き上がるような悪寒に襲われていた。
「い、急ぐのですご主人さまっ!アリサが心配なのです…!!」
悪霊が不安そうな表情で俺の袖を引っ張る。
「…あぁ、そうだな。急ごう!さっきみたいに、二手に分かれて探そう!ハルカとふーちゃんも気を付けて___________ん?ま…待てよ、あれって…!!」
だが、その必要はすぐに無くなる事になる。前方から、こちらに向かって全速力で走って来る人物が目に飛び込んでくる。その顔を見て、思わず俺と悪霊は声を上げてしまう。
「_______ア、アリサぁ!?」
「アリサなのですっ!!無事だったのですっ!!」
まさか、探し始める前に向こうから来てくれるとは思わなかった。大きく手を振り、アリサに向かって合図を送る。アリサはこちらに気付き、その表情がパッと明るくなるも、すぐ切羽詰まった様子で大声を上げた。
「アカンっ!!みんな逃げてぇっ!!!!」
____________ズガァァァァンッツ!!!!!!!!!!
「うっ_________痛ったぁ…」
俺たちがアリサの言葉の意味を理解し終える間もなく、彼女のすぐ背後の壁が音を立てて崩れ落ちた。アリサはその衝撃波を受け、廊下に倒れこんでしまう。粉塵で良く見えないが、アリサを追っている『何か』が壁を突き破って出て来たのだ。
「大丈夫かアリサっ!?」
急いでアリサの元へ駆け寄るとだんだんと粉塵が収まり、アリサを追っていた『何か』の全貌が明らかになる。隆々と盛り上がり血管が浮きあがる赤黒い筋肉、そして3mは易々と超えるその巨体の頭部には、人間の頭ではなく、『牛』のそれが付いている。
「う_____牛ぃ!?なんだこの化け物はっ!?」
「へ…ヘビ男の次は…牛男とか、ここはにビックリ人間しかいないの…!?」
驚愕の表情を浮かべる幽霊。果たしてビックリ『人間』なのかどうかも怪しい牛の化け物は、その手に持った巨大な金棒をアリサ目がけて振りかざす。それを見た悪霊が大きな声で叫ぶ。
「あっ、ご主人さま!あの牛、アリサを攻撃しようとしているのですっ!!」
「分かってるっ!!幽霊っ!!」
悪霊が言い終える前に、すぐさま幽霊と同化し憑依戦闘状態に入る。練度のより高いハルカとふーちゃんが、俺と幽霊よりコンマ0.5秒速く憑依戦闘を完了させ、牛の化け物目がけて斬撃を飛ばす。
ザシュッ____________!!!!!
ハルカとふーちゃんの斬撃は、見事な切れ味で牛の両腕を切り落とした。
「腕は落としたのっ!!トドメはそっちに任せるのっ!!」
牛がひるんでいるうちに距離を詰め、アリサと牛の間に割って入る。腹部目がけて、電撃と炎を纏った幽霊の拳が炸裂する。
「任されたっ!!________________『赫霆撃』ッ!!!!!!!」
バリバリバリッ__________!!!!!!ズガァァアンッ!!!!!
牛の化け物h吹っ飛び、天井や壁と派手に衝突しながら扉を突き破り、ホテルの一室へと吹き飛んだ。
「はぁ…はぁッ…_________も…もうだめ…なんか…意識…が……」
「幽霊、大丈夫か!?すまん、無理させちまったな…」
直後、俺と幽霊の憑依戦闘が解除され、霊体となった幽霊が床に倒れこむ。咄嗟に幽霊を受け止めるも、その体は薄っすらと透けていた。俺の霊力は無限ではあるが、その無限の霊力を圧縮することによって繰り出すこの技は、彼女の霊体に多大な負荷が掛かってしまう。蛇崩との戦いでとっくに限界は迎えていたが、更に幽霊に無理をさせてしまう結果となってしまった。
「うっ…ん‥…あ、あれ…うち、生きと…る?」
気を失っていたアリサが、ゆっくりと体を起き上がらせながら不思議そうな顔でこちらを見る。
「アリサぁーーーーーーーーーっ!!!この悪霊は心配したのですよー!!」
すぐさま悪霊がアリサに飛びつき、涙声を上げる。状況を理解したアリサも、同じように目に涙を浮かべながら抱き着く悪霊の頭を撫でる。
「お…遅いわ、アホ。__________ホントに…ありがとぉ…!!」
数日間ではあるが、アリサがその数日で味わった恐怖は相当なものだったのだろう。無事なアリサを見て、助けることが出来て本当に良かった。
「ふぅ…大丈夫そうだな、アリサ。ったく…ここまで来るのに本当に苦労したんだぞ?」
落ち着いたアリサは、くしゃくしゃの笑顔をしながら答える。
「…ありがとーな。せや!今度、うちのカラオケタダで招待したるわ。どや、これでええやろ?」
「…冗談言えるくらいには元気ありそうだな。あ、そこで寝てるのは俺の契約霊の幽霊で、あっちの2人は霊使いのハルカとその契約霊のふーちゃん。2人とも、お前を助けるのに協力してくれたんだ。」
「うちの為に、見ず知らずの人が…!!ほんま、感謝してもし切れん…!!ホントに、ありがとうございますっ!!」
アリサは、ハルカとふーちゃんの元へも歩み寄り何度も何度も頭を下げて自分を助けることに協力してくれた礼をした。俺への感謝とはえらい違いだ。
「ふ、ハルカ様にとって別にこの程度、どうってことはないのだよ!ね、ふーちゃん?」
「…もう二度と今回のようなのは御免なの。それより__________」
ふーちゃんが、牛の化け物が吹っ飛んでいった部屋へと鋭い視線を向ける。何となくではあるが、ふーちゃんの言いたいことは、彼女の緊迫した表情から読み取ることが出来た。
「ま…まさか、あの牛…まだ生きてるって言うんじゃないだろうな…?冗談キツイわ…。」
幽霊の必殺技が炸裂した際、右手には確かに胴体に大穴を開けた感触があった。明らかに相手が人間でない為、俺が一度に出せる最大出力の霊力を叩きこんでやったのだ。おまけに、ハルカとふーちゃんによって両腕も切断されている。これだけの猛攻を受けて『動く』筈がない__________のだが…。
「______その『まさか』なの…。私も、正直信じられないの。けど、あの牛、まだ生きてる。それどころか…まだピンピンしてるの…!!」
ガシャァン…!!!ズシャ…ズシャ…!!!
部屋の暗闇の中から、瓦礫を押しのけ起き上がりこちらに歩みを進める音が響く。
いつもクールで冷静なふーちゃんだったが、その語尾は震えていた。俺たちはこれから、本物の『恐怖』を味わうこととなる。




