▷逃げる
「何をするかと思えばー、そういえばあなたもう一匹霊を連れてましたねぇー。最終兵器ー…と仰りましたぁー?面白いですねぇー。」
__________ビキッ…メキメキッ…!!
蛇崩の変身は尚も続く。既にその眼は完全に爬虫類の『それ』となり、頬は裂け蛇の毒牙をそこから覗かせていた。
「きもいのです、ヘビ男っ!_______最終兵器であるこの悪霊の出番が来たからには、お前は成す術もなく私たちを見逃すこととなるのですっ!」
(「…悪霊、必要以上に煽るな。いいか、手筈通り『アレ』を発動させるぞ…!!なんなら、暴走したっていい。とにかく『発動』させちまえばこっちのもんだからな‥‥!!」)
「りょーかいなのです!!必殺ぅ____________あ、ご主人さま!そういえばまだ必殺技の名前決めてなかったのです。」
(「そんなもんどうでもいいわっ!それに必殺技って呼べるような代物じゃねーだろアレは!」)
正直なところ、現状悪霊との憑依戦闘にはまだまだ未知数な部分が多い。幽霊は単純な近接戦闘型の霊なのだが、悪霊は憑依型の霊であり扱いが難しく技術を要する。修行中の悪霊との憑依戦闘では、何度も暴走し大変な目に遭った。今から発動する技はそんな数々の暴走の中で、最も『危険』だった技だ。
「うぅ…!!悪霊も、幽霊みたいなカッコイイ技名叫びたかったのです。イマイチ締まりませんが仕方がないのです___________発動ぅ!!!」
ヴンッ_____________キィィィィン________________
悪霊の琥珀色の眼がより一層輝くと、周囲に甲高い音が鳴り響く。突如鳴り響く音に蛇崩も動きが止まるも、その音は10秒ほどで鳴りやんだ。
「…よし!終わりなのですっ!たぶん成功したのです、ご主人さま!」
(「だな…!!俺も上手くいった気がする…たぶんな。」)
必殺技(仮)を無事発動させ喜ぶ俺たちに、じっと見ていた蛇崩が心底不満そうに口を開く。
「あのぉー、すみませーん。ちょっと面白そうだったので、あえて眺めてたんですけどー。もしかして、今ので終わりですかぁ?次は何を見してくれるんですかぁ?」
数秒間の間の後、悪霊が満を持して答える。
「ふふふ…次は___________逃げるのですっ!!!」
(「ダッシュで非常階段だっ!幽霊も走れぇ!!」)
「私もうヘトヘトなのにぃー!!!」
悪霊の掛け声とともに、一斉に振り返り上の階へ向かう非常階段へと逃走を試みる。そんな俺たちの背中を眺めながら、蛇崩はため息をつく。
「______はぁー…何がしたかったのかよく分かりませんけどー、結局逃げるだけですかぁー。がっかりでーす…。もういいです、殺しちゃいますねー。」
ダッ_______________!!!!
背後から、凄まじい殺気の塊が追ってくるのが分かる。とうとう蛇崩が本腰を入れて殺しにかかって来たのだ。このままでは、数十秒後には全員仲良く殺されてしまうだろう。
「あっ______やっと見つけた!無事だった________って、何そのヘビ男っ!?そいつ蛇崩!?」
「とんでもないタイミングで合流してしまったの…!!」
非常階段を目指して全力ダッシュしていると、前方の廊下の角からハルカとふーちゃんが現れた。俺たちの背後を見るなり、『あ、まずい』という顔に二人揃ってなる。
「ハルカとふーちゃんっ!とりあえず、非常階段まで走るのです!悪霊を信じて欲しいのです!」
「言われなくても、あんなの相手にする余裕ないのっ!」
「わ、私はあれくらい余裕で倒せるし!で、でも逃げるのに付き合ってあげる!」
怒るふーちゃんと、こんな時でも好戦的な姿勢を崩さないハルカ。
2人と合流し、ともに非常階段を目指す一同。残り数メートルに迫った時、前方の非常階段へと続く扉が開く。
ガチャ____ギィ…
「「「オォォォォォォ_________________!!!!!!!!!!!!!」」」
前方から現れたのは、このフロアに来るまでに倒した大量の骸の部下たち。その数はおよそ50。
「なっ…!!さっき私たちが倒したはずなのに、なんで復活してるの!?」
「それに…なにか様子もおかしいの。」
困惑するハルカとふーちゃんだったが、憑依戦闘中の俺と悪霊はにやりとほくそ笑む。
(「やっと来たか…!!間に合わないかと思ったが、上手くいって良かった!!」)
「はいなのです、ご主人さまっ!!おいヘビ男っ!今からお前は、この悪霊ちゃんの部下50人を相手にして貰うのです!!!お前たちっ、命令なのです!後ろのヘビ男をやっつけるのです!」
悪霊の命令とともに、無数の骸の部下たちは背後から迫る蛇崩に向かって我先に突撃を始めた。全員虚ろな目をしており、まるで『ゾンビ』だ。
「______ハハハ…!!ハハハハッ!!!!面白いっ!まさか、これだけの数の人間を思うがままに操れるなんて…!!これはしてやれましたよぉー!!」
ガシッ!!バキィッ!!
襲い来る『ゾンビ』と化した骸の部下を次々と薙ぎ倒しながら、蛇崩はこれまでにないほどの興奮した姿を見せる。
「だから言ったのです、『成す術もなく見逃すことになる』と!ヘビ男はしばらく悪霊のゾンビたちと戯れてればいいのです!さよならなのですっ!!」
そう言い残すと、一気に廊下を走り抜け非常階段へと逃げ込むことに成功する。無我夢中で階段を駆け上がり、49階にたどり着いたところで悪霊との憑依戦闘も解除され、全員で床に倒れこむ。
バタッ_______
「ゼェ…ゼェ…こ、ここまでくれば…一先ずあのヘビ男は撒けただろ…!!あれだけの数だ、さすがのあいつでも全員を一度に相手にするのには骨が折れるはずだ…!!」
「___や、やってやったのです!褒めて欲しいのですっ、ご主人さま!」
「も…もう一歩も動けないよぉ……何か、私たちいっつも走ってる気がする…。」
やり切った様子で絵に描いたようなドヤ顔をする悪霊と、フルパワーでの激戦からのダッシュで真っ白に燃え尽きている幽霊。
「_____で?一体どんな手を使ったの!?なんで骸の部下が全員私たちの味方になったの!?」
一息ついたところで、ハルカが機関銃のように質問を投げかけて来る。
「憑依による遠隔操作________いくら憑依戦闘状態でも、あれだけの数を操作するなんてまず不可能なの。『無尽蔵の霊力』を持つあなただから出来ることなの…!!」
ふーちゃんが的確に俺と悪霊がやったことを分析する。
「あぁ、ふーちゃんの言う通りだ。ま、ぶっちゃけこんなに上手くいくとは思ってなかったけど。廃墟で野良霊相手に修行してた頃、偶然見つけた技なんだが…あの時は暴走して、倒した野良霊が一匹残らず復活してこっちに襲いかかって来て地獄を見たからな……今回のように悪霊の命令が効いたのは奇跡だよ。」
「むぅ…!!酷いのですご主人さま!そんな、まぐれみたいな言い方無いのです!」
ポカポカと叩いてくる悪霊。まぐれであることには変わりないのだが、もし暴走してたとしてもあの場を切り抜けるきっかけとなることには間違いない。とにかく、蛇崩を足止めすることが重要だった。
「と、まぁ、何とかヤバい奴を振り切ることが出来た。最上階まで、あと少しだ。ここからは一気に駆け上がるぞ…!!」
最上階まで、残り3フロア。
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「…はぁー、疲れましたよぉもぉー。」
主人公たちが最上階を目指して昇り始めたころ、45階では、蛇崩がくたびれた様子で壁にもたれかかっていた。彼の周囲には、ピクリとも動かなくなった骸の部下たちが山のように転がっている。
「あーあー、初仕事で失敗かぁー。後で絶対先輩たちに怒られちゃうなぁー。今から追いかけるとしますかー…あ、そーいえば。」
重い腰をようやく上げたところで、蛇崩は『あること』を思い出す。
「…そぉーいえば、骸さんが『獄卒霊』使うとか言ってたなぁー。無茶するなぁー、あの人。やっぱり追っかけるのやーめた。巻き添え喰らうより、怒られる方がましだしー。」




