怨霊さんⅥ
部屋の隅っこで、しくしく体育座りで泣いている怨霊さん。見たところ、20代前半といったところか。俺よりちょっと上くらいだ。
「あのー。すいません。泣いているとこ申し訳ないんですが、そろそろ帰っていただいてもよろしいですかね・・・?」
「・・・・グスッ・・・やだ。」
「えぇ・・・。」
これは一筋縄ではいきそうにない。泣いている正体不明の女(しかも霊)を慰めるテクニックなんて俺にあるわけないだろ。姉さん、どうせならこいつを成仏させるまでやって欲しかったです。
「そ、それじゃあ、夜も遅いから私は帰るわ。後は頑張って・・・」
「おい待て幽霊。何逃げようとしてんだよ。(ガシッ)」
「はなせぇー!だってなんか気まずいんだもん!この空気。」
「ご主人様。こうなったら、私の超絶霊力で、成仏させてみますっ!」
「悪霊、出来ないことは言うんじゃない。」
「なッ!!信じてないですね?まあ、出来ないんですけどね。」
分かってたけど、やはりこいつらは使えない。だが今回は、不本意だが俺が招いた結果。姉さんになんとか話し合いが出来る状態にしてもらったんだ。後は自分で何とかしないと。
「あのーー・・・怨霊さん。俺が出来ることは出来るだけしますんで、どうして俺についてきたかとか教えてくれませんかね。」
「・・・・・・・オサケ。」
「えっ」
「お酒、飲みたかったの・・・・。」
酒!?全く予想してなかった答え。
「えっとー・・・それは一体どういう・・・?」
「あの・・・私、ほんとにお酒が大好きで、生きてる時は毎日お酒を飲んでたんです。それで、ある日飲みすぎちゃって・・・溝にはまって・・・・そのまま・・・・」
ちょっと待て。普通怨霊って、この世に物凄い恨みを残して死んだ霊がなるんじゃなかったっけ?今の話し聞いてると、ただの酔っ払い霊にしか聞こえないんだが。
「死んで霊になってからも、ただただ、誰かとお酒が飲みたくて・・・コンビニとかを彷徨ってたんです。」
「あぁ、飲料水コーナー(お酒)の前で揺れてたのはそういうことか!!」
「はい。お酒飲みたいの舞です。禁断症状みたいなものです。」
それに死ぬほど怖がってた俺たちは一体なんだったのか。
「でも私は霊だからお金持ってないし・・・誰かに近づくとみんな何故か逃げちゃうし。けど、あなたを見た瞬間何故かピンときたんです!!この人なら、分かってくれる。お酒を一緒に飲んでくれるって!」
あかん。この人ガチのアル中だ、呑べえだ。というか、そんな理由で俺は死にそうな思いでチャリ漕いだのか。なんか泣けてくる。
「霊なんだから、勝手に盗ってもばれないんじゃないんですか?」
「犯罪ですよ!お酒のことで犯罪を犯すなんて私はしたくないです!」
「はぁ・・・。」
「それで・・・・一緒にお酒飲んでくれませんか・・・・・?」
正直、俺はそんなに酒に強いわけではない。人付き合いが薄いから、誰かと飲むなんてこと今までにないし、これからもないと思っていた。・・・しかし、ここで断るとまたあのヤバいオーラが復活しそうで怖い。
「わ、分かりました。いいですよ。今度うちで飲み会やりましょう。」
「ホントですかっ!?ホントにほんとにっ!?」
「はい・・・。」
「やったぁぁぁぁっっ!!!!絶対ですよ!?約束ですからね!!」
「はい・・・。」
「あっ、話終わったー?」
「解決したのですか?それよりお腹空きました。」
こいつら、いつの間にか2人揃ってアニメ観てやがる。人がとんでもなくめんどくさい約束をしてしまったのも知らずに。
「それじゃあ、都合の良い日が決まったら教えてくださいね。私は大体コンビニでゆらゆらしてるんで!」
そう言い残すと、怨霊さんは満面の笑顔で帰っていった。こうして、一応は怨霊さんの件は解決した。霊と飲み会という意味不明なイベントを残して。