VS蛇崩Ⅰ
ハルカとふーちゃんが蛇崩隊総勢17名を撃退し事などつゆ知らず、俺・幽霊・悪霊は45階の一角にある『リネン室』で保管されてあったシーツの山の中で、息を殺して身を潜めていた。
「________ぷはぁ!!…ねーねー、さっきから誰も追ってきてる気配ないし、もう出てもいいんじゃない?」
大量に積まれたシーツの間から幽霊が顔を出す。彼女の言う通り、ハルカとふーちゃんペアと2手に分かれた後から、蛇崩隊どころか物音一つすらしない。静かすぎて逆に不気味なほどだ。
幽霊に続いて、悪霊もシーツの山の一番奥からやっとのことで顔を覗かせる。
「_________うぬぬぅ…んしょっ…ふぅ、やっと顔を出せたのです。悪霊も、幽霊の意見に賛成なのです。いつまでもここに隠れていても埒が明かないのです。」
珍しく正論を言う幽霊と悪霊。
「…うーん。確かにお前ら2人が言ってることも、もっともな意見だ。けどなぁー…なーんか、静かすぎるんだよなぁ。あの蛇崩隊全員が、ハルカとふーちゃんの方を追うとかあり得るか?」
「まぁ、自然に考えれば、ふつう半々に分かれて追うよね。あ、アレじゃない?あいつら、この最強幽霊ちゃんにビビっちゃったとか?」
「何を言っているのです幽霊!あいつらは、この最終兵器である悪霊に怖気づいて追って来れなかったのです!」
いつもの2人の無駄な意地の張り合いがはじまる。こいつらに意見を求めた俺がバカだった。
「全く…お前らは何でこんな時になってもそう______まぁいい。とにかく、今ここでホイホイと出ていくのは悪手だと俺は思う。根拠は無いけど、俺のめっちゃ当たる『嫌な予感』センサーがさっきからめっちゃ鳴ってんだよ…。」
_____かと言って、このままずっとここにいるわけにもいかないのも事実。せめて、ハルカと連絡が取れればいいのだが、さっきからいくら携帯に電話をかけても通じない。
「…み、見て!あれ!」
「ん?どうした幽霊________な、なんだアレ。」
これからどうするか考えを巡らせる中、不意に幽霊が何かを見つけ声を上げる。彼女の視線の先を追うと、その先にあったのは、リネン室の床を這う1匹の『蛇』だ。
ズル…ズル…ズル…
「へ、蛇…なのですご主人さま。さっきまでいなかったのに一体どこから…?」
あまりにも場違いな物体を前に、呆気に取っれる一同。
『蛇』と表現はしたものの、全長2~30センチほどの小さなこの物体が『生物』ではないことは一目瞭然だ。まるで全身を墨で塗ったかのようにどすぐ黒く、眼は不気味に赤く光っている。そして何より_______禍々しい『霊力』を放っている。
_______ゴクリ…!!
息をのむ3人。全員が、『この蛇に見つかったらマズい…!!』と瞬時に感じ取っていた。シーツの山に再び頭をうずめじっと息を殺すも、そんな俺たちを嘲笑うかのように、蛇のその小さな顔は俺たちが潜む場所を正確にとらえていた。
ズズ_________メキメキメキ…!!!
「_________まずいっ!!やっぱり見つかってるっ!!逃げるぞっ!!!!」
「嘘でしょ…!!何コイツ!?」
「きっ、キモいのですっーーーーーーー!!!」
突如、全長2~30センチほどだった小さな蛇が、メキメキと音を立てながらその風貌を大きく変え始めた。胴の太さは1メートルに迫り、全長は広いリネン室を隅々まで覆いつくすほどの長さだ。B級モンスター映画にそのまま出してもおかしくない程の怪物っぷり。
ガッシャーーーンッ!!!!
ズル…ズル…ズル…
__________シャァア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!
リネン室の棚をなぎ倒しながら、その巨体を器用にくねらせ俺たちを追ってくる化け蛇。
______何だアレは?蛇の霊?いや、霊力は感じるが普通の霊やヌイの使役する動物霊とも違う。
「…『呪い』、なんですよねぇー…やっと見つけましたよもぉー。」
「!?ッ」
リネン室から脱出した直後、俺たちの目の前に蛇崩が立ち塞がる。『呪い』がどうとか言っているが、今はこの絶体絶命の状況をどうにかしなければいけない。背後からは化け蛇、目の前にはヒョロい怪しい男___________どちらかを相手にしなければならないというのなら、迷うまでも無い。
「幽霊!憑依戦闘だ!全力でやるぞ!」
「おっけーっ!あんなヒョロガリ、ワンパンよ!!」
ズズズ_______
瞬時に幽霊との憑依戦闘を始め、幽霊の身体へと変化する。右足に渾身の霊力を籠め、蛇崩の顔面目掛けて上段蹴りを炸裂させる。
「食らえっ!!」
ゴォッ______バギィッ!!!
「…おぉー、すげーすげー。憑依戦闘で霊の肉体が実体化するほどの霊力ですかぁー。ますます興味持っちゃいますよー。あ、脚どけて貰えますー?」
「う…嘘でしょ…!?」
(「…頭を吹っ飛ばす勢いの威力で蹴ったはずぞ?なんでこいつ…ビクともしてないんだ…!?」)
俺たちの蹴りに対し、蛇崩は意に介する様子も無く着ているコートのポケットに手を突っ込んだまま、無表情で突っ立っている。
「…くっ、もう一発___________きゃッ!!!」
ズルズルズル…シャァア゛ア゛ア゛ア゛____________!!!!!
ガシッ!!!
今度は拳で攻撃しようとするも、背後から迫っていた化け蛇によって幽霊の身体が締め付けられてしまった。悪霊は、化け蛇のくっぱりと開いた口に生えている牙によって身動き一つ取れない状態だ。化け蛇が軽く口を閉じれば、悪霊の身体は簡単に噛み千切られてしまう。
「…たっ…助けてくださいなのです~!!幽霊、ご主人さまぁ~…!!」
(「くそっ、万事休す…か…!!」)
ミシミシミシ…!!!
ゆっくりと幽霊の身体を締め付ける化け蛇の胴体の力が強まってく。蛇崩は、化け蛇に咥えられ半泣き状態の悪霊の頭を撫でながら、間の抜けた声色で話し出した。
「はい、侵入者確保ぉー。よしよーし、動かないでくださいよぉー?どーですー?こいつ。これも、私の体に刻まれてる呪詛、『呪蛇』の一匹なんですよぉー。」
(「呪詛に…ジュジャ…?この男が何を言ってんのかさっぱり分からん…!!だが、ただ一つ言えるのは、普通の憑依戦闘じゃこの蛇崩って男に歯が立たないってことだ…!」)
憑依戦闘状態の為、俺の考えは幽霊の思考と常に共有される。幽霊が、にやりと笑みを浮かべながら俺からの問いかけに応える。
「…おっけー。ちょっと無茶するって事でしょ?遠慮せずに、どんどんありったけの霊力送っちゃっていいからっ…!!」
(「ハルカとふーちゃんの真似じゃないが…もって『40秒』ってとこだ。それ以上はお前の霊体が危ないからな…!」)
「分かってるって…!!ま、ここで無茶しなきゃどこでするのって話だけどねw__________霊力、お願いっ!!」
(「________行くぞっ!先ずはあのクソでか蛇の口から悪霊を引っ張り出す!!」)
バチバチッ________ゴォォゥウ…!!!!
「うゥッ…‥!!!」
苦悶の表情を浮かべる幽霊。
幽霊の身体から、今まで放たれていた赤い火花に加え、『赤い炎』が陽炎と共に出現する。まるで幽霊の内側から溢れだす霊力が、炎となって滲み出ているかのようだ。
「うっわー、すっげえ霊力だー。どっからそんな馬鹿げた量の霊力出てんだか__________で?そっから、どーするんですかぁー?」
そんな幽霊の姿を見ても、1ミリも表情と喋り方が変わらない蛇崩。そんな余裕綽々な蛇崩に対し、幽霊が息を荒らげながらも応える。
「______はぁっ…はぁっ_______どーするって…?こーするっ!!!!」
ヒュッ_________バギィッ!!!!!
化け蛇に締め付けられていた幽霊だったが、一瞬のうちに化け蛇の胴体から脱出した。そして眼にもとまらぬ速さで化け蛇の喉元を膝蹴りする。悪霊を咥えていた化け蛇の口が苦しそうな鳴き声とともに開かれ、悪霊を助け出すことに成功する。
シャァア゛ア゛ア゛ア゛…!!!!
「た、助かったのです、幽霊、ご主人さまぁ!!」
この一瞬の出来事を眺めていた蛇崩は、眼を見開き手を叩きながら感嘆した様子で声を上げる。
「おぉーーーー、速い速いー。ちょっとボクも闘いたくなっちゃいましたよ。この大きい蛇はおしまーい。」
着ていたコートを脱ぎ捨て、シャツの袖をめくる蛇崩。その腕には、ビッシリと蛇の模様が刺青のように刻まれていた。緩めた首元の襟の間からも同じ紋様が見えている_______恐らく、この蛇崩という男の全身に同じような蛇の紋様が刻まれているのだろう。
「__________はぁっ…はぁっ…あと_______31秒…!!!」




