VS蛇崩隊Ⅱ
________霊攫いとの戦闘は『やりにくい』。
ハルカは頭の中で、過去に奴らと一戦交えてそう感じたこと思い出しながら、45階のフロアを青い炎を纏いながら高速で駆けていた。
「はぁ…はぁ…とてもじゃないけど、流石に撒くのは無理か…!!」
ハルカがちらりと背後を伺うと、ほんの数メートル後ろに10名ほどの黒フードに身を包んだ集団、霊攫い『蛇崩隊』が迫っていた。先ほどから、憑依戦闘状態の限界のスピードで走っているのにもかかわらず、どんどん距離を詰められている。
(「ハルカ______来るの!!前からなのっ!」)
ハルカの脳内で、ふーちゃんの声が響く。
「なっ_____!?」
突如、ハルカの進行方向から更に数名の黒フードの集団が姿を現す。ハルカは咄嗟に足を止め、敵がいない右の通路へ進路を変更する。
(「あいつら、私たちをただ追ってるだけじゃないの。ちょっとずつだけど、確実に先回りして行き止まりへと追い込んでいるの…!!」)
「それにしても、人数多くない!?まさか、あの蛇崩ってやつの部隊が全員こっちに来てるんじゃないの!?」
1人でも相手にするには骨の折れる霊攫いという集団。それがおよそ15もの数を相手にするには、実力も経験も豊富なハルカとふーちゃんにとっても厳しいものがあった。
(「ハルカ!前方にまた呪術トラップがあるのっ!」)
「…りょーかい!ったく、さっきから何個目なの!」
廊下の床にライン上に描かれた呪文。この黒い墨のようなもので描かれた紋様の上を通ると呪術が発動し、非常に厄介なことになる。霊攫いが設置したこの『呪術トラップ』は、奴らが得意とする常套手段だ。
霊攫いという集団が、『呪術集団』と俗に呼ばれている理由はこれだけではない。彼らは通常の霊使いのように霊を使役せず、自身の肉体に『呪い』を刻む。一生消えることのない呪いと引き換えに彼らは、異常で異質な、そして常軌を逸した霊力を得ている。
「________『青龍牙』ッ________!!!!!」
ゴォッッ________________!!!!!!
タイミングを見計らい、背後に向かって技を繰り出すハルカ。巨大な青い炎を纏った龍が、ハルカとふーちゃんを追う蛇崩隊に牙を剥く。
「…私が受けます。」
骸の手練れの部下3人をも飲み込んだ『青龍牙』を前にし、蛇崩隊の一人が感情のない呟きと共に前に出る。そしておもむろに袖をめくり、腕を前に突き出した。
「_______________『飲み込め』。」
ズズズズ…
素肌が見えないほどにびっしりと腕に刻まれた呪文が、禍々しい気配を放ちながら腕から剥がれ落ち、空中で盾のような形状になる。それに向かってハルカの放った龍が突っ込むも、あっという間に呪文の盾に飲まれてしまった。
「あぁー、もうっ!!だからあいつらと戦うのは苦手なの!!普通の霊使いだったら今ので終わりなのにっ!!________ま、まぁ、でも?あの腕の呪文は中二心くすぐられるけど…!!」
悪態をつきながら再び走り出すハルカに、ふーちゃんが脳内で呟く。
(「冗談言ってる場合じゃないのハルカ。気付いていると思うけど、この先行き止まりなの。ハルカの戦い方じゃ、あいつらは倒せないの。体の主導権を全部私に交代するの。」)
「ぐぬぬ…く、悔しいけど、こういう戦いはふーちゃんのほうが得意なのは事実…!!分かった、交代するっ。頼むよ、ふーちゃん!!」)
通常、憑依戦闘は霊使いとその使役霊の人格が完全に融合した状態なのだが、ハルカほどの霊使いになると、戦闘の内容に合わせ自在に体の主導権を切り替えることが出来る。ハルカは主に霊力の出力が高い技を得意とするが、ふーちゃんはより高い『技術力』を要する技を得意とする。
ズズズ…
身体の主導権が入れ替わり、今度はふーちゃんがハルカの身体を動かす。
「_____この先は…屋内プールなの。」
45階のフロアは、全体がさまざまな娯楽施設が備わったフロア。
この巨大45階屋内プールは、ホテルの建物から横に大きく突き出た構造となっており、天井がガラス張りで眼下には都会の夜景が広がっている。だが今はそんな夜景を楽しんでいる余裕はなく、すぐさま薄暗いプールに蛇崩隊が入って来た。
(「やっぱり、ここで行き止まりだよふーちゃん。どーする?」)
「_________もちろん、ここで全員潰すの。」
焦る様子も無く、淡々とした様子で答えるふーちゃん。
次の瞬間、蛇崩隊が一斉にこちらに向かってプールサイドから距離を詰めて来る。全員が先ほどのように自身の周りに呪文を纏い、剣・鎖・鎌・鉤爪といった様々な武器の形状へと変化させている。
ダッ________バッシャァンっ!!!!
ハルカの身体を操るふーちゃんは、何のためらいも無くプールに飛び込むと、中心に向かって泳いでいく。
「全員でプールサイドから囲め。顔を出したところで殺す。」
「了解。」
ふーちゃんの予想外の行動に一瞬虚を突かれる蛇崩隊であったが、すぐさま冷静に次にどのような動きを取るか共有する。だが、ここですぐさま追撃を行わなかった事が裏目に出ることとなる。水中では既に、ふーちゃんが技を繰り出すための霊力を高めていた。
「奥義____________『氷襲焔』。」
水中でも青く燃え続ける炎。それがプールの水と混ざり合い、徐々に巨大な竜巻となって成長していく。
ゴォォォォォォォ_______!!!!!!!!
大きな音を立てながらプールの全ての水が青い炎と共に巻き上がり、蛇崩隊を呑み込む。何とか呪術を使って対抗しようとするも、体の自由が効かない。自身の身に何が起こっているのか、それすら理解することも出来ずに次々と蛇崩隊の隊員は気を失っていく。
ピキピキピキ___________
「な…こ…凍って…」
蛇崩隊の最後の一人が気を失う直前にふーちゃんの技の特性に気付くも、抵抗することが出来まないまま戦闘不能となった。
ズズズ__________
全ての水が無くなったプールの中で、ハルカとふーちゃんは憑依戦闘を解除しその場に座り込む。
「…はぁー、疲れたっ!!いや、それより寒っ!!ふーちゃん、いつの間にあんな新技身に付けたの!?」
ハルカは、蛇崩隊とと共に凍り付いたプールサイドを見ながら、驚愕の表情でふーちゃんに問いかける。彼女の吐く白い息が、屋内プール内がいかに低温となっているのかを物語っていた。
「水と霊力を組み合わせた技なの。大量の水が無いと使えない技だったから、追い込まれたのがプールでラッキーだったの。」
「さすがふーちゃん。やっぱ、氷魔法ってロマンがあるよね…!!」
「魔法じゃないの、ハルカ。霊力なの。」
凍り付いている蛇崩隊を見ながら、ハルカはあることに気が付く。
「やっぱり、この中に『蛇崩』って男がいない…ってことは、あっちに行っちゃってるってことだよね…?」
「…そう考えるのが自然なの。はやくあっちと合流するの…!!」
まともに戦えばこの蛇崩隊もかなりの脅威なのだが、この隊の部隊長といったあの『蛇崩』という男。アレだけは別格でヤバい。今の彼らの実力では、どんな奇跡が起きても倒すどころか逃げきることすら不可能だ。
「急ごう、ふーちゃん!!」
こうして蛇崩隊を撃退したハルカとふーちゃんは、主人公サイドと合流すべく、凍り付いた屋内プールを後にした。




