まだ諦めてないんでしょ?
「お帰りなさいなのです!ご主人さまっ、アリサは___________」
オークションが開催された日の深夜。ハルカと共に自宅に帰宅すると、留守番していた悪霊がすぐさまアリサの安否を尋ねてきた。俺とハルカの沈んだ表情から、オークションの結果は察したようだ。その場にへなへなと膝から崩れ落ちる。
「______だ、駄目だったのですね。アリサを…落札できなかったのですね、ご主人さま…」
「…あぁ、すまん。あと少しだったんだが…」
涙目になっている悪霊を見たハルカが、絞り出すような小さな声で呟く。
「______ごめんっ…!!私が助けるって言ったのにっ…悪霊ちゃんの友達、救えなかった…!!」
「なんでハルカが謝るんだよ。お前は何も悪くない。とりあえず、中に入ろう。ふーちゃんも居るんだろ?」
リビングに入ると、幽霊とふーちゃんが心配そうな表情で俺たちを出迎えてくれた。
「おかえりー、って‥‥その感じだと、うまくいかなかったんだ。」
「2人ともお疲れなの。ひとまず、こたつに入って何か温かいものでも飲むの。今夜は冷えるの。」
ふーちゃんが入れてくれたコーヒーを飲みながら、全員でこたつに入る。そしてまず、オークションでの出来事を留守番していた幽霊・悪霊・ふーちゃんに報告する。研究会のキサキや、仮面教の幹部が来ていたこと、オークションには様々な霊が出品されていたこと。そして、ハルカがギリギリまで頑張ってくれたことなど全てだ。
「…組織が競り相手だと、さすがのハルカの資金力でも勝ち目はないの。運がなかったとしか言えないの。」
「もうちょっと…もうちょっとだったのにっ…!!」
ふーちゃんは落ち込むハルカを慰めるように頭を撫でる。俺達からすればアリサは友達だが、ハルカとふーちゃんにとっては言ってしまえば『赤の他人』だ。俺はそんな彼女たちに、ここまで責任を感じさせてしまう結果となってしまった。
「さっきも言ったけど、ハルカが責任を感じることは無いぞ。お前のおかげでオークションに参加させてもらったんだし、お前が居なかったら俺は競売の土俵にも立てて無かったんだ。」
「そうなのです…ハルカは何も悪くないのです…。悪霊の友達の為にここまでしてくれて、本当に、本当にありがとうなのです…!!」
「2人とも…ごめんっ…ごめんねっ…!!」
なおも謝り続けるハルカ。リビングが重い空気で包まれた時、今まで黙っていた幽霊が突如、俺に向かって口を開く。
「________それで?まだ諦めてないんでしょ?アリサって娘助けるの。黙ってないで、早く作戦を教えてよね。」
「えっ_______幽霊お前、何で分かったんだ?」
「そんなの、君の顔見てたら分かるよ。伊達に居候霊してないってのっ!」
自信ありげに俺を見つめる幽霊。そんな幽霊の発言に、悪霊とハルカも驚愕する。
「アリサを助けることが出来る作戦があるのですか!?ご主人さまっ!!」
「さ、作戦って…そんなの私は知らないけどっ!?」
先ほど俺は、オークションでの出来事を全て報告したと言ったが、実はまだ話していない事が一つだけあった。これは一緒にオークションに行ったハルカも知らないことだ。
「幽霊の言う通り…作戦は、ある。作戦というか、最後のチャンスといった方がいいか。ハルカとふーちゃんをこれ以上巻き込みたくなくて、2人が帰った後に幽霊と悪霊だけに話すつもりだったんだが…」
「そんなの今更だよっ!いいから、作戦って何!?」
ハルカにすごい勢いで問い詰められ、結局は話さざるを得なくなってしまった。
「…分かった、話すよ。実は、オークションが終わった後、俺はある人物からとある『情報』を聞いたんだ。その人物は、超常現象研究会のボスであるキサキからだ。」
______________________________
時はオークションが終了した直後に遡る。
「それでは皆様!これを持ちまして、本日の奴霊オークションは終了とさせていただきます!商品を落札されたお客様につきましては、後ほどお手続きの詳細について、こちらからご連絡させていただきます!本日は、ご参加いただきまして誠に有難うございます!」
骸の挨拶が終わるとともに、一斉に席を立つ参加者たち。俺は落ち込むハルカを何とか立たせ、混雑している出入り口を目指す。その時、人ごみの中背後から耳元で囁く声がしたのだ。
「________旦那さまが狙ってたのは、最後の女王霊ちゃんね?残念だったわね…でも、良いこと教えてあげる。落札された商品の引き渡しは明日の夜、このホテルの最上階よ。それまで商品はこのホテルで保管される。」
「その声は…キサキ!?…そんなこと俺に教えるなんて、一体何が目的だ?」
「…まぁ最後まで聞いてよ、旦那さま。商品が客の手に渡ったらもう手出しできないわ、奴霊契約がされるもの。でもまだこのホテルに商品が在るうちは別。」
「…盗めって言ってんのか。俺も同じことは考えた…だが、相手はバッグにでかい暴霊団がついている組織だぞ?警備だって固い。無謀な戦いに、うちの霊は連れていけない…。」
「ふふっ…そこで旦那様に、とっておきの情報。その問題の警備だけど、本来はあの『骸』が直接雇っている『霊攫い』という集団が行うんだけど、それの殆どが今回は居ないらしいの。どうやら『対霊課』と一戦交えてるらしいわ。つまり、明日の夜にかけてのこのホテルの警備はそこまで固くないのよ。」
「絶好の…チャンスって訳か…!!けど、お前の情報をみすみす信じろっていうのは無理があるのだが…。」
「あら、未来の旦那さまの助けになりたいっていうのは普通じゃない?もちろん、信じるか信じないかは旦那さま次第。出来れば私も直接手助けしてあげたいけど、一応私って一暴霊団のボスだから、そういうのは、ね?だからこうして、情報だけでもって。」
屈託のない笑顔で微笑むキサキ。
何度でも言うが、本当にこの人物は何を考えてるのか全く分からない。
「それじゃあご武運を、旦那さま。帰るわよ秘書ちゃん。お腹空いちゃった、何かここで食べて帰りましょう。」
「かしこまりました、キサキさん_______失礼致します。」
手をヒラヒラと振りながら、『秘書ちゃん』と呼ばれる女性と会場を後にするキサキ。彼女が嘘をついている風には見えない。いや、上手く騙されているのかもしれない。だが、正規のルートでアリサを奪還できなかった今、キサキの言葉を信じるしかない。




