オークションⅡ
「________商品ナンバー025『女王霊』っ!!!」
聞き覚えのある男のアナウンスの声と共に、檻に被せられた黒幕が取られる。アリサは怯えながらも、自分は今どこかの舞台袖にいるのだということを理解した。
「さぁ、オークションもこいつで最後だ。目玉商品だ、慎重に運べよ?傷をちょっとでも付けてみろ、骸さんにぶっ殺されるぞ?」
「…分かってますよ。こえーからなぁ、骸さん。」
スタッフと思われる男たちが、アリサが入れられている檻をゆっくりと舞台へと運ぶ。先ほどからずっと聞こえていた会場からの音で、これから行われる事をアリサは何となく分かっていた。
檻の隅で膝を抱えながら小刻みに震える彼女は、ぽつりと呟く。
「______これはオークション…ほんまにうち、売られてしまうんや…うっ_______」
檻全体が舞台へ運ばれると、あまりの照明の眩しさに思わずアリサは目を細める。目が慣れてきて、ゆっくりと瞼を開けると目の前に広がるその異様な光景に言葉を失う。
「嘘や…こんなに________怖い…怖いよぉ…助けて_____誰か…助けて…!!」
檻の中から見えるのは、自分のことを食い入るように見る、数えきれないほどの好奇の目。否応なしに、自身が『商品』であるという事を認識させられるその光景は、アリサの心を折るのには十分だった。
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檻の中で怯えるアリサの姿は、客席からでも十分に確認できた。自分の知る人物が物同然に扱われ、好奇の目にさらされている状況は、思わず目を逸らしたくなってしまう。一刻も早く、あの檻から出してやらなければ。
「…待ってろよ、アリサ。すぐ出してやるからな…!!」
アリサの基本的な情報の説明が終わると、早々に入札開始準備が行われる。
「さぁ、皆様!準備は宜しいでしょうか…!?今回を逃すと、もう二度とお目にかかることは無いでしょう。ぜひとも後悔のありませんようにお願い致しますっ!________それでは、開始価格は1000万円からです!入札開始でございますっ!」
骸の掛け声と共に一斉に入札が始まる。前方の巨大スクリーンには、今日一番のスピードで目まぐるしく入札価格が更新されていく様が表示される。
「________1200万っ、1350万・・・おぉっと、1500万っ!まだまだ止まる気配はありません!」
どんどん上がっていく価格に、ハルカが焦った様子で口を開く。
「まずい…金額の上がり方が想像以上に速い…この調子じゃ、こっちの予算は超えて来るかも…」
ハルカの予想通り、金額はあっという間に本日最高額である2000万円を超え、3000万円到達を目前としていた。
「ハルカ…確かお前が今日出せる金額って3000万円だったよな…!?」
「…『予算』はね…!!だいたい買い物ってのは予算を超えるのが相場ってもんでしょ!こっからハルカお嬢様の本気よっ!」
ハルカは手元の端末を操作し、『3500』と数字を入力する。
「_______おっとぉっ!?一気に3500万だぁ!!さぁ、決まるか?決まってしまうのかぁーーー!?」
ハルカの入力した金額を見て、会場からどよめきの声が上がる。一気に価格が500万円上がったことによって、今まで更新され続けていた入札もピタリと止まる。
「こ…これは…決まったんじゃないか、ハルカ?」
「決まって欲しいけど…無理だと思う。この程度のつり上げじゃ付いてくる筈…」
入札が止まったのは一瞬だった。すぐさま金額は3550万円と更新され、それに触発されるように3600、3650と小刻みに価格が更新されていく。
「とっくに女王霊の相場は超えているはず…ここからの入札は、私たちみたいな個人の参加者は多分いない。相手は『組織』になる…!!」
「…組織?どういうことだハルカ?」
「一応、このオークションの落札者は公表はされない。けど、アリサちゃんみたいな強力な霊が、『他の組織の手に渡った』という事実は残る。つまり、組織の面子を守る為にどこも躍起になって来るってワケ・・・いくら強力な霊だからって、個人の霊使いがここまで金額を張るのは、まずあり得ない。」
「敵対組織に、金額の競り合いで負けるわけにはいかないって事か…くそっ、そんなくだらない面子の為に、アリサを利用すんじゃねーよ…!!」
釣りあがっていく入札価格に、骸のテンションもどんどん上がっていく
「________3750…3800…3850万円っ!!現在、3組のお客様が競っております!これは歴代の我がオークションでも5本の指に入る最高落札価格になりそうです!さぁ!どうなる、3850万円で決まってしまうのかっ!?」
隣に座るハルカが、『ふぅ…』と深呼吸すると、意を決したように呟く。
「…ここで勝負に出る!これで決まらなかったら…ごめんっ!!」
前方の巨大スクリーンに、ハルカの入力した入札価格が表示される。その数字を見て、今日一番のどよめきが会場から起こる。
「________4000万円っ!!!一気に200万のつり上げだぁぁ!!!どこまで上がってしまうのかぁーーーーー!!??」
今まで俺が目にしたことのない金額を前に、思わずハルカに詰め寄る。
「だ…大丈夫なのかハルカ!?よ、4000万円って…!!」
「おかげで私の口座はすっからかんになるわね。でも、流石にこれ以上はついて来られない筈。いくら何でも、面子争いに出せる金額じゃない_________う、嘘でしょ…!?」
前方のスクリーンを見て、絶句するハルカ。既にスクリーンには、ハルカが叩き出した『4000万円』の文字は無く、たった今更新された金額が映し出されていた。
「よ、よ、4500万円だぁあああああっ!!!!!」
一気に500万円ものつり上げに、会場からは歓声と共に拍手が沸き起こる。唇を噛み締め、涙目になっているハルカを横で見て、俺は『これ以上は無理だ』と悟る。
「まっ…まだ、私だって…!!」
震えながらも、端末を操作し『4550』と入力しようとするハルカの腕を掴み制止する。
「…もういいっ!ハルカ。ありがとな。でも、もういいんだ。これ以上は…迷惑を掛けられない…本当に、ありがとうな。」
これ以上の金額の入札は、ハルカの身を滅ぼしかねない。既にここまででも大きく彼女の許容範囲を超えているはずだ。傍から見ていても、そのことは痛いほど分かっていた。
「________さぁ!4500万です!これ以上のご入札をされるお客様はいらっしゃいませんか!?……それでは、これで打ち止めとさせていただきますっ!おめでとうございます!『女王霊』、なんと4500万円で落札となりますっ!皆さま、どうか盛大な拍手をっ!」
割れんばかりの拍手に包まれる会場。
俺はただ、舞台上の檻の中で震える『買われた』アリサを、呆然と眺めることしかできないでいた。




