怨霊さんⅤ
「貞子先輩って・・・前に言ってたあの人か?あれマジだったのか。」
「ひどい!信じてなかったの!?」
「あのー、幽霊さん、貞子さんって一体どなたなんですか?」
そうか。悪霊は今までずっとDVDの中に住んでいたから知らないのか。しかし、幽霊が言っている貞子と、俺の知っている貞子は本当に同一人物なのだろうか?幽霊に聞いた感じでは同じのようだが、にわかに信じ難い。
「説明している暇はないわ!さっそく呼ぶわよ。」
いつドアを破って怨霊さんが入ってきてもおかしくないこの状況。藁にも縋る思いだが、幽霊に任せるしか手はない。
「よし、頼むぞ!」
おもむろにチャンネルを手に取り、テレビに向ける幽霊。
「4を4回押して、それでチャンネルを4周して・・・んーと、確かこれであってた気がする。」
「おいおい、えらく複雑な呼び方だな・・・てかやっぱりテレビから出てくるのか。」
「なんだかわくわくしますね!ご主人様!」
「お前なあ・・・。」
「これでっ!完了っ!(ポチッ)」
テレビの画面が砂嵐に変わる。とうとう出てくるのか・・・本物が・・・!!次の瞬間、画面に映ったのは古びた井戸・・・
「・・・あれ?井戸じゃなくて・・・マンション?」
画面に映っているのは、ごくありふれたマンションの一室。リビングには、お世辞にも似合っているとは言えないリボンが付いたパジャマを着た女が映っている。とても眠そうだ。そして、よっこらせ、とだるそうに画面から出てきた。
「・・・・おい幽霊、あなた今何時だと思ってんの?」
「貞子先輩!久しぶりーっ!」
「スルーするな!あとその名前で呼ばないでって言ったでしょ!姉さんって呼んで!」
「ね、姉さん、ごめんけど、まじで助けて欲しい・・・」
「はあ?何なのよいきなり。・・・この男だれ?アンタの彼氏?」
ジロジロと怪しい目で見てくる、貞子さん改め『姉さん』。黒髪ストレートで色白、顔もかなりの美人なのだが、なんだろう。全体から疲れたOLオーラが滲み出ている。
「ちがっ!!!違う!!彼氏とかじゃないから!!」
「なに赤くなってんの。あとそこの霊も誰よ?あなた友達いなかったでしょ。」
「ど、どうも!悪霊なのです!よろしくなのです!」
「あっあの、さだ・・姉さん。夜分遅くに申し訳ないのですが、さっきから俺の家のチャイム鳴らしまくっているストーカー怨霊を追い払って貰えませんか?」
この人に断られたら、もうどうすることもできない。出来る限り低姿勢で頼み込む。
「怨霊ぅ?それでさっきからピンポンピンポンうるさいのね。」
「お願いだよ姉さ~ん、姉さんなら余裕でしょ?」
「勝手に私を退治屋にするなっ!ったく・・・いきなり夜中に呼び出しといて何事かと思えば、こんなことで・・・ちゃんとお礼はしてくれるんでしょうね?」
「もちろん!姉さんしかいないんです。はい。」
「もぉ~・・・今回だけよ!」
そういうと姉さんはツカツカと玄関に行くと、何のためらいもなくドアを開け出て行ってしまった。ピタッと止まるチャイム。1分、2分と時間が過ぎていく。
「お、おい幽霊、大丈夫なのか?姉さん。」
「姉さんはガチの中のガチな霊だから大丈夫よ。」
ガチャ
「ほい、終わったよー。」
涼しい顔をして部屋に戻ってきた姉さん。そしてその傍らには・・・涙目の怨霊さん。あのおぞましいオーラはすっかり消えて、トボトボと部屋に入ってきた。一体ドアの向こうで何があったのか・・・。
「ふわぁ~、眠いっ。んじゃ、私帰るから、後はその子の話し聞いてあげて。もう危険はないから。ちゃんとお礼しなさいよね!」
「はっはい!お疲れ様です姉さん!」
「また今度来るから。あ、あと幽霊、彼氏に迷惑かけるなよー」
「もぉ!!だから彼氏じゃないって!!」
姉さんが中に戻ると、画面は再び深夜アニメに戻った。
「・・・すっ、すごいですね!姉さん!この悪霊、感動しました!」
「でしょー?姉さんはほんとにすごいんだから!」
「・・・それで、・・・どうすんだ、この人。」
3人の目線の先には、部屋の隅っこで体育座りでシクシク泣いている怨霊さん。
まだ夜は長そうだ。