霊攫いⅠ
「あっという間だったわ…気付いた時にはもう遅かったの…」
男嫌いのねーちゃんが、暗い表情で重い口を開く。
このカラオケ店の霊たちを見つけ、幽霊と悪霊を呼び戻した後俺たちは何が起こったのか話を聞いていた。
「…一番初めに異常に気付いたのは、もちろんここの女王霊であるアリサちゃんだった。本来だったら、『霊』や『霊使い』の類の連中が一歩でもこの店に入ったら、すぐにつまみ出していたの。あのチェーンソー姉妹の一件以来、ずっとそうしてきた。でも_______」
ねーちゃんに続き、痴漢のおっさんが説明する。
「_____あの夜、侵入してきた奴らは明らかに違った…どうやって侵入したのか、異界化してセキュリティを強化していた店内を、どうやってアリサちゃんの探知を掻い潜って進んだのか…何も分からねえっ…!!」
アリサは上級霊の中でもかなりの霊力を持つと言われる『女王霊』だ。このカラオケ店は彼女の城であり、空間支配も自由自在。並大抵の霊や霊使いでは攻略は不可能のはず。
「奴らはいとも簡単にアリサちゃんの部屋にたどり着いて、攫っていきやがったんだ…!!俺たちも全員で必死になって抵抗したんだが、情け無い話全く歯が立たなかった…多くの同胞も消されちまった…。」
目に涙を浮かべ、悔しそうに拳を握りしめるおっさん。その話の中で悪霊が何かに気付いたように口を開く。
「ちょ、ちょっと待ってくださいなのです。アリサは地縛霊なのですよ?どうやってここから連れ去ったのですか?地縛霊であるアリサは、ここから動けないはずなのです…」
「…たしかに、悪霊の言う通り。それじゃあ、どーやって________あっ、あの壁の気持ち悪いやつ!」
「幽霊のくせに冴えてるじゃねーか。俺もそうだと思う。お前たちは何か分かるか?あのアリサの部屋の壁に描かれた呪文みたいなやつだ。」
俺からの問いかけに、どの霊も分からないといった様子。だが十中八九あの壁の模様の呪文で、地縛霊であるアリサをこのカラオケ店から引きはがしたのだろう。だが、一体だれがアリサを攫ったんだ?話を聞く限り、組織的な行動であることは確かだ。また『研究会』か?だが、どこか奴らとは手口が違う気もするが。
「…霊力持ちのにーちゃんっ…!!頼む!この通りだ!虫のいい話ってことは十分承知してる…けど、アリサちゃんは俺たちの全てなんだっ…!!どうか、どうか助けてくれ!!」
おっさんを始めとするカラオケ店の住人たちが、揃って主人公たちに頭を下げアリサの救出を頼み込む。
「ご主人さま、悪霊はアリサを助けてあげたいのです…アリサはウザい奴ですが、数少ない霊の知り合いなのです…。」
「ちょっと、私はそのアリサって子知らないけど、こんなに頼りにされてるのに断るの?サイテー。」
悪霊と幽霊が更なる追い打ちをかける
「…あぁー、もう!分かってるよ!助けるって!つーか、最初からそのつもりだったわ!俺が知り合いを見捨てる冷酷非道で心が無い人間みたく扱うな!」
「ほ、ホントか!?済まねぇ…感謝してもしきれねぇ…!!ありがとう…!!」
_____________________
カラオケ店の霊たちに感謝されながら、カラオケ店を後にする一同。
「あそこの霊たち、めっちゃ感謝してたね。ま、私は初めから君は断らないと思ってたけどねーw」
「…幽霊、お前性格悪すぎな。後で覚えてろよ?」
「ご主人さま、でもどーやってアリサを攫ったやつを見つけるのですか?」
悪霊の言う通り、ぶっちゃけ俺も特にこれといった心当たりがある訳ではない。何しろ敵の情報が少なすぎるのだ。だが俺たちには、困った時のドラ〇もん的な存在がいる。
「こーいう時に頼りになるのは、『あいつら』しかいないだろ。ま、取り敢えず一旦家に帰るぞ。話はそれからだ。」
その後マンションに帰宅した俺たちは、その足で『隣人』の元へ足を運ぶ。俺が言っていたことを理解した幽霊は呆れ顔で口を開く。
「…ま、確かにここしかないよね。あいつらに頼るのは何か癪だけど。」
「悪霊も、なんとなく予想はついていたのです…。」
ピンポーン
ガチャ
「はーい、どなたですか_______おっ、我がライバルじゃないか!どうした?闘いに来たのか!?」
開かれた扉から現れたのは、うちのマンションのお隣さんでもある、同じ霊使いのハルカ。今回のような、霊に関する困りごとが起こった時は彼女の使役霊である、ふーちゃんに頼るしかない。今まで何度もお世話になって来た。
「よぉ、ハルカ。けど残念ながら決闘しに来たんじゃないんだ。ふーちゃんはいるかー?」
ズズズ…
ハルカの背後からふーちゃんが姿を現す。
「…何か用なの?」
家の中に通された俺たちは、全ての事情をハルカとふーちゃんに説明し、カラオケ店で撮影した例の壁一面に描かれた模様の写真を見せる。
「これがその写真だ。どうだ?ふーちゃん、何か心当たりはあるか?」
手渡された写真をまじまじと見つめるふーちゃん。ふぅ、とため息をつくとその答えを口にした。
「…話を聞く限りだけど。十中八九、そのやり口からして『霊攫い』だと思うの。」




