タコ
「…し、師匠さん、あの子たち何かするみたいですよ!」
「おう、かよっち。俺もしっかり見てるぜ。さて…どうやって海亡頭を狩るつもりだ。苦し紛れに悪霊と憑依戦闘を試すのか?それとも、諦めて俺に泣きついてくるか______ん?」
ブォォォォォォォンッ______!!!
師匠の目に映ったのは、激しいモーター音を響かせながら海亡頭へ向かって一直線に進む水上バイク。
「嘘だろ…?あ、あれは…俺の水上バイクじゃねーか!!ヌイの奴、キーを渡しやがったな?あいつら勝手に使いやがって…!!傷一つ付けてみろ…ただじゃおかねぇーぞ!!」
怒りによって、師匠の双眼鏡を持つ手が震える。それも無理はない。あの水上バイクは師匠が今夏の為に買った新車なのだ。その値段、最新モデルでもあるため200万は軽く超える。
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そんな怒りに震える師匠の事などつゆ知らず、海亡頭の触手蠢く月光に照らされた夜の海へ、猛スピードで突き進む主人公。3人乗りの後部座席に座っているのは、幽霊と悪霊だ。
「うおおおおお!!速えええっ!!!お前ら!しっかり掴まれよ!スピード上げるぞ!!」
ブォン!!!ブォォォォォォォンッ______!!!
「すっごーーーい!!師匠のやつ、こんないい乗り物独り占めしてたなんて!風気持ち良いーーーーー!!」
「ご主人さまっ!こういう時は、『北〇の拳』に出て来る敵みたく、『ヒャッハー!!』と叫べばいいのでしょうかっ!?」
悪霊が何を言っているのかいまいちわからないが、とにかく2人ともテンションが上がっているということは確かだ。
「おいてめーら!!くれぐれも!もう一度言う!く・れ・ぐ・れ・も!それを壊すんじゃねーぞ!?それは師匠のなんだからな!」
ケモミミモードで海面を俺たちと並走するヌイが、口を酸っぱくして忠告を繰り返す。
「分かってる分かってる。そろそろ、触手の射程範囲内の海域に入るぞ!ヌイ、後は作戦通りにいくぞ!いいな!」
「…め、命令するなっ!__________そっちこそ、タコなんかにやられるなよ。」
そう言い残し、海亡頭の触手の射程圏外ギリギリで留まるヌイ。俺たちはそのまま射程圏内に入り直進する。
ズルズルズル_________
圏内に入った瞬間、海中から無数の巨大な触手がニョロニョロとその姿を現す。いくら小回りが利く水上バイクであっても、あの巨大な触手の攻撃を回避するのは困難だ。避けることは出来ても、海面に叩きつけられた衝撃で発生する波で簡単に転覆してしまう。そこでまず、触手群を『空中』へ誘導する。
「悪霊、手筈通り頼むぞ!派手に打ち上げろっ!」
「了解なのですっ!!!」
ズズズ…
合図とともに悪霊は、背負っていたリュックから大量の『打ち上げ花火』を出し、ポルターガイストで自分の周囲に浮遊させる。あっという間に水上バイクの周囲は花火だらけとなった。そう、これは師匠が海亡頭を釣るために用意した花火だ。
「そしてぇ~……点火っ!!たーまーやーーーーーーっ!!!」
ヒュー___________パパパパパパァァン!!!!!
一斉に夜空に向かって打ちあがられた花火は、凄まじい破裂音とともに無数の花を咲かせる。その数、およそ数十発。打ち上げ花火だけでなく、普通の手持ち花火も一緒にポルターガイストで打ち上げているため、もはや市販用とは思えないほどの光量だ。
「よし、これだけの光なら___________」
ニュルルルルルッ!!!!!!
夜空に打ち上げられた花火に向かって、全ての触手が我先にと一斉に飛びかかる。光に誘われて反応するという海亡頭の習性、これを生かし全ての触手を空中の一か所に集めることに成功する。
「今だヌイ!!頼むぞ!!」
ヌイが後方で待機していた理由、それは『一撃で全ての触手を断ち切る霊力』を溜める為。打撃を吸収する触手には、ヌイの爪の力が必要だ。
メキッ…_______ザワザワザワ___________!!!!
「うっ…ぐっ……グルルルルルルル……____へへっ、ここまで限界まで霊力を高めたのは初めてだぜ…化け犬!やるぞ!」
(「アァ、ヌイ。」)
「タコめッ…ヌイさまの爪の味、とくと味わえっ!!【神戌乃爪】っ!!!!!」
ザンッ_______________
ヌイの両手から放たれた10の斬撃は、瞬きをし終えないうちに20を超える触手を完膚なきまでに切断した。切断された触手は、斬られたトカゲのしっぽのごとくうねうねと悶えながら、無残に海へ落ちていく。
「やったぁー!!!あの忌々しいタコの足がなくなった!」
「ヌイ、すごいのです!!!」
歓声を上げる幽霊と悪霊。それを聞いたヌイは、やり遂げたと言わんばかりの表情を浮かべながらニヤリと笑う。ケモミミモードは解除され、海面に浮かぶのがやっとだ。
「はぁ…はぁ…ど、どう…だ…すげーだろ…!!ちくしょー…霊力がすっからかんだ____あとは任せたぞ…!!」
「ありがとよ、ヌイ。あとはこっちの番だ!」
海亡頭が反応するものは『2つ』ある。一つは、『光』。そしてもう一つ、それは『霊力』だ。先ほど、砂浜で奴の触手攻撃を受けた時、ただ闇雲に攻撃していなかった。明らかにこちらの動きを先回りしていた。『目』が無いのにどうしてか。答えは単純、憑依戦闘状態で高まった幽霊の霊力を感知して攻撃していたのだ。
「さぁ、『腕』が無くなっちまったんだ。だったら、後は『本体』が出て来るしかないよなぁ______幽霊、憑依戦闘だ!」
「やっと出番がきた!本体を直接ぶんなぐってやる!」
ズズズ___________
霊体となった幽霊が、俺の体に溶け込むように入ってくる。同時に俺の身体は幽霊の身体へと変化する。この憑依戦闘状態の強い霊力で、海中に潜む本体を、海上へ誘うのだ。
「あれ…?な、なんかっ!今までと感覚が…全然違うような…!!」
(「ん?どうした?幽霊__________うぉ!?動かせる!体が動かせる!!」)
今まで俺はただの思念体で、体の主導権は幽霊にあったが今は違う。幽霊が思うように体は動くと同時に、俺が思うように体が動く。まさに、一心同体だ。
「わっ、わわわっ!!何この感覚っ・・・!今まで私だけで動かしていたのとは、まるで違う!」
(「感覚だけじゃない…!霊力の質も________おっと、驚くのはここまでにしようぜ。『本体』のお出ましのようだ。」)
ゴゴゴゴゴ……!!!
重低音を響かせながら、目の前の海面がゆっくりと大きく盛り上がり始める。何十匹もの藻屑霊も一緒に姿を現すが、そんなもの今はどうでもいい。『本体』を叩くのみだ。
「は、はわわわわ・・・で、デカすぎるのです…!!」
「うーわー…もろ『タコ』じゃん。なんだよー、もっと見たことない顔、期待してたのに。」
(「絵にかいたような『タコ』だな。ま、そう文句言うな。ヌイのおかげで本体の顔が拝めたんだぞ。こっちも、一撃できっちり終わらせるぞ。」)
やはりというか何と言うか、海亡頭の本体の見た目は明らかに『タコ』そのもの。だがその巨体はまるでビル並みの大きさだ。だが、触手がなくなった今それはただの巨大な的。
「それじゃ________」
(「とっとと終わらせるか________」)
ブオォオオオオオオッッ!!!!!!!!!!!!!!
低い唸り声と共に巨体を動かし、俺たちを押しつぶさんとばかりの勢いで迫って来る海亡頭。それを水上バイクに立ち迎え撃つ。
「ごめんね、きみに恨みはないけど…ボーナスの為!!!…ついでに人命もっ!!」
(「…人命はついでかよっ!!」)
ゴッ______________ズッパァァァァァンッ!!!!!!!!!!
予告通り、まさに一撃のただの『殴り』で海亡頭の巨体には大穴が空いた。肉片が降り注ぐ中、その光景を間近で見ていた悪霊がぽつりとつぶやく。
「…当分、タコは食べれそうにないのです…おぇぇ…」




