堪忍袋
「______うっ…ゲㇹッ!けほっ!!______あぁー…痛ったぁ~…コレ絶対、あばら2、3本イッちゃってるやつだよぉー…。」
「_____ぶっはぁっ!!ぺっ!っぺ!!口の中がじゃりじゃりだぁー…お、おい化け犬ッ!大丈夫か!?」
(「ヌイ…ハヤク、ヒキヌイテクレ…。」)
海亡頭によって発射された『ヌイ』ミサイルと見事に正面衝突した俺たちは、凄まじい威力で吹っ飛ばされ、3人と一匹は仲良く砂浜にめり込んでいた。どうやら衝突した衝撃で、俺と幽霊、そしてヌイと化け犬の憑依戦闘は解除してしまったらしい。俺も、指先からゆっくりと動かせることを確認しながら、砂を被った体を起こす。
「いててて…くっそ…まだ視界がグラグラするぜ…。一応全員、何とか生きてるみたいだな…さっきまでいた場所があんなところに…一体何メートル吹っ飛ばされたんだよ_____まさか空からヌイが降って来るとはな。」
海亡頭の触手の射程圏外にまで吹っ飛ばされたようだ。憑依戦闘モードでなく生身の状態なら、まず間違いなく俺とヌイは死んでいただろう。
「ホントだよ!ったく、いい迷惑だよねー、どこかの誰かさんが足引っ張ってくれたおかげでこの有様!」
幽霊はイライラした様子でヌイに悪態をつく。これに対して黙っているヌイではない、すぐに応戦する。
「な、なんだと?こっちだって、好きで飛ばされたんじゃないし!てめーらが全部の触手のタゲ取ってなかったせいじゃないのかー?」
「何で私がヌイの補助やらなきゃいけないの!?…ヌイなんか、あのタコに触手プレイでヌメヌメにされちゃえばいいんだ!エロ同人みたいに!それに、触手に掴まれてちょっと楽しんでたんじゃないのー?w」
「_____なっ!そ、そんなことある訳ねーだろっ!!」
あっという間に二人の言い争いに火が付き、罵声の応酬はどんどん過激になっていく。
「…お、おい幽霊、ヌイ!2人とも、今は言い争ってる時じゃ________」
俺の言葉を遮り、幽霊とヌイが同時に叫ぶ。
「「黙ってて!!!」」
「_______________あ?」
その瞬間、俺の中で何かがぷっつりと切れる音がした______あぁ、これが世に言う『堪忍袋の緒が切れる』ということなのか。
ゴゴゴゴゴ…………
とてつもなく良くない気配を感じる2人。
「「!?」」
「お前ら___________ちょっとそこ座れ。」
「え、えっとぉ…ど、どしたの、かな?もしかして…怒って…る?_____うん!はい、座ります!すぐ座りますっ!!!ほ、ほら早くヌイもっ!座ってッ!!!」
「____えっ、えっ、ちょ______わ、分かった!す、座る!ヌイ、座るっ!」
すぐさま正座をする幽霊とヌイ。
今まで聞いたことのない主人の声色に、心底震えあがる幽霊。そしてヌイも、師匠からも受けたことないほどの『圧』に押される。幽霊とヌイは瞬時に悟った。『この人、マジ切れさせたらアカン人種だ』と。そして今の今までバカげた喧嘩をしたことを後悔するも、時すでに遅し。彼女たちの前には、満面の笑みを浮かべる悪魔が立っていた。
「_______おい幽霊ぃ…お前、調子乗りすぎ。なに?中途半端な憑依戦闘で生身の体手に入れて、『わたし最強でーす』とか思っちゃってんの?いつからお前、そんなに偉くなったの?ねぇ?」
「…す、スミマセンでしたぁっ!!自分、調子乗っちゃってましたァ!!!」
ズザァ!!!
凄い勢いで砂浜で土下座を披露する幽霊。そして説教は、ヌイへ飛び火する。
「それで________ヌイちゃーん?まぁね、分かるよ?ボーナス早い者勝ちだもんね。でもさぁー、アレ、海亡頭だっけ?単騎で勝てると思ったの?ねぇ?」
「_____…え、えっとぉー、何て言うかぁー…いけるかなって…師匠にいいとこ見せたかったし…。い、いいだろ別に!お、お前にかんけーないだろ!」
「あれ?質問に答えてないよね?本当に『勝てる』と思ったのかって?_______答えろや。」
「ひっ_______ご、ごめんなさい!!勝てないっす!アレ一人じゃ無理っす!!」
「きょ・う・りょ・く!!分かるか!?『協力』!!お前らにはこれが圧倒的に不足している!いいか?好き勝手暴れても、あのタコは一生倒せねーぞ!こっからは俺が指揮を執る!いいな!いつまでもガキみてーな喧嘩してんじゃねーぞ!!」
「…は、はーい…で、でも、ヌイが勝手に先走ったんじゃん。なんで私まで怒るの…」
「…なんで、このヌイさまが、師匠以外の男からの命令を聞かないと…」
土下座しながらも、まだブツブツと不満を呟く幽霊とヌイ。
「声が小さいっ!!返事はァ!?」
「「い、イエッサーっ!!!!」」
_______はぁ…まるで、喧嘩しているやんちゃな姉妹を叱っている気分だ。世の中のお母さんたちは日常的にこんなしんどい思いをしているのか…尊敬する。
さて、どうやって今の戦力であのタコを倒したものかと作戦を考えていると、こちらに走って来る悪霊の姿が。
「ご主人さまー!!はぁ…はぁ…あ、悪霊も居ても立っても居られなくて、お手伝いに来たのです!」
「悪霊お前…危険だから、こっちには来るなって言ったはずだぞ?」
「ご、ごめんなさいなのです!でっ、でも!ご主人さまの持ち霊として、黙って眺めている訳にはいかないのです!」
悪霊の瞳に迷いがない。いつからこんな熱血キャラになったんだと驚きつつも、悪霊の言葉に思わず感動してしまう。まだ10代前半であろう少女にとって、憑依戦闘もせずにあの怪物と対峙するのは怖いはず。相当な勇気を振り絞って闘うことを選択した彼女を、無下に突き返すわけにはいかない。
「…分かった。一緒に戦うぞ、悪霊。」
「はい!なのです!______ところで、なんで幽霊とヌイは土下座しているのですか?怒られたのですか?」
「…う、うっさい!も、もういいでしょ!そっ、それで?あのタコどーすんの!」
「そ、そうだぞ!このヌイさまに説教したんだ!何か作戦があるんだろーな!」
涙目を擦りながら立ち上がる幽霊とヌイ。悪霊に、怒られてしょぼくれている姿を見られたくないのだろう、すっかり強気の態度だ。
「お前ら立ち直り早いのな……作戦、か。悪霊と憑依戦闘を試すか?______いや、幽霊以上のクオリティの憑依戦闘じゃなきゃ意味が無い…それに、厄介なのはあの触手だ。」
それだけじゃないぞ、とヌイが口を挟む。
「本体の周りには、藻屑霊がうじゃうじゃいる。奴らのせいで、海上からの本体への攻撃は防がれちまうぞ。」
「あの馬鹿げた触手を何とかしながら、海中から本体を引きずり出す方法か…。」
「そんなの無理ゲーじゃんかっ!!」
幽霊の言う通り、一見すると無理ゲーだ。だが、指揮を執ると言った以上俺が投げ出すわけにはいかない。何か方法があるはずだ。よく考えろ、今までの戦闘の中で何かヒントは_________
「…待てよ。もしかして‥いや、そう!そうだよ!これしかない!」
「ど、どうしたの?やっぱり、ヌイの犬霊を釣り餌にするとか!?」
「幽霊ぃ!お前はわたしのかわいい犬霊をなんだと思ってるんだ!」
「やめろ。お前らは喧嘩しないと死ぬ病気か何かか?それより、『作戦』がある。狩るぞ、あのタコを。」




