花火
「なんだかんだで、明日でバイトも最終日かぁー…なんか、夏の終わりって感じだね。」
月に照らされる夜の海の景色を眺めながら、幽霊がぽつりと呟く。開けられた窓から吹き込む潮の香りが混じった夜風は、とても心地よくクーラーが必要ないくらいだ。
「なーに柄にもなくたそがれてんだよ幽霊。どーせお前は明日支給されるバイト代のことしか頭にないんだろ?」
藻屑霊の討伐数に比例して支給されるバイト代。その日ごとに渡される給与明細書から、かなりの額になっていると思われる。俺たちの雇い主である海の家のオーナーは、最終日にまとめて現金で手渡しすると言っていた。
「当ったり前よー!言っておくけど、この幽霊ちゃんの活躍のおかげなんだからね!そうだなー、報酬の分配は、1(主人公):1(悪霊):8(私)ってとこでどう?これでも、かーなり譲歩したつもりよ!」
幽霊の法外な山分け比率に、悪霊が噛みつく。
「幽霊、あなたふざけているのですか?幽霊がご主人さまとの憑依戦闘を、この悪霊に譲ってさえくれていれば、わたしの方がもっと活躍できたのです!」
「たられば論は通用しないもーん!くらえーっ!」
ボフッ!
幽霊が悪霊目がけて投げた枕は、見事顔面に命中する
「ぬわっ_______!!やりましたね幽霊ぃ~!!!」
突如始まる枕投げ大会。ちなみにこれは毎晩のようにゲリラ開催されている。
「おいお前ら、あんまりはしゃぐとまた下にいるオーナーに怒られるぞー?」
トントン、ガラッ__________
ノック音とほぼ同時に部屋の扉が明けられる。やばい、ホントにオーナーが怒りに上がって来たのか?と思ったが、そこにいたのは何故か浴衣姿のヌイ。
「お前らー!ししょーが花火買ってきてくれたぞ!すぐ準備して砂浜までこい!花火やるぞ花火!」
テンション高めのヌイ。彼女の言葉に、枕投げ大会で高まっていたうちの霊たちのテンションも更に上がる。
「花火ー!?」「やったー!なのですー!!」
_______________________________
「こりゃまた…随分と気合い入ってんのな、師匠。BBQ奉行のお次は花火師か何かか?」
砂浜に降りてみると、そこには多種多様な花火が師匠によって用意されていた。一般的な手持ち花火から線香花火。そして一個数千円くらいはしそうな打ち上げ花火までざっと見て数十個はある。
「今日は最後の夜だからな。夏の夜といえば花火だろーが。なぁ、かよっち?」
「そ、そうですね!な、夏はやっぱり花火をしないと終われませんよねっ!あっ、こっちに水バケツとか用意してるので、つ、使ってくださいね!」
いつにも増してどこかよそよそしい様子で答えるかよっち。
_____何か嫌な予感がする。BBQの時だってそうだ、肉に釣られてえらい目にあった。こういう師匠からの誘いには何か裏があるということはイヤというほど味わっている。
カチッカチッ_______シュボボボボボボ_____
「見てみて!!10連花火!」
満面の笑みで、両手の指の間に挟んだ手持ち花火を振り回す幽霊。最近こいつの精神年齢がとても心配になる時がある…
「_____ま、まぁ、花火をしたからって何かに巻き込まれるってことも無いよな。俺の考えすぎか。」
「ご主人さま、どうしたのですか?難しい顔をしているのです。」
グイグイと服の裾を引っ張り、心配そうな表情で悪霊が見つめて来る。
「あ、あぁ、ちょっと考え事をな_______って、痛えっ!!ヌイ、何すんだよ!」
思いっきり背後からヌイに蹴りを喰らわされる。
「陰気くせー顔してんじゃねーよ。せっかくの花火か湿気ちまうだろ!ほら、景気づけにデカい打ち上げ花火撃つぞー!」
ヌイに手を引かれ、少し離れた所に置かれた数個の筒状の打ち上げ花火がある場所に連れられる。見た目に反して相変わらず口が悪いやつだ。
「これはまた…派手そうな花火をチョイスしたなぁ…。これ、全部一気に打ち上げるのか?」
「こういうのは、ちまちまやっちゃダメだ。一気にパァーとやらないとな。ほら、早く点火!」
ヌイからライターを受け取り、携帯のライトで照らしながら着火を試みる。師匠たちがいる所から離れていることもあり、ふとヌイに質問してみる。
「なぁ、ヌイ。ちょっと聞いていいか?」
「ん?なんだ?_______ま、まさか、わたしに、こっ、告白しようとか考えてんじゃないだろうなっ!?お前、ちょっと雰囲気がいいからってそんなっ…心の準備ってもんがあるだろーがぁっ!」
何言ってんだこのロリ娘は。普段あれだけ口が悪いのに、ちょくちょくこういう、謎な乙女の一面がヌイにはある。
「ちげーよっ!俺が聞きたいのは…【WAVE3】についてだ。明日で最終日…このまますんなり終わるとも思えない。師匠は何か知ってそうな感じだし、ヌイ、お前何か隠してるんじゃないか?」
「な、なんだ…そのことかよ。焦ったじゃねーかっ!!意味深なトーンで呟くからっ!」
赤面しながら足元の砂を掴み投げてくるヌイ。
「ちょ、砂が口に入るからやめろ!…それで?どーなんだ?」
「はぁ…はぁ…_____な、何も知らねーよ。師匠から何も聞いてないし、そもそも私は【WAVE3】を見たことがない。聞いたろ?去年初めて来たときは、私は【WAVE1】で精いっぱいだったんだ。残りは全部師匠が駆除した。【WAVE2】までは師匠の戦いを見ていたが、それ以降は知らないうちに終わっていた。ほんとだぞ?嘘はついてない。けど__________」
「けど?」
「気を付けた方が良い。今の師匠の顔、アレは何か良くないことを企んでいる顔だ。少なくとも、最終日が終わるまでは、気を抜くな。…うちの師匠は、修行の為なら手段を選ばないからな。」
ヌイの表情から、今まで師匠から受けて来た『修行』の苦労が伺える。
「そ、そうだな。うちの幽霊にも言っとく。あいつ最近調子に乗ってるからな…。」
とにかく、明日の最終日。【WAVE3】が来る来ないどちらにしても、絶対に気を浮かないようにしないと。
「おーいー!!まだなのー!?花火が湿気てたのー?」
しびれを切らした幽霊が遠くからこちらに声を掛けて来る。
「あー!ごめんごめん。今点火するからー!よし、ヌイ。こっち側から順番に点火していくぞ。」
「おう、パァーっと打ち上げてくれ!」
シュボッ______ジジジジジジ……バシュッ____________パァァンッ!!!
「おぉーーー!!」
一発目。夜空に咲く色とりどりの花火の光。想像していたよりずっと迫力があり綺麗だ。花火なんか、数年ぶりにしたが、最近の花火はここまで進化しているのかと思わず感心する。
「よーし、どんどん行くぞー!」
シュボッ______ジジジジジジ……バシュッ____________ジュッ!!…
_____しーん。
「あれ?不発か?」
撃ちあがった花火の玉は、一発目とは違い破裂することはなかった。
「き、気を取り直して3発目だ!」
シュボッ______ジジジジジジ……バシュッ____________ジュッ!!…
_____しーん。
「また不発…な、なぁ。気のせいか?夜空と重なってよく分からないが…何か、黒い影みたいなのが一瞬横切ったような…。」
花火の撃ちあがる弾道を目で追っていたが、星がよく見える夜空を一瞬だが影が遮り、花火をかき消したように見えた。どうやら、ヌイも同じものが見えていたようだ。
「あ、あぁ。私にも見えた。夜目が効くからな______________よ、避けろっ!!!!!!」
「…へ?うわっ!!!」
急にヌイに飛びかかられ、砂浜に2人して突っ伏せる。直後、空気を切り裂くような音と共に、俺たちが立っていた砂浜に『何か』が強く打ち付ける衝撃音が。
_______ズゥゥゥゥンッ!!!!!!!!!




