仮面教
ジュー…
香ばしい音を立てながら、網の上で焼かれる肉たち。師匠も缶ビール片手に、終始ご機嫌な様子でせっせと肉を焼く。
「ほれほれー、どうだ俺様のBBQは絶品だろー?お前ら肉はまだまだあるんだからどんどん食えよっー!」
「う・・・旨いっ!旨すぎるっ!!肉サイコーっ!!」
「な、何なのでしょう…!!このタレがまたより肉の旨味を引き立てているのです!肉だけじゃない、どのサイドメニューの完成度も素晴らしいのです!」
幽霊と悪霊が凄まじい勢いで口に肉を詰め込みながら絶賛する。たしかに、師匠の料理は明らかに素人レベルではない。この男、相当BBQに入れ込んでることが伺える。
「ふふふ・・・どーだ!私のししょーの料理はサイコーだろう。わたしは毎日これが食べれるんだぞー。羨ましいだろー!」
ドヤ顔で自慢するヌイ。だが幽霊はそんな彼女の発言の中の違和感を見逃さなかった。
「ま・・・まじ?_______ていうか、あんたたち一緒に住んでたの!?」
「ちょっと色々あってな。か、勘違いするなよっ!?ししょーにはかよっちさんという愛する人がいるのだからな!」
「まぁ、それもそうなのです。ヌイみたいな『ちんちくりん』誰も相手にしないと思うので______あぁ!ヌイ!それはこの悪霊が育ててた肉なのですっー!!」
涙目で抗議する悪霊。ヌイは平気な顔で肉を頬張る。
「モグモグ…誰が、ちんちくりんだ!おめーも十分チビだろ!」
「な、なにをーっ!!」
こうして喧嘩はしているが、幽霊も悪霊も随分ヌイと仲良くなったものだ。ヌイだけじゃない、師匠も初対面の時は恐ろしい研究会の敵だったが、今はこうして料理を振舞ってくれている。『案外、いい奴らなのかもしれない』そんな思いが俺にも芽生え始めているのも事実_________
「って!!ちょっと待てぇ!!!何か忘れてるだろ!・・・俺らはこの師匠に『ただの野良霊狩り』という言葉に騙されて、あの廃屋敷でえらい目に遭ったんだぞ!?」
「はっ!そ、そーいえばそーだった!」
「この悪霊、すっかりBBQの誘惑で忘れていたのです・・・!恐ろしいのです、肉の力!!」
完全に忘れていた様子の幽霊と悪霊。恐ろしいのはお前らの食欲だよ・・・。
「____ちっ。お前らアホだから何とかなると思ったが…さすがにダメか。」
「師匠、ちゃんと説明して貰えるんだろうなぁ?そこの空段ボール、中に2枚『仮面』が入ってるよな。何も知りませんでしたって訳じゃないだろ?」
俺の言葉聞き、幽霊が段ボールの中を見る。
「ほ、本当だ。『おかめ』に『ひょっとこ』。私らが戦った奴だ!」
師匠は手に持つビールをグイっと飲み干すと、やれやれと言った様子で話し始めた。
「ふぅ…だってお前ら、『廃屋敷に陣取ってる人数・能力不明の敵対組織を潰してこい』って言っても絶対いかねーだろ?」
「当たり前だろ!ということはアレか!?俺らは捨て駒として使われたってことかよ!?」
「捨て駒じゃねーよ。アレだアレ…『斥候』的なアレだよ。」
「オブラートに包んだだけだろ。くそ、師匠の言葉をほいほい信じた俺らがバカだった。とんだゲス野郎だなあんた。」
「そんなキレるなってー。俺とかよっちもちゃんと外で張ってたんだぞ。証拠にちゃんと奴らも始末した。結果オーライじゃねぇか、そんなプンプンすんなって。ほら、肉食え肉w」
ヘラヘラした様子で俺の皿に焼けた肉を入れる師匠。この男にいいように使われたかと思うとイライラする。
「いらねーよ!_____まぁいい…!それで?あの訳の分からん仮面の連中は何者なんだ?お前の弟子のヌイですら歯が立たなかったぞ?」
「あっ、おいお前!余計なことをわざわざ言うなー!」
ヌイが赤面しながら叫ぶ。
「_____だろーな。最近憑依戦闘を覚えたばっかりのヌイじゃあ歯が立たねーだろ。あれは『仮面教』の連中だ。たぶん、アレでも相当下っ端だぜ?幹部クラスになると…俺とかよっちでも厳しいだろうな。」
「それは…笑えない冗談だな・・・。」
ほら、と師匠が段ボールから、回収した仮面を俺に投げ渡す。
「ちょ、ちょっとそんなキモいの触ってだいじょーぶなの?やめときなって…!」
幽霊が心配そうにのぞき込んでくる。たしかに、あの仮面が人間を呑み込む様子を見た後じゃ、はっきり言って触りたくない。
「顔に着けない限りは安全だ。間違っても被るんじゃねーぞ?そいつは【喰面】。その面を被った者は一種の憑依戦闘状態になり、絶大な霊力を得ることが出来るっていう代物だ。面白いのは、この面を被った者は絶対に意識を失ってはいけない。もし失うと、たちまち『面に喰われる』。」
「喰われる…アレがそうだったのか…。」
「そうやって、どんどん人を喰ってどんどん面の力は増していくっていう仕組みだ。今回の二枚は…そうだな、まだ4~5人ってとこだろう。噂じゃ、『仮面教』の幹部には、数百人もの人数を喰った仮面を被ってる奴もいるとかいないとか…ま、噂だけどな。」
「すうひゃく…!!その…『仮面教』ってゆーのは、やばい組織なのですか?」
悪霊がビビりながら師匠に問いかける
「うちらと同業者の『暴霊団』だ。つっても、規模も戦力も段違い…主に関西を活動拠点にしているが、最近その勢力をこっちのナワバリにまで伸ばしているらしい。今回のはその前準備ってとこだったんだろう。」
かよっちから受け取った新しい缶ビールの蓋をあけながら、真剣な様子で師匠が話を続ける。
「仮面教以外にも、まだまだヤベー連中はごまんといる。うちにはキサキさんっていう、ある意味切り札みたいなボスがいるから今のところは大丈夫だが…本気で攻めてこられたらどうなるか分からねぇ。少なくとも、俺たちみたいに、こうして仲良しごっこするような連中ではないことは確かだぜ。」
いつになく深刻な表情の師匠。俺たちの不安を煽っているかのように、夜の海の波音が聞こえてくる。他人ごとではなく、いよいよ本格的に憑依戦闘を自分たちのものにしないといけない。師匠の話は、そう俺に覚悟させるのには十分だった。




