ひょっとこ
「それで?めでたくおかめ男を倒せたって訳だが…空間支配は解除されてねーなぁー。」
未だ果てしなく続いている廊下を見渡しながら、ヌイが気だるげそうに呟く。
「まだまだ霊力残ってるし____いっそ私がこの辺り全部ぶっ飛ばしてみよっか?」
ポキポキと指を鳴らす幽霊。まだまだ暴れ足りないといった様子で、不敵な笑みを浮かべる。
「おー、やれやれー。ま、意味ないと思うぞ。直接、空間支配の霊使いを叩かないと。」
最早ヌイも投げやりな様子
(「ちょっと待て幽霊っ!いつになったら俺の体は帰って来るんだ?もしかして…ずっとこのままってワケじゃないよな!?」)
幽霊の脳内で必死に呼びかける思念体の俺だったが、ハイになっている今の幽霊には届かない。
「いやー、私も何とか元に戻りたいんだけど、戻れないなら仕方ないね!まぁ、これからは話し相手くらいにはなってあげるよ。」
こいつ、今のこの状況を楽しんでやがる。まぁ気持ちも分からんでもない。今まで霊体だったのが急に生身の体をゲットし、おまけに凄まじいパワーを手に入れたのだ。俺が幽霊の立場だったら舞い上がってしまうだろう。
「幽霊、さっきから誰と話しているのですか?もしかして…ご主人さま?」
(「おぉ、悪霊!俺のことを思い出してくれたか!そうだ、お前の主人は幽霊の頭の中にいるぞー!」)
「あぁ、ごめんごめんw独り言だよー!wあいつどこ行っちゃったんだろーねー?トイレじゃない?」
(「幽霊てめぇ、このまま体を持ち逃げするつもりだな?いい覚悟してんじゃねーか。だがな、人生そう上手くはいかないってことを教えてやる_____」)
「へ??」
ズズズ_________ズルっ…!!
突如、幽霊がバランスを崩しその場でこけてしまう。同時に体がズルりと音を立てながら分離し、あっさりと俺と幽霊は元通りになった。
「あいたたた…あ、アレ?元に戻ってる?もー!もうちょっと生身の体を堪能したかったのにぃ!」
「ばーか、あくまでも主人は俺ってことだな。強く『体を返せ』って念じてみたんだよ。」
上手くいって良かったが、ぶっちゃけ永遠とあのままってこともあったかもしれない。ちゃんと憑依戦闘について研究しないと、いつも行き当たりばったりだといつか痛い目を見そうだ。
「ご主人さまーっ!やっぱり幽霊の中にいたのですね!幽霊ぃ…嘘ついたのですね!!」
「だ、だってぇ…生身の体、めっちゃ気分が良かったんだもんっ!」
ふくれながら抗議する幽霊。まぁどんな形であれ、幽霊との憑依戦闘が成功してなかったらここで全員おかめ男にやられてたのは確実だ。調子に乗ったのは許すとしよう。今はここから早く脱出することを考えないと。
「ったく…言い争いは後だ、話を戻すぞー。おかめ男を倒しても何も変化が無いってことは、どこかにまだこいつの仲間がいるってことだよな?ヌイ。」
「いるな。確実に。けど相当慎重なやつだと思うぞ。普通に探しても見つからないだろー。残された手は…そこで伸びてるおかめ男を叩き起こして、なんとか口を割らせるしかないな。」
「割るかー?こいつ。とても話が通じるような相手には見えなかったけど…。」
ちらりと、完全に伸びているおかめ男に目をやる一同。そこで、ふとある違和感に幽霊が気が付く。
「…あれだけ派手に頭突きを喰らわしてやったのに、あの『おかめ仮面』に傷一つついてないんですけど。何製?アレ。」
「た、たしかにそうなのです。幽霊の頭突きは斧も砕いたのに。」
ペンライトに照らされ不気味に光るおかめ仮面。その表情を見ていると、完全に倒したはずなのに今にでも再び起き上がってきそうだ。
そんな仮面の不気味さに飲まれていた俺たちに、新たな接近者が。
_____ペタ。ペタ。ペタ。
「な、なんだ!?足音が聞こえてくるぞ?」
「今度はなんなのー・・・。」
倒れているおかめ男の背後の闇からぬるりと姿を現したのは、またもや仮面をつけたスーツ姿の人物。体格からして男だろうか。
「ご主人さま…また仮面なのですー…。」
「あれは…『ひょっとこ』?おかめのお次はひょっとこ仮面かよ…ここは仮面祭りの会場か何かなのか?」
ヌイはもう満身創痍だ、この場で闘えるのは俺と幽霊しかいないだろう。もう一度憑依戦闘をやるとして、果たしてうまくいくのだろうか。万が一のことも考えて、悪霊との憑依戦闘もぶっつけ本番であり得ることも頭に入れておかないと…。
「・・・。」
だがひょっとこ男はこちらに襲い掛かって来るそぶりは全く見せず、ただ突っ立っているだけだ。
「ど、どうするよ?何もしてこないなら、このまま逃げちゃう?」
「おい幽霊、さっきまでの威勢の良さはどうした?____絶対アイツだろ、空間支配の霊使い。せっかく向こうから姿を見せてくれたんだ。ここで仕留めないでどうするよ?なぁ、ヌイ。」
「た、ったりめーだ…!よし、いちにのさん、で行くぞ。今出せる全力の犬霊であいつの気を引くから、てめーは憑依戦闘で瞬殺するんだぞ。」
お世辞にも作戦とは言えないほど雑な内容だ。
「いくぞー・・・いち、にの・・・さ_______」
コツン。
ヌイがカウントし終える直前、ひょっとこ男が動きを見せる。足で『コツン』とおかめ男の仮面を蹴ったのだ。すると突然、ガクガクとおかめ男の体が震えだす。
ガタガタガタガタッ_________!!!!
「な、なになに!?めっちゃ震えてる!まさかまた起き上がるんじゃ…!?」
メキャッ…メキメキメキッ______ズルズルズル_________
そんな幽霊の予想は外れる。倒れたおかめ男の着けている『おかめ仮面』から無数の黒い触手のようなものが染み出し、装着者の体を生々しい音を立てながら仮面へと押し込んでいく。あっという間に体は仮面へと圧縮され、その場にはおかめ仮面だけが残された。
「な…なんだ…!?仮面が体を…喰った!?」
呆気にとられる俺たちには目もくれず、ひょっとこ男は残されたおかめ仮面を拾い上げると、くるりと背を向け立ち去ろうとする。
「まっ、待て_______!!てめーら何者だ!逃がすかよ!」
ヌイが犬霊を召喚しようとする
グニャァァ_______________
だが急に視界がぐにゃりと歪む。廊下全体がゆらゆらと波打っているようだ。
「いない・・・。ってあれ?月明かり・・・ってことはもしかして、解除されてる?」
視界の歪みが収まった時には、すでにひょっとこ男の姿はなく、目の前には月明かりに照らされる廃屋の廊下の景色が。明らかに先ほどまでと違い、その広さや長さも普通だ。
「ふぅー…助かったぁー・・・。あっ、BBQ!肉!早く帰ろっ!」
「そうなのです!すっかり忘れてたのですっ!肉が我々を待っているのです!」
あんだけ不気味な光景を見た後にもかかわらず、BBQの事を思い出しテンションが上がる幽霊と悪霊。こいつらの食い意地だけはホントに敵わないな。




