怨霊さんⅢ
「ありがとうございましたーまたお越しくださいませー。」
怨霊さんが来店した翌日、今晩も俺と女子高生の藤宮はコンビニのレジに立っていた。怨霊さんが消えた後、念のため藤宮と二人で、防犯カメラのビデオを確認したが、案の定彼女の姿は影も形もなかった。
「まあ、良かったじゃないですか。特に被害もなかったんだし。」
「良くねーよ。くっそ怖かったわ。寿命が5年は縮んだね。」
「先輩は長生きしそうですね。」
「うるせー。お前も半泣きだったくせに。」
「なっ、泣いてませんよ!」
「しかし・・・あの負のオーラは尋常じゃなかったな・・・。」
「・・・そーですね。あのゆらゆら揺れるのもヤバかったです・・・。」
今思い出しても鳥肌が立つ。あの見るもの全てを呪うかのような目。同じ霊だが、うちに住みついているアホ霊二人とはまるっきり性質が違う。
「んじゃ、俺はそろそろ上りだから。」
「えっ」
「おつかれー。」
「先輩まだ夜の11時ですよ!?」
「俺もともとこの時間帯のシフトじゃないし、昨日も今日もただのヘルプで入っただけだから。」
「ええええ!嫌ですよ私一人とか!またあの女がくるかも!」
「来ねーよ。たぶん。」
「たぶんって・・・。こういう時は黙って私が終わるまで待つのが普通なんじゃないんですかー?」
「腹減ったし、眠いし、怖いし。大丈夫、俺と入れ替わりで次のシフトの奴が来るから。たぶん。」
「ひどーい!」
藤宮にグチグチ言われながらも、俺はコンビニを後にした。時刻は23時30分を少し回ったところ。
「ブルッ・・・寒っ。春だというのに、まだ夜は結構冷えるな・・。」
深夜。人通りのない住宅街。
「・・・・雰囲気出すぎだろ。早く家に帰ろう・・・。」
バイト先のコンビニから家までは、自転車で10分ほどの距離。いつもならあっという間に着くのだが今日はとてつもなく長く感じる。今更だが、悪霊を憑けてくるべきだったと後悔。
「こ、こういう時は今日の晩飯のことを考えよ・・・・ん?」
50メートル先の電灯の下。人が立っている。夜だからはっきりとは分からないが、見覚えがあるシルエット。俺は何故か確信した。あいつだ。怨霊さんだ。
なんで?なんで怨霊さんが立ってんの?あともうちょっとで家に着くのになんで?コンビニ限定じゃなかったの?嘘だろおい。
心の中で叫びながらも、怨霊さんとの距離はどんどん縮まっていく。今更Uターンしても逆に怪しい。このまま知らん顔で通り過ぎよう。うん。それしかない。
ペダルを漕ぐ足に力が入る。
・・・よし!通り過ぎt
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
ダッシュ!猛ダッシュで怨霊さんが追いかけてくる!それはもう一心不乱に!
「ちくしょおおおおおおおお!!!捕まってたまるかよおおおおお!!!」
幸いにもこっちは自転車。追い付かれることはないが、怨霊さんの化け物並みの脚力で振り切れそうにない。そうこうしているうちに、住んでいるアパートが見えてきた。この際、家バレは仕方ない。
ガッシャーーン
駐輪所に自転車を派手に乗り捨てて階段をダッシュで上がる。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
バタン!ガチャ。
鍵とチェーンを光の速さで閉める。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・。」
「おかえりー。どしたの、死にそうな顔して。」
「お帰りなのです。ご主人様。大丈夫ですか?」
リビングには、スナック菓子を食べながら深夜アニメを観ている、幽霊と悪霊。
「はあ・・・はあ・・・おまえら・・・俺がどんな目に合ってきたかも知らないで・・・。」
「分かった!パトカーに追われたんでしょ。」
「パトカーよりもっとヤバい奴だ。・・・実は、昨日のバイトの時かr」
ピンポーン。
チャイムが鳴り響く。やばい。来た。