怨霊さんⅠ
「先輩って、最近彼女とか出来ました?」
「は?いねーよそんなもん。」
そうやって声を掛けてきたのは、同じバイト先の後輩の女子高生、藤宮だ。この間、俺の勤務時間が長引いたのもこいつが原因。今日は色々あって、夕方から翌日の午前5時までという不規則なシフト。現在の時刻は午前2時で、コンビニの店内には俺と彼女の2人きり。
「だってー、なんか最近先輩、女の匂いがしますよ?」
「なにそれ、きもいんですけど。」
「えー、それに買って帰る商品も明らかに一人分じゃないですしー。あっ、まさかもう同居とかしちゃってるんですか?」
「してねーよ!てか彼女いねーって言っただろ。」
こいつ、なかなか鋭い。まあ、今まで女っ気が0だった俺が女と一緒に住み始めたら、周りから分かる程度には変化はあるのかもしれない。それに住みついてるのは霊だし。それが2体も。
「はー、とうとう先輩にも彼女かあ・・・。なんだか感慨深いですね。」
「てめーは何様だ。」
「あ、話変わるんですけどー。」
「変わるのかよ。」
この藤宮という女子高生、こんな感じでとことんマイペースだ。
「・・・先輩って、幽霊って信じてます?」
「!?」
「えっ、どうしたんですか。」
「い、いや、なんでもない。信じてねーよそんなもん。」
やばい。あまりにもタイムリーで核心をついてる質問でビビってしまった。
「そーなんですか。それがですね、最近変な客が来るって噂知ってます?」
「変な客?なんだそれ。」
「私も見たことはないんですけど、この辺りのコンビニでバイトしてる友達がみんな言ってるんですよ。深夜、誰も客がいなくなる時間帯になると、ある客が来るんです。真っ黒なワンピースを着ていて、生気のない顔をした女が。」
「ふーん。それで?」
「あっ、信じてないですね?怖いのはここからなんですよ。かなり長い間、店内をうろうろするらしんですけど、その後、消えるんです。」
「消える?」
「あまりに見た目が異様だから、ずっと目で追うんですけど、棚の後ろとかの死角に入った瞬間に、フッと・・・。」
「ほーん。」
「それで、後から防犯カメラのビデオで確認すると、なんと女の姿は一切映ってないんです・・・。」
「おーこわいこわい。」
「えー!、めっちゃ怖くないですかー?」
普段からマジの霊に憑りつかれている俺にしてみれば、そんなありきたりな怪談話なんて全く怖くない。
ワンルームで全くプライベートな空間が皆無な方がよっぽど怖い。あと食費も怖い。
「逆に見てみたいね。わざわざコンビニなんかに化けて出てくるおねーさん。」
「そんなこと言ってたらマジで来ちゃいますよー?」
ピロピロピロ♪
入店を知らせるチャイム
「「いらしゃいま・・・・」」
視線に入った瞬間分かった。
黒いワンピース。死んだような目。伸びきった髪。
勤務終了まであと・・・2時間と45分。