ある日の深夜
「うるさいな。」
「うるさいですね。」
「うるせええええーーーー!!!」
「幽霊、てめーもうるせえ。」
深夜、そろって愚痴をこぼす3人。何がうるさいのかと言うと、最近引っ越してきた上の階の住人だ。越してきた初日から、まず足音が尋常じゃない。わざとかっていうくらいドンドン歩いている。さらに、しょっちゅう仲間のDQNを呼んで馬鹿騒ぎまでするフルコンボぶり。
「もうすぐ深夜アニメ始まる時間なのにいいいいいっー」
「全くけしからん連中です!」
「深夜になっても俺んちに居座ってるお前らもけしからんけどな。」
「だってアニメ観たいんだもん!このテレビに録画機能がないのが悪いっ!」
「だったら自分でレコーダー買えy」
ドンドンドンドンドン!!!ウェーーーーーイィィィ!!!
容赦なく響く足音と、大人数の騒ぎ声。どうやら今夜も宴会が始まるようだ。
「・・・いい加減頭にきた。おい悪霊。」
「は、はいっ!?」
「作戦がある。ちょっと働いてもらうぞ。」
「りょ、了解しましたであります!」
___________
10分後。
「それでは、0一二0(マルヒトフタマル)現時刻をもって、作戦を決行する!」
「ハッ!」
「あ、あんたたち、大丈夫?どうかしちゃったの・・・?」
ちょっと引き気味に心配する幽霊を横目に、玄関前で敬礼する俺と悪霊。積もり積もったイライラと深夜テンションで、明らかに言動がまともじゃないのは自分でも分かる。
「悪霊!俺にちゃんと憑りついているな?」
「はいです!ご主人さま!」
「よし、それでは戦場へ出撃する!行くぞ悪霊!留守を頼む、幽霊!」
「お、おう。私はアニメ見ながら待ってるから、き、気をつけてね~。」
バタン
階段を上り、問題の部屋の前に立つ。
「悪霊、作戦は頭に入っているな?しっかりやれよ。部屋の平和はお前の手にかかっているからな。」
「分かっています。私に任せてください!」
「よし。」
ドアの向こう側からは相変わらず馬鹿騒ぎしている音が聞こえる。
ピンポーン
十数秒後、中からいかにもな見た目をした男が怪訝な表情を浮かべながら出てきた。
「はい?アンタ誰っすか?マジ夜中に迷惑なんスけど。」
悪霊が俺以外の人間には見えないのは、事前に調査済みだ。
「夜分遅くに申し訳ありません。下の階の部屋の者ですが。あ、あのう、非常に言い辛いのですが、足音などといった生活音が少し気になるので、抑えてもらえませんかねー。」
「あ?何言ってんの?俺はふつーに生活してるだけなんだけど?なんか文句あんのかよ!」
予想通りの反応。よし。作戦は順調だ。
「す、すみませんでした。失礼します!」
大人しく自分の部屋に戻る。幽霊が出迎えてくれた。
「おかえりー早かったわね。・・・ってあれ?悪霊は?」
「ふふふ、お前にこの作戦の全容を教えてやろう。(二ヤリ)」
「お、おう。」
「作戦は至って単純。俺が直接上の奴に文句を言いに会いに行く。当然の如く追い返された。しかし、俺が上の奴に会いに行ったのは文句を言うためじゃない。」
「どういうこと?」
「まだ分からないか?悪霊に憑りつかせるためだよ。そして上の部屋の住人に憑りついた悪霊は部屋でポルターガイストを炸裂させる!」
「うおお!すごい作戦だ!」
「だろ?もうすぐ奴らの笑い声が悲鳴に変わるぞー」
「わくわく。」
うおおおおおおおおお!なんだ!?急に皿が割れたぞ!なんだ!?電気も消えた!ぎゃああああああああああああああああああ!!!
数秒後、ドタバタとドアを開けて部屋から逃げていく音がした。その後、訪れる静寂。
「ふははははは!!でかしたぞ悪霊!あいつもやるときはやるな!」
「おっしゃあああ!これでゆっくりとアニメが観れる!」
喜ぶ俺と幽霊。深夜テンションで決行した作戦だが思いの外うまくいった。
「・・・・・あのさ。」
「ん?なんだ幽霊?帰るのか?」
「いや、そうじゃなくて。」
「ん?」
「悪霊ちゃんさ、上の階の人に憑りついてるんだよね?」
「そうだぞ。」
「・・・・どうやって帰ってくるの?あの子憑りついた人としか行動出来ないよね?」
「・・・・・あ。」
半泣き状態の悪霊が無事戻ってきたのは、昼頃だった。ビビりながら戻ってきた上の階の住人に怪しまれないように近づき、憑りつく対象を俺に戻させた。そのままほっとけば、居候娘が減ったかもしれなのに。俺も甘いもんだ。