外出
「うーん。やはり出れませんねー。」
「やっぱり?何か結界でも貼ってあるんじゃないでしょーねー?」
先ほどから玄関前でなにやらごそごそしている2人。どうやらこの家から出られるかどうか試しているようだが、何故か出ることが出来ないらしい。幽霊からは以前にそのことを聞いていたような気がするが、まさか悪霊までも同じ仕様とは。
「いい加減、電子レンジにも飽きてきたところですし、外に出てみたいのです。何かいい案はないですかご主人様?」
「俺的には、一刻も早く2人そろって出て行ってほしいところなんだがなー。」
「またまたあー。こんな美少女な幽霊とほぼ同居状態で暮らせるなんて夢の様でしょ?」
漫画やアニメでは必ずあるといっても良い、女の子との突然同居することになる展開。実際に当事者となってみると、『めんどくさい』の一言だ。幽霊は、画面の中の井戸に住んでるっぽいから1日中俺の家にいるわけではないが(それでも半日以上いることが多い)、悪霊の方はほぼ朝から晩まで部屋に居座っている。
プライベートな時間なんてあったもんじゃない。
おまけにさらに大きな問題が食費だ。霊体のくせに、2人揃って馬鹿みたいに食いやがる。
「うぅ~、やはり何度やっても出られませんー。見えない壁に阻まれます・・・。」
「私は別に出れないなら出れないでいいんだけどねー。この部屋で暇つぶし出来るの楽しいし。」
「私は出てみたいのです!外の世界に出て、霊的パワーをさらに身に着け、そしてこの部屋に君臨するのです!」
「結局は戻ってくるのかよ。てか、お前ら人の家を勝手にたまり場にすんな。」
「ここでしか暇つぶし出来るとこないんだもん。それに私は最低限のマナーは守っているわ。夕飯だって週3しか食べに来てないし、おかーさんが帰って来なさいっていうとちゃんと帰るし。(バリバリ)」
「勝手に俺が買ってきたポテチを食い漁りながら言われても説得力皆無だよ。それに週3で夕飯食べに来てる時点でおかしいだろ。てめーの親は何考えてんだ全く。」
「おかーさんは・・・病気!そう、病気なのよ!」
「今考えただろそれ。」
「むぅ・・・ばれたか。」
私は仕方がないのです、と悪霊がすかさず会話に割り込む。
「私はここにしか居場所がないのです。それにもし外の世界に出れても、誰か世話してくれる人がいないと野垂れ死んでしまうのです。」
「もう死んでるだろ。」
「私はこのテレビに憑りついてから、ご主人様と一生を過ごすと心に決めているのでs・・・ん?憑りつく・・・そうです!憑りつけばいいのです!」
「は?」
「このテレビじゃなくてご主人様に直接憑りつけばいいんですよ!そうすれば、ご主人様と一緒に外に出られるかもです!」
「なにそれずるーい!私にはそんなチート能力ないんですけど!」
「ふっふっふ、これが悪霊の力なのですよ!」
「ちょっと待て、お前が俺に憑りつくということは、俺が外出しているときも一緒ってことか?」
「あぁ、もちろんその辺はちゃんと空気読んで行動しますよ。」
「嘘だ!絶対嘘だろお前!」
「それでは!お邪魔しまーす!」
「待て!俺は絶対嫌だからな!俺に憑りつくなんて許さねーぞ。」
「そーだ!そーだ!悪霊だけずるいぞ!」
外にいる時まで一緒とか堪ったもんじゃない。俺は悪霊から出来るだけ距離を取るように部屋の隅へ逃げる。
「あ、もう憑りつき完了しました。」
「早っ!憑りつくの早っ!なんかこう、スーッと入ってくるアクションとかねーのかよ!」
「私ほどの悪霊となれば、憑りつくのもスマートなのですよ。」
「く、くそぉ・・・。」
「それで、それで、どうなの?ちょっと外に出てみなさいよ!」
「幽霊てめえ、さっきまで野次ってたくせにどっちの味方なんだよ。」
「私は暇さえ潰せればそれでいいのよ。(ニヤニヤ)」
こいつは当分の間夕食抜きにしてやろう。
「ご主人さま、外に出てみてください!」
「わ、分ったよ。」
そんなにワクワクした顔で頼まれると、断るわけにもいかない。
「んじゃ、出るぞ。」
「は、はいっ。」
ゆっくりと玄関のドアを開け、足を一歩踏み出す。
「お、おおおおお!出れました!私外に出れました!」
悪霊は、フワフワと俺の方の肩らへんに浮いている。どうやら外に出ると、体を実体化することはできないようだ。というか、その前に悪霊の姿は他人からは見えるのか?確かめないといけないことは多そうだ。