異世界から来た青年はどうやら無双するようです。1
ティルとの口喧嘩も治まり、街にも平和が訪れた所で、レベス達は本来の目的を思い出し時計を見ると、時間的にも余裕がなくなってしまった。ということでティルがまた魔法を使い、目的地まで一気に飛んだ。今度は前みたいな瞬間移動ではなく、飛んでいった。
「此処がメトロ一番の観光名所!というか人界一番!“ラクサ”というこの世界共通の雑誌では行ってみたいランキング5位以内を常にキープ!観光客だけでなく、現地の人々も、他の空間から来る者達も皆々集まり楽しむんだ!!」
ティルの気分は最高潮になり、一方、馴れない飛行に息切らし、今にも魂抜けそうなレベスは「あー」と聞き流していた。
「ふおぉ?!」
だが、ふと上を見上げるとそこには未知なる世界。見た目は普通の一軒家だが、圧倒的な存在感を放つ建物。その前に集まる大勢の人、悪魔、妖精など様々な者達の共生。一見小さそうに見えるそれの屋根には赤、青、黄、緑など、鮮やかな色たちが周りを囲い、中心には、大胆にも黒と白が陰陽太極図のように絡まり、だが、それと異なるのは黒の点と白の点がないことだ。
「じゃあ、れっつごー!!!」
「おぉ!!」
入り口に近づいていくと、先程まで普通の一軒家に見えていたそれが、何処かの煌びやかなお城のように見える。だが、レベスはそれを確かに捉え、錯覚を覚えた。
「あれ?何か城みたいな建物なんだけど・・・おかしいな、小さい一軒家に見えたんだが・・。」
「いや、あってるよ。あれ、小さな一軒家がテーマのとこだから。」
「えっ?城じゃん。どこをどう見ても城じゃん。」
レベスは疑問点1つ、見つけ出す。
「何で他の入口に入っていかず、皆あの入口から入るんだ?そういう決まりでもあるのか?」
やはり、城のような建物だけあって入口もあちこちにあり、そこにも従業員らしき人がいる。だが列は中央の、どの入口よりも小さなドアだけにあり、他の大きな入口には誰も並ばない。
「だから言ったじゃん。あれ、小さな一軒家だって。いや、正確には城だけど、魔法でそう見えるはずなんだよね。」
「じゃあ、あのサイズの城に魔法使って小さな一軒家に見せてるってことか?」
「そゆこと~。」
「ほう。」
レベスは1人で納得し、右手を顎に添え、何度も頷いていると、一番大きな入口を見張っていた従業員が、レベス達の元に突然現れた。男はスーツも、シャツも、靴や手袋に至るまで全身黒で統一されており、いつかの格好つけた男が脳裏に蘇る。
「あっ、一番デカい入口にいた人だ。」
その男が一番大きな入口の見張りだとわかったのは、その格好にある。長い列の出来ている小さな入口には、楽しそうなカラフルの服を着た従業員、その他の大きな入口以外の従業員は白で統一されており、全身黒だったのは、大きな入口1つのみであったためだ。
「おぉ、やはり私が見えておられましたか。どうやらとても目のいいお客様に出会えたようだ。」
男はニヤリと笑う。
「このショーを始めて随分と時が経ちましたが、この入口を見つけられたのはあなた方だけです。さて、レベス様とティル様でよろしいですね?オーナーがお呼びです。こちらの大きな扉からお入り下さい。」
そう言うと、その状況についてこれていないレベスと、自分が見えているということに驚くティルを大きな扉に押し込み、ガチャンと重たく閉じた。
「何なんだよ。あの一番大きな入口は見えちゃ駄目だったのか?」
「そりゃ、あれだけの魔法をやってのけるんだから、本当に目がいい人じゃないと見破れないし。」
「けど、俺、そんな目、よくないぞ。視力だって1,0ないし。」
「いや、そういう目の良さじゃないんだよね。」
「何ッ?!」
2人はそんな話をしながら、中にいた案内人についていく。
「こちらでオーナーがお待ちです。」と扉の前で言った後、頭を下げ、その場から去っていった。
扉は普通のサイズで、だが、その大きさとは異なる圧倒的な存在感がビリビリと伝わってくる。中にいるオーナーはいったい何者なのかと、それを考えるだけで身震いした。
「ようこそおいでくださいました。本日はあなた方の目の良さを見込み、1つ、頼みたいことがございまして・・・。」
中はソファーに長い机、上にはシャンデリア。何とも豪華な作りだ。男も黒の燕尾服を着こなしており、白いステッキがソファーに立てかけてある。
「頼みごと、ですか。」
レベスも、オーナーを目上の人とみたのか、敬語を使う。
「はい。実は______」
「なっ?!」
オーナーからの依頼に衝撃を受け、あまりの事に「ちょっと考えさせてください。」と返事を先送りにした。
「そう、ですよね。では、次の時ノ日にまた会いましょう。」
男はそう言って、ソファーに立て掛けてあったステッキを持ち、トントンと2回床を叩くと、一瞬のうちに消えてしまった。
「なぁ、時ノ日っていつだよ?」
「う〜ん、2日後、かな」
「はやっ!」
この世界は、ティルが言うには時ノ日から始まり、時ノ日、陽ノ日、水ノ日、風ノ日、光ノ日、地ノ日となっている。これがレベスの居た所で言う、日曜から始まる曜日だ。
そんな話をしていると、案内人が現れ、「それでは一時の夢の中にて、またお会いしましょう。」と言い、パチンと指を鳴らす。視界がグニャリと歪み、一瞬の浮遊を感じ、思わず目を閉じた。
「・・・・。」
目を開くとそこには大勢の者達。大きな歓声を耳で受け取り、その歓喜を肌で感じ取る。
どうやらここは、サーカスを見るところだったらしい。
綱渡りや空中ブランコ、ナイフ投げなど演目は様々で、どれも目を引かれるものばかりだ。気付けばレベスもティルも、数分前にあった出来事を忘れ、その夢に入り込んでいった。
「次が最後の演目となってしまいました。そこで、フィナーレに相応しい、最高のものとするため、お客樣方のお力をお借りしていきたいと思います。」
司会者がそう言うと、観客はさらに興奮し、会場は熱気に包まれた。
コツコツと高いヒールを履いた女が舞台の真ん中に立つ。特になにをするわけでもなく、会場を見渡し、隣に居た男に耳元で何かを囁くと、そのまま舞台を去っていった。
「それでは、これからお手伝いをしていただくお客様を発表していきたいと思います。」
「_________」
男が6人、女が4人、合わせて10人呼ばれ、全員箱を被された。何が始まるのかと思えば、その箱を燃やしたり、凍らせたり、小さな雷を落としたりなど、魔法を使い、結果的に箱は全て、跡形もなく消えていた。その様子に客は驚き、言葉を失ったが、燕尾服を着こなし、黒いシルクハットを被ったオーナーがやってきて、指をパチンと大きく鳴らすと、ポンっと10カ所から煙が出て音が立ち、先程箱の中にいた10人が現れた。それにはもう、観客も大盛り上がりで、ショーはいつもながら大成功を収めた。
「なぁ、なんかあの10人、可笑しくないか?根拠はないけどなんか違和感が・・・。」
「そうだね、ま、気のせいじゃない?」
「そうか・・・。」
レベスはティルのその言葉を聞き、気にしないようにした。
「さてさて、どうでした?」
「小さい時以来のサーカスだったから、なんか懐かしかった。まぁ、色々違うとこはあったけどな。」
未だに冷めない熱を語りつつ、2人はメトロをぶらぶらと観光した。