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異世界から来た青年の元にどうやら僕っ娘がくるようです。5

「それで、君は誰?どうしてこんな所にいるのかな?」


ぶつかった少女がとても可愛らしかったからか、レベスは何時もの口調を変える。


「ぼ・・僕は、子供じゃないのです!」


少女は怒ったつもりだろうが、それはレベスにとって、ただの癒しでしかなかった。


「うんうん、そっか。どこからきたの?」

「レベス、流石に子供扱いし過ぎじゃない?」

「いや、だって、どうみても子供じゃん。」


ティルも、レベスの過度な子供扱いに呆れ、注意する。


「ママはどうしたの?」

「ぼ・・・僕は、僕は、子供じゃないのですーーー!!」


レベスがその拳に気付いたときにはもう遅い。ティルの注意を無視した報いだ。

少女は、レベスに子供といわれるのが相当恥ずかしかったのか、レベスを躊躇なく殴った。


「ぼ・・僕は、僕は、これでも18歳なのです!」

「えっ?」


少女の口から発された衝撃の事実に、レベスは戸惑う。

子供扱いをしてきた少女が自分の年上(レベスは現在17歳)で、今、自分の目の前にいる。その状況を理解すると、顔を青ざめさせた。

レベスが次にとる行動はもう1つしかない。その行動をわかっているティルはニヤニヤしながらレベスを見下ろした。


「す・・すみませんでしたーーー!!!」

「ご、ごめんなさいですーーー!!!」


レベスのする事は1つ。スライディング土下座。だが、少女____女性もそれにつられて謝るので、レベスは土下座しながら考えた。そしてレベスは思う。

そうだ、女性が謝ったのだから俺も謝ろう。

と。何故そんな結論に至ったのかはわからないが、レベスはもう一度女性に謝る。すると、女性も負けじとレベスに謝る。更にレベスはもう一度謝る____

ここまでくると、もう何に謝っているのかわからない。ただの、意地とプライドの勝負だ。

だが、そのやりとりを見かねたティルがそれに終止符を打つ。


「・・・。ごめんね!レベスと___年齢詐欺師さん!【吹っ飛べ】」


ティルは、その女性の名前を知らない。何と呼べばいいのか迷った結果なのだろうが、それにしてはかなり鋭く、何かに対抗しているようだった。


「ちょ、いきなり何やってんの?」


近くの寂れた建物にぶつかったレベスは、パラパラと音を立てながら瓦礫を除け、ジャージについた砂を払う。

同様に、近くの岩にぶつかった女性は、砂煙の中から「酷いのです。」と言って出てきた。


「いや、だってこのままだと謝るだけで十時間すぎそうだったから。」


そこでようやくレベスは、自分にタイムリミットがあるのを思い出す。女性も、何かがあるようで、モジモジしていた。


「あのっ、僕っ、用事があるのでこれで失礼するのです。」

「あっ、はい。了解しました。」


何か決意したかと思えば、女性はそう言って、その場を去っていく。いきなりのことにレベスは戸惑い、咄嗟にでた言葉は何故か敬語になっていた。


「あっ、名前聞いてない!」


レベスがそれを思い出した直後だった。その女性から「クラウンという者なのですー!!」という声が聞こえたのは。タイミングがいいな、と思いながらも可愛らしい僕っ娘の名前を知れたので、大満足のレベスだった。








「じゃ、行こうか!メトロで一番人気がある所に。」

「いや、メトロに来た理由って、観光なのか?」

「それ以外に何があるの?」

「・・・。観光するか。」


此処メトロに来た理由がもっと深いものであると想像していたレベスは少し落胆したが、これがティルらしさでもあるか、と前向きに考えた。それに、異世界初めての観光だ。気分が高揚しないはずがない。


ティルはというと、レベスの周りをクルクル回ったり、近くの植物や動物に触れたりしながらゆっくりとレベスを案内する。レベスも早くつきたいという気持ちを抑え、それに苦笑しながらゆっくりと辺りの風景を楽しんだ。


異世界だというものだから、もっと現実では有り得ないような建築物や、乗り物があると思っていたが、意外とどこにでもありそうな街並みで、海が綺麗に輝いている。だが、よく見ると獣人や尻尾の3つ生えた猫など、夢物語をみているような気分だ。


「ティル、ちょっと待った。」

「えっ?何か気になる美少女でも見つけたの?」


ティルの言う“メトロで一番人気がある所”とやらまであと少し、という所でレベスは静止した。

ティルは、にやけながらレベスの目線の先にあるものを追い、それを見つけると、険しい顔をする。


「まさか、助けにいこうとか考えてないよね。」

「いや、勿論助けるつもりだけど。」

「ふーん。そっか。」


レベスの目線の先には『コクハク』という何でも屋に、その前で必死に謝っている親子と柄の悪そうな大男がいた。

ティルの素っ気ない返事にレベスも助けに行かせてくれると思ったのか歩き出そうとする。だが、ティルがそうはさせなかった。魔法を使い、レベスの動きを封じていたのだ。


「ティル、今回は遊びじゃねぇ。解放してくれ。」


かろうじて笑顔は保っているものの、レベスは何時もよりどっと低い声を出し、言った。


「じゃあ、私からも言うね。レベス、これは遊びじゃないんだよ。だから解放出来ない。」

「遊びじゃないことはわかってる。だから早く解いてくれ。」


一歩踏み出せば親子を助けられるかもしれないレベスと、その一歩を踏み出させまいとするティルは睨み合い、考えをぶつける。だが、一向に話しの進まない言い合いに痺れを切らしたレベスが、怒りのあまり、ティルに声を荒げた。


「せっかく異世界に来たのに、そこに助けを求めている人がいるのに、何で行かせてくれないんだよ!!」

「思い上がるな。」


ティルも頭にきていたが、レベスとは違い声を荒げず、静かに、威圧する。


「レベス、何時までも夢を見ないで。レベスにとっては此処は異世界かもしれないけど、私達にとっては此処が世界なんだよ。」

「それくらいわかって___」

「わかってない!!わかってるって言うなら何もしないで!もし本当に悪いのがあの親子だったら、いくら柄の悪そうな大男と言えど正当な事をしてるんだよ?そうなれば罪を問われるのはレベスだ!!節介焼く前に自分のことを考えて!!」


意志を曲げないレベスに、怒りを静めながら反論していたティルも怒鳴る。だがその目はレベスを真っ直ぐ見ているようで見ていない。それを感じ取ったレベスは何故か、無性に落ち着いた。

自分ではない誰かに対しての怒りに_____自分が自分以外の誰かに重ねられているということに、どうにもならない虚無感が襲う。そして一言、ティルに言った。


「俺が誰に見えるんだ?」


と。

その瞬間、ティルの目は泳ぎ、頭を抱えながら「違う、違う」と何度も何かを確かめるように呟き、その後鎮まる。体を弛ませたかと思うと顔を上げ、レベスに「あなたは違う。」そう自分自身に言い聞かせるように言って、ニッコリと笑う。

とても綺麗に笑っていた。

だが、その笑顔はレベスを恐怖させるには十分で、鳥肌が立ち、目を離すことが出来ない。離さなければその闇に吸い込まれてしまいそうなのに、離せば何かを失うようで怖かったのだ。


「美しい姫君よ、可愛い騎士(ナイト)君を苛めないであげてくれ。それに、街の人々も怖がっている。」


男からそれを聞いたレベスとティルはハッとし、周りを見渡した。すると、「あのお兄ちゃん一人で怒鳴ってるよ、怖いよ。」という男の子の声が聞こえ、ほかの人々もヒソヒソと話している。


「あっ、あの親子を助けなきゃ」


元々、そのために争っていたのだから、ティルが放心状態の今、レベスは自分の正義を貫こうとした。


「・・・・。あんたも俺を止めるのか?」

「いや、止めないさ。ただ、君にはやることがあるだろう?」


男はレベスが歩くのを手を伸ばし止めた後、どこからかカモミールの小さな花束を出して、「あちらは私が解決しよう。」と言い、その花束をを渡し、去っていった。


ティルが正気に戻り、レベスの手にあるカモミールを見た後笑う。先程とは違い、綺麗な笑顔などではなく、とても無邪気な、子供っぽい笑みだった。

あの親子の件も、どうやら男が解決していったようで街は、再び平和になる。

とても不思議な男であった。白のシルクハットに燕尾服。タクシーの運転手がしているような手袋も白、仕舞には白の仮面も被っており、その仮面がまた、何でも見透かすように笑っている。その白い服装のためか、右手に持っていた黒のステッキが一際目立っていた。


「ねぇ、あの男って私のこと、見たよね?」

「ん?当たり前じゃないか。見てないと『美しい姫君よ』とか言えるわけないだろ。くっそ、カッコつけやがって・・・。それがどうかしたのか?」

「いや・・なんでもないよ」


ティルは右手を顎に置き、何やら考え込んでいる様子だったが、ティルと仲直りしたばかりのレベスは安心感と嬉しさで頭がいっぱいになっておりティルもまた、そんなレベスを見て、また微笑んだ。






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