異世界から来た青年の元にどうやら僕っ娘がくるようです。3
「じゃあ、続きを話そうではないか!」
ティルはノリノリで言った。
「それで、異世界人対策として、税をより多く貰って、この世界から消そうとしたんだ!」
ハキハキと元気よく言うティルを、レベスは呆れて見ていた。
「因みに税、っていうのは魔力とか、精力とか、霊力とか、神力とか色々だね。まぁ、この世界にいる生物?神?悪魔とかいっぱいいるから、それだけ税の種類も増えちゃうんだ。それに、税がないとこの世界は保てないからね。」
何故悪魔だけ、はてながついていないのか不思議に思っていたレベスだが、いつものことだろうと気にすることはなかった。
その後もティルの長い説明と雑談を聞いていたレベスだった。
簡潔にまとめると、レベスは異世界人のため、通常の約10倍の魔力や精力をとられ、身体を維持出来なくなり、再び世界に順応しようと勝手に木に戻った、ということだ。
「じゃあ、魔法、使ってみる?」
〈来たぁぁぁぁぁ!!!!!〉
これを待っていたと言わんばかりにはしゃぎ出すレベスはまるで、初めてプリンをプッチンする幼児そのもののようだった。
「私の言う通りに唱えてね!」
〈わかった〉
「【炎よ来いッ!】」
小さいツを入れる必要があったのかはわからないが、ティルの右掌の上には確かに大きな炎があった。
その青い炎をティルが両手を合わせ消したかと思えば、少しずつ手を開いていくと、その動きにあわせるように炎も大きくなっていく。最後にもう一度右掌に炎を浮かばせ、ふっ、と息を吹きかけると、炎は消えた。
「因みに、レベスは空中で・・・・・あー、やっぱいいや。」
普通、こういう類の魔法は、空中もしくは地面に魔法式を描き、それを具現化する。だが、空中で魔法式を描くことは人型魔法師や妖精、悪魔など四肢のあるものに限り、かつ、『魔力』を持っていないと出来ない。
レベスの場合、今までの詠唱は想うことによって成功させてきたが、それもティルが側にいてその手助けを常にしていたという例外にすぎない。ティルは話しているものの感情を読み取れるため、それを具現化していたのだ。だが、何でもかんでも詠唱をしたものの感情を読み取り、具現化しているわけではない。
ティルがそれをするためには大きく分けて2つ、クリアしなければならないことがある。
1つ目は、ティルのみが使えるオリジナル魔法の使用、または、ティル本人の許可を得た、ティルのフルネームの入った詠唱。
2つ目は、ティルが感情を読み取れる相手のみであるということだ。
〈炎よ来いッ!〉
ゴオォォ
レベスの手から見事に青色の炎が出る。その炎はどんどん勢いを増し、留まることを知らない。
〈あっち、アッツ、やばいって、ちょ、笑えない。笑えないから。自滅とかマジ笑えないから?!〉
炎の勢いが留まることを知らないのも当然だ。何せ、炎を大きくするときに必要な空気はもちろんのこと、炎の目の前には大好物の│材料《木》があるのだから。
「あっ、レベスって、木だったね。ごめん。すっっっかり、忘れてたわ」
どう見てもわざと、である。
そんな悪態をついているティルだが、【水よ来いッ!】と魔法を使い、│レベス《木》の炎を消化した。
〈お前ッ、何でこんなことっ。俺、マジで自滅するとこだったじゃねぇーか!〉
「うん。だから、私を信用しすぎるなってことだよ。それは、教訓。覚えておくといいよ。私はそんな、出来た妖精じゃないことを・・・。」
〈・・・・・。〉
少し強く言い過ぎてしまったかとレベスは思ったが、どうやらそのせいではなさそうだと言うことが、ティル自身を見ればわかる。何か、自分を責めているような、貶しているような、そんな感じがした。
「何てことは置いといて、レベスに朗報だよッ!人間の姿を保っていられる方法があるんだけど、聞く?聞く??」
先程の雰囲気はどこへやら。ティルはもう、いつも通りのティルになっていた。そこで初めてレベスは、こいつは強い。そう確信していた。
〈そんな方法があるならはやく言えよッ!今までの自滅やら何やらは無意味だったと言うことか~?!〉
「いえいえ、レベスさん。とても重要でしたよ~。多分。」
〈おいっ。〉
ティルはすっかり元通りになっていたので、レベスも余り深追いするのは良くないと、先程のことは一線引いて、自分の奥の方にしまっておいた。
「はい、これ」
〈何だよ?何かの薬か?〉
ティルに渡されたそれは、黄色のカプセルのようなものが入った小瓶、白色の錠剤のようなものが入った小瓶、黒色の錠剤のようなものが入った小瓶の三つだった。
小瓶はコルク栓でしっかり密封されていて、そのコルク栓の真ん中辺りから出ている鎖は、小瓶のネックに巻きつけられている。
「これは、レベスを元の姿に戻す薬。効果は何と10時間!!どう?すごいでしょ!」
〈現実をようやく見つめられる気がする。〉
嬉しさからか、葉がより濃い緑になる。
いつの間にか、綺麗な鳥がやってきて巣を作り始めていた。
「あっ、でも1つ問題点があるんだー。そりゃ勿論元の姿にはなれるよ。時間もその通りだけ効く。でもさ、よく考えてみて。無償で何かを得られると思ってる?」
〈・・・・・。〉
レベスは何も答えられなかった。否、答えたくなかった。
こんな夢のような幻想的な世界に来てしまったからこそ、どこかの漫画や小説のような、どんどんと主人公が覚醒していき、仕舞いには全てを守れるくらいの力を持って悪を制す。そんな事を夢見過ぎていたのかもしれない。
「と言っても初めの黄色いカプセルの入った小瓶は安心していいよ。レベスには何の害も持たないから。まぁ、数には限りがあるけどね~。因みに言っておくけど、黒と白のは絶対に飲んじゃ駄目だからね。飲んだ瞬間、レベス、死ぬよ。」
〈何ッ!?〉
ティルは人差し指をあげ、レベスに脅しをかける。だが、その後クスクスと笑い出し、驚き過ぎて面白いわ、と言った後、木の周りを飛び始めたかと思ったら急に腹を抱えて笑い出す。その様子にレベスは、さっきあれほど驚いてしまった自分が馬鹿馬鹿しく思えた。
「あっ、でも、白か黒のを飲んだら、それだけレベスは消えてくから。これマジね。」
〈そうかそうか。よーくわかったぞ。〉
「ん?何が?」
〈俺は・・・。俺は_____〉
何故か涙ぐみながら言葉をためるレベス。それに段々と苛ついてきたティルは無言でポコポコと木を叩く。だが、やはりその攻撃は全然効いていなかった。
〈俺はハーレムを__桃源郷をつくれるんだ~!!!!!〉
レベスのその大きな想いが体全体を揺さぶり、木で巣作りをしていた綺麗な鳥も、何処かへ飛んでいってしまった。
ティルも、その予想外の言葉に呆れるしかなかった。
「【炎よ来い】。レベスを焼き尽くせ。塵1つ残さないくらいに。」
〈えっ?ちょっと、ティルさん?何をなさっているの?・・・・・って、ギャァァァ!!!アッツ!あついあついあついっ!!!!すみませんっ、もう調子乗りませんから~!!〉
レベスの余りに馬鹿な発言に、ティルは何と言うこともなく、ただ、すごくいい笑顔でレベスを燃やしていた。